第45話:懐かしき王都の門
屈辱の場所から、栄光の帰還へ。
アイリスは、リュカの熱い手に導かれ、再び因縁の地へと足を踏み入れます。
重厚な石造りのアーチが、視界を圧するように迫ってくる。
王都ルミエールの白亜の城門。
あの日、雨の中で馬車から放り出された私が、泥にまみれながら最後に見上げた、拒絶の象徴。
(……戻ってきてしまったわ)
馬車の窓から見える景色に、心臓が痛いほど脈打つ。
かつては愛着を感じていた街並みが、今は色褪せ、どことなく澱んだ熱気を孕んでいるように見えた。
「アイリス、手を出せ」
リュカ様の低い声に導かれ、私は震える指先を彼の大きな掌に預けた。
彼は私の手を握りしめるのではなく、指を絡め、自らの熱を直接叩きつけるようにして拘束する。魔法のないこの地において、この肌の触れ合いこそが何よりも強固な結界だった。
「顔を上げろ。お前は罪人として戻ってきたのではない。俺が、この地のどの貴族よりも高く評価し、跪いた女としてここを通るんだ」
リュカ様の合図とともに、馬車がゆっくりと門を潜り抜ける。
検問の兵士たちは、先ほどリュカ様が蹴散らした騎士団の生き残りから報せを受けていたのか、恐怖に顔を引き攣らせ、道を空けた。
門を抜けた瞬間、沿道の人々の視線が馬車に突き刺さる。
かつて私を嘲笑った街の者たちが、今はヴォルテール家の猛禽の紋章と、その窓越しに見える私の――アメジストのドレスの輝きに、息を呑んで立ち尽くしている。
「……見て、あの女性。まさか、追放されたはずの……」
「馬鹿な、あんなに神々しい美しさだったか? まるで別人のようだ」
ざわめきが波紋のように広がる。
私はリュカ様の手に力を込め、真っ直ぐに前を見据えた。
王都の空気は相変わらず虚飾に満ちている。けれど、今の私の隣には、本質を見抜くアイスブルーの瞳がある。
「リュカ様……。私、もう怯えてなどおりませんわ」
「ああ。お前を汚す風は、俺がすべて遮る。……さあ、行こう。奴らの腐った常識を、お前の一針で塗り替えてやるために」
馬車は王都の目抜き通りを、傲然と進んでいく。
懐かしき門は、今や私の帰還を祝福する凱旋門へと変わっていた。
第45話をお読みいただきありがとうございます。
王都の門を潜るアイリスの、静かな決意が胸を打ちます。
「アイリス、堂々としていて素敵!」「リュカ様の隣が定位置ですね」と思ってくださった方は、
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次話、リュカ様が用意した王都の「檻」――秘密の別邸へと舞台は移ります。




