第38話:贈り物への返礼
アイリスからリュカへ、感謝と愛を込めた手作りの贈り物。
一針ごとに縫い込まれた想いが、北方の主の心を熱く溶かします。
それは、私の指先に残る最後の糸を使い切って仕立てた、一対の革手袋だった。
北方の厳しい寒さから、主の強靭な手を守るための鹿革。その手首の部分に、私は彼のアイスブルーの瞳と同じ色の糸で、目立たないほどの小さな刺繍を施していた。
「……リュカ様。お忙しいところ、失礼いたします」
夜の執務室。書類を検分していたリュカ様が顔を上げると、私は少しだけ震える手で、包みを机の上に置いた。
「これは……?」
「返礼です。貴方がくださった、数え切れないほどの贈り物への。……私にできることは、やはりこれしかありませんから」
リュカ様は慎重に包みを解き、その手袋を手に取った。
無骨な彼の指が、手首の刺繍に触れる。そこには、ヴォルテール家の紋章を囲むようにして、私の愛を象徴する小さな棘の意匠が縫い込まれていた。
「……お前の指は、まだ休んでいなかったのか」
リュカ様が低い声で呟く。彼は椅子から立ち上がると、私の目の前で、ゆっくりとその手袋を嵌めた。
誂えたかのように完璧な寸法。魔法が使えないこの地で、採寸をせずにこれほどの一品を仕上げるには、どれほど彼の手を、その動きを見つめ続けてきたか。
「……温かいな。お前の体温が、そのまま革に乗り移っているようだ」
リュカ様はその手で私の頬を包み込んだ。
革越しに伝わる、力強くも優しい圧迫感。
彼はそのまま私を引き寄せ、耳元で熱く、独占欲を滲ませて囁いた。
「これでお前の技術は、俺の手の一部になった。……王都へ行っても、俺はこの手でお前を離さない。誰にも、一瞬たりともな」
「……はい、リュカ様。その手が、私のすべてですわ」
私は彼の手袋を嵌めた手に、自分の手を重ねた。
宝石よりも重く、どんな魔法よりも確かな絆。
私が贈ったのはただの手袋ではなく、彼と共に歩むという、私の魂の誓いだった。
第38話をお読みいただきありがとうございます。
アイリス手作りの手袋……リュカ様の喜びと独占欲がさらに高まったようです。
「アイリスの献身が泣ける」「リュカ様の喜び方が男前」と思ってくださった方は、
ぜひ【★★★★★】評価やブックマークをいただけると嬉しいです!
次話、暖炉の前で静かに更ける「星降る夜の読み聞かせ」回をお届けします。




