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第46話:エルテリオンの草原と『拾い物』の重い代償

 ルメディアの巨大な鉄の門が、彼らの背後でゆっくりと閉じる。

 目の前には、果てしなく広がる大自然の光景だけが残された。


 排気ガスと摩天楼に満ちた、レントの元の世界の灰色の空とは違う。

 今日のエルテリオンの空は、信じられないほど鮮やかなサファイアブルーを誇示していた。


 白い雲がゆっくりと流れ、新鮮な草の香りと自由を運ぶ涼しい風が吹き抜けていく。


 遠くには、緑の大草原が海のようにうねり、

 ところどころに葉の茂った木々や、山々のシルエットが交じり合っていた。


「わあぁ……綺麗!」


 カエンシスタは両手を広げ、深呼吸をした。

 ポニーテールが風になびいて優雅に揺れる。


 少女は、まるでキャットウォークを歩いているかのような、

 自信に満ちた陽気な足取りで先頭を進んでいた。


 その後ろで、レントは安定したマイペースな足取りで続いていた。


 右手はズボンのポケットに突っ込み、顔はいつものポーカーフェイスを崩さない。

 それでも、青年の紫色の瞳は時折周囲の景色を見渡し、現代の喧騒がないこの静けさを密かに楽しんでいた。


「レント様! 左手に『花角ジカ』の群れがいます!」


 空中に浮かぶモロが、ツアーガイドのように報告した。


「焼くとお肉がとても甘い、下級の草食モンスターですよ!」


『甘いお肉』という言葉を聞いて、オレンジ色の毛玉が即座に反応した。


『ピューゥ!?』


 フィラ・バンはピタリと跳ねるのをやめた。

 長い耳がピンと立ち、鹿の足のローストを想像してよだれを垂らす。


 炎のウサギは草地に身を低くし、追尾ミサイルのように飛び出すための助走をとった。


 ――シュバッ!


 ウサギの後ろ足が地面を蹴るより早く、

 レントの手が素早くその首根っこを掴み、宙に持ち上げた。


 レントは、無力にぶら下がるウサギを氷のように冷たい視線で見つめた。


「地面で大人しく座ってろ」


 レントは短くたしなめた。


「お前が狩りなんかしたら、目的地に着く前に俺たちのエネルギーが切れる」


『ピューゥ……』


 フィラはふくれっ面をした。

 レントはそのウサギを再び草の上に下ろした。


 無料乗車(タダ乗り)に失敗し、今度は無料の鹿肉にも失敗したフィラは、

 しょんぼりとした顔で主人の足元を跳ね続けるしかなかった。


 ◇ ◇ ◇


 ――2時間後。


 太陽が頭の真上に昇り、朝の涼しい空気は肌を刺すような日差しに変わった。

 美しかった草原の景色も、今や単調に感じられる。


 先頭を歩くカエンシスタの足取りが、徐々に……遅くなっていた。


「ハァ……ハァ……」


 少女の息が荒くなる。

 カエンの肩がガックリと落ちた。


 背中の巨大な『拾い物』のバックパックは、今やレンガの山のように重い。

 オシャレ優先のブーツは長距離歩行に向かず、足は熱を持って痛んでいた。


 カエンは後ろを振り返った。

 そこには、2時間前と全く同じペースで歩くレントの姿があった。


 青年の呼吸は規則正しく、額には一滴の汗もない。

 彼のバッグは(中身がほとんど無いため)とても軽そうに見えた。


「れ、レントぉ……」


 カエンはかすれた声で泣き言を言い、足を止めた。


「何だ」


 レントも彼女の二歩後ろで立ち止まり、淡々と答えた。


 カエンは無理やり哀れみを誘うような笑みを作り、

 涙ぐんだ紫色の瞳でレントを見つめ上げた。


「足がすごく痛いの……。それに、このカバンが急に重くなって……」


「……」


「こ、心優しいカエンダ君? 私の代わりに……持ってくれない? ちょーっとの間でいいから!」


 レントは、甘えた声を出す美少女を絶対的に平坦な顔で見つめ返した。

 その瞳には微塵の同情もなかった。


「断る」


 即座に、簡潔に、そしてはっきりと拒絶した。


「うぐっ! あんたって男は! 疲れた女の子に紳士的に振る舞えないわけ!?」


 カエンは痛みを忘れ、イライラと地駄地駄を踏んだ。


「最初から言っただろ、必要最低限の荷物にしろと」


 レントは胸の前で腕を組んだ。


「水3本と『お菓子』のカバンを意地でも持ってきたのはお前だ、ナルシスト嬢。それはお前の拾い物で、俺には関係ない。自分の欲望のツケは、自分で払え」


 カエンの顔は、恥ずかしさと苛立ちで真っ赤になった。

 高級保存食(とお金)を隠している手前、中身を捨てるわけにもいかない。


「お、覚えてなさいよ、この鉄仮面! 目的地に着いても、絶対にお菓子は分けてあげないからね!」


 カエンはふくれっ面で脅し、残された僅かなプライドを振り絞って歩き出した。


 レントは小さく鼻を鳴らした。

 ほとんど見えないほどの薄い笑みが、一瞬だけ彼の口角を飾った。


「ご自由に」


 ◇ ◇ ◇


 太陽が西の地平線に傾き、青い空が黄金色の夕焼けに染まっていく。


 草原は徐々に狭まり、代わりに巨大な木々がそびえ立つ並木道が現れた。

 突き出した根と葉が天蓋キャノピーを作り、夕日を遮っている。


 彼らはついに、フォレンス森の境界に到着した。


 気温が急激に下がる。

 森の奥から吹く風は冷たく湿っており、葉のざわめきが囁き声のように聞こえた。


 モロが高度を下げ、青い瞳で木々の隙間の暗闇を鋭く見つめた。


「レント様、カエンお嬢様。フォレンス森の領域に入りました」


 モロが真剣なトーンで告げる。


「まもなく日が沈みます。夜の大自然は、捕食モンスターが狩りを始める危険な場所です」


 レントは立ち止まり、警戒を帯びた表情で森の奥を見つめた。


 そして、疲労で顔を青ざめさせているカエンの方を向き、深いため息をついた。


「今日のエネルギーの無駄遣いの授業はこれで終了だ」


 レントは、膝に手をついて身をかがめているカエンの横を通り過ぎ、

 大きな樫の木の下で足を止めた。


「ここで止まる。そのガラクタテントを張れ、お嬢さん。今夜は野営だ」

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