表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無色の令嬢と氷の辺境伯 〜魔法のない世界で、貴方の瞳に映る私だけが本物でした〜  作者: 寝不足魔王


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/59

第7話:指先の温もり

極限の寒さの中で、アイリスを襲った高熱。

孤独だった彼女を救ったのは、辺境伯の「温かい手」でした。


 意識の輪郭が、熱の中に溶けていく。

 慣れない北方の寒さと、緊張の糸が切れたせいだろうか。あの日から無理を重ねてきた私の身体は、ついに重い熱に支配されていた。


「……あ、……ぁ……」


 浅い呼吸を繰り返すたび、喉が焼けるように痛む。

 暗闇の中で、過去の記憶が呪いのように蘇る。セレーナの冷ややかな嘲笑、エドワード様の背中、そして雨に濡れて重くなったアメジストのドレス。

 私はうなされながら、無意識に何もない空間を掴もうと指を伸ばした。


 その時、熱を孕んだ私の指先を、ひんやりとした大きな掌が包み込んだ。


「……落ち着け。ここにいる」


 低く、落ち着いた声。

 闇を裂いて届いたその響きに、私の心臓が小さく跳ねた。

 薄目を開けると、そこには寝台の傍らに椅子を寄せ、私の手を握るリュカの姿があった。

 普段の厳しい表情は影を潜め、灯火に照らされたその横顔には、祈りにも似た静謐な色が浮かんでいる。


「リュ、カ……様……? どうして……」

「黙って寝ていろ。医師が来るまで、まだ時間がかかる」


 彼は空いた方の手で、冷たく湿った布を私の額に当てた。

 辺境伯自らが看病するなど、王都の常識では考えられないことだ。本来なら、私は畏れ多くて辞退しなければならない。けれど、熱に浮かされた頭では、彼の手から伝わる「ひんやりとした心地よさ」を拒むことができなかった。


 リュカは、私の指先を一本ずつ確かめるように、静かに、だが力強く握り直した。

 魔法が使えないこの世界において、病を癒やすのは、薬と、そして何より「他者の献身」だけだ。


「……君は、なぜこれほどまでに指先を痛めている。あんなに美しい刺繍を刺す指を、これほど蔑ろにして」


 彼の視線が、私の指の腹にある小さな針だこに向けられる。

 それは、エドワード様のために、セレーナのために、私が何千回、何万回と針を運んできた証拠だった。誰も気づかなかった、私の小さな痛みの記録。


「それは……、喜んで、欲しかったから……」

「馬鹿な女だ。そんなことのために、自分を削る必要などなかったというのに」


 リュカは吐き捨てるように言ったが、その指先が私の甲をなぞる動きは、驚くほど優しかった。

 彼の指が私の節くれだった関節や、小さな傷跡を一つずつ辿っていく。

 まるで、私の汚れた過去を一つずつ塗り替えてくれるかのような、丁寧な触れ合い。


 愛されたくて必死だったあの頃の痛みが、彼の指先の温もりの中に溶け出していく。

 私は初めて、誰かのために装うのでもなく、誰かの期待に応えるのでもなく、ただ「私自身」としてここにいて良いのだと、そう思えた。


「……側に、いてください……」


 熱のせいで漏れた本音に、リュカは一瞬だけ目を見開いた。

 彼は逃げようとした私の手をさらに強く握りしめ、そのまま自分の額を私の手の甲に預けた。


「……ああ。夜が明けるまで、君を離さない」


 氷の瞳を持つ男がくれた、あまりにも熱い誓い。

 私はその温もりに導かれるように、深い、穏やかな眠りへと落ちていった。


第7話をお読みいただきありがとうございます。

リュカ様、ついにデレの片鱗が……!

アイリスの努力の証である「指の傷」に気づいてくれるリュカの優しさに、

「もうリュカ様と幸せになって!」「指先の描写が切ない」と思ってくださった方は、

ぜひ【★★★★★】評価とブックマークをよろしくお願いいたします!

次話、熱が引いたアイリスの前に、ある「決断」が迫られます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ