第46話:仮初の隠れ家
王都の喧騒を断ち切る、リュカの「愛の檻」。
アイリスを誰にも触れさせたくない辺境伯の、剥き出しの執着が描かれます。
馬車が止まったのは、王都の華やかな目抜き通りから数本入った、静寂に沈む貴族街の一角だった。
高い石壁に囲まれ、蔦が絡まる鉄門。そこはリュカ様が王都に所有する秘密の別邸であり、外界からの干渉を一切遮断する「檻」でもあった。
「……今日からここがお前の居場所だ。許可なく門の外へ出ることは許さん」
馬車を降りた瞬間、リュカ様が私の腰を引き寄せ、逃れようのない力で抱きしめた。
彼の低い声が、冷たい風に乗って耳朶を打つ。魔法のないこの地において、物理的な隔離は最も確実な守護であり、同時に最も残酷な独占だった。
案内された室内は、北方の離宮に似て質実剛健ながらも、置かれた家具のひとつひとつに、リュカ様の並々ならぬこだわりが感じられた。特に、日当たりの良い窓際に設えられた作業机には、私が愛用していた針箱や、最高級の絹糸が既に並べられている。
「リュカ様……。これほどまでにしていただかなくとも、私はどこへも参りませんわ」
「……分かっている。だが、王都の空気はお前を汚そうとする毒で満ちている。エドワードやセレーナ、あいつらの視線がお前に触れることさえ、俺は我慢ならんのだ」
リュカ様は私の背中から腕を回し、私の首筋に深く顔を埋めた。
彼の熱い吐息と、かすかに香る革の匂い。
独占欲。
それは、救いであると同時に、肌を焦がすような重圧となって私を縛り上げる。
「お前はここで、俺のためだけにドレスを仕上げていればいい。……他の誰の目にも触れず、ただ俺の鏡として、そこにいろ」
彼は私の指先をとり、一針ごとに刻まれた針だこを、慈しむように、そして呪いをかけるようになぞった。
窓の外、王都の空はどんよりと曇り、遠くで夕刻を告げる鐘の音が響いている。
あの日、雨の中に捨てられた私。
そして今、この豪華な隠れ家に「愛」という名で閉じ込められた私。
けれど、繋がれたリュカ様の手の熱さが、私に教えてくれる。
この檻こそが、世界で最も甘美で、誇り高い居場所なのだと。
「……はい。旦那様。……貴方の視線だけが、今の私の光ですわ」
私は彼に身を預け、静かに瞳を閉じた。
仮初の隠れ家。そこで二人の想いは、外界の敵意を糧にして、より一層、濃密に絡み合っていく。
第46話をお読みいただきありがとうございます。
「許可なく出ることは許さん」というリュカ様の過剰な保護……!
魔法がないからこそ、こうして物理的に守るしかない独占欲がたまりません。
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次話、アイリスの帰還を察知したセレーナが、狂気の牙を剥き始めます。




