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第50話:息をする抱き枕と早朝の膝蹴り

 フォレンス森の木々の隙間から朝の陽光がゆっくりと差し込み、40銅貨の薄い緑色のテントの生地を照らした。

 遠くから聞こえる鳥のさえずりが、朝の訪れを告げている。


 テントの中、レントの意識がゆっくりと浮上してきた。


 青年はまだ目を閉じたままだ。

 彼の脳が、周囲の物理的な感覚を処理し始める。


(奇妙だ。フォレンス森の冷気が全く感じられない。それどころか、体が異常に温かい。特に胸と腕のあたりが……)


 彼の胸を圧迫する柔らかい重みがあった。

 さらに、甘いラベンダーの香りと女性特有の香りが強烈に漂い、彼の嗅覚を塞いでいる。


 自分の寝姿勢に何か異常が起きていると感じ、レントはゆっくりと片目を開けた。


 彼の網膜を最初に迎えた光景は、乱れた長い紫色の髪の毛の束だった。


 レントの紫色の目は一瞬にして完璧に見開かれた。

 カクカクとした動きで視線を下に落とす。


 彼の論理システムは即座に神レベルのショートを起こした。


 カエンシスタ・サイチ。


 昨夜、『見えない境界線』を越えたら腕を切り落とすと誓ったはずの少女が、今や木の幹にしがみつくコアラのように、レントの体をしっかりと抱きしめていたのだ。


 少女の顔はレントの首筋と胸のくぼみに心地よさそうに埋もれている。

 彼女の規則正しい温かい吐息が、レントの首の皮膚を直接くすぐっていた。


 そして、レントを心臓発作寸前にさせた最大の要因は……。


 彼自身の左手が、カエンの細い腰に完璧に回されており、少女の体を自分に密着させるように支えていたことだ。


 昨夜の寒さから生き延びようとする生存本能が、二人の理性を完全に吹き飛ばしていたらしい。


 レントは苦労して生唾を飲み込んだ。耳の先が激しく熱くなる。

 この腕の中の時限爆弾を起こさないよう、彼は左手をゆっくりと引き抜こうとした。


 しかし、そのわずかな動きが逆にカエンを刺激してしまった。


「んんっ……」

 カエンは小さく寝言を漏らした。


 抱擁を解くどころか、少女はレントの腰に回した腕をさらに強く締め付けた。


「私の抱き枕……今日はなんだかすごく硬い……でも、あったかい……」


 彼女は目を閉じたままそうつぶやき、あろうことか、無意識に自分の頬をレントの広い胸板にすりすりとおしつけた。


 レントの忍耐の青筋と羞恥の青筋が同時にピクついた。


(このままにしておけば、こいつは一生俺をセクハラ男として非難するだろうな)


「おい、バカ女」

 レントは寝起きの特有のかすれた声で呼びかけ、可能な限り平坦なトーンを強制した。


「お前のこの抱き枕は息をしているし、お前を外に放り投げるのを必死に我慢しているところだ。起きろ」


 耳のすぐ上でバリトンボイスを聞き、カエンの眉が寄った。

 彼女のまぶたがゆっくりと開く。


 1秒……脳が光に順応するのに時間がかかった。


 2秒……彼女の紫色の目は、非常に見覚えのある白いシャツのボタンと茶色のジャケットの光景を捉えた。


 3秒……彼女が見上げると、自分自身のイケメンバージョンである平坦な顔が、5センチ未満の距離から彼女を見つめ下ろしていた。


 時間が止まったかのようだった。


 カエンシスタの顔は、物理の法則を無視したスピードで赤く染まっていった。

 ピンクから、トマトのような赤へ、そして茹でダコのような真っ赤へと。


「あ、あ、あんたっ……!」


 ――ドゴッ!!


 反射的な膝蹴りが、レントの腹部にクリーンヒットした。


「うぐっ!」

 レントはむせ込み、反射的に少女の腰から手を離した。


 カエンは光の速さで後ろへ転がり、背中がテントの壁に激突した。

 安い緑色のテントが激しく揺れ、倒壊しそうになる。


 少女は胸の前で両腕を交差し、まるでレントに服を剥ぎ取られたかのように、パニック状態で自分の体を隠した。


「キャアアアアッ!私が寝てる間に、私みたいな純潔な乙女に何をしたのよ、この鉄仮面のド変態!!死にたいわけ、ハァ!?」


 カエンの超音波のような悲鳴がフォレンス森の静寂を切り裂き響き渡った。

 半径1キロ以内の草食モンスターを叩き起こすには十分すぎる音量だ。


 レントは腹を押さえて顔をしかめながら、殺気立った視線で少女を睨みつけた。


「叫ぶ前にその大きな目を使え!」

 レントも苛立ちで声を1オクターブ上げた。


「誰が誰を抱きしめてたって!?お前が自分の馬鹿げた『境界線』を這い越えて、寒さのせいでヒルのように俺にくっついてきたんだろうが!」


「だ、だ、だってあんたの手が私の腰にあったじゃない!」

 カエンは震える指でレントを指差し、顔はまだトマトのように赤かった。


「あんた、絶対にこの状況をこっそり楽しんでたんでしょ!?この羊の皮を被った狼!」


「楽しむだと!?お前が飢えた熊みたいに俺を締め付けるから、危うく窒息死するところだったんだぞ!」


「レント様!カエンお嬢様!」

 突然、テントの隅からモロの甲高い声が割り込んだ。その青い光の目は激しく点滅している。


「私のモーニングレーダーが、お二人から異常な体温の上昇と心拍数の急増を検知しました!人間の繁殖(生殖)の儀式というのは、常に物理的な暴力から始まるものなのですか!?」


「黙れ、毛玉!!」


 レントとカエンは同時に叫び、モロに向かって鞄(枕代わり)やブーツを投げつけた。

 もちろん、それらは簡単に避けられてしまった。

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