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遙かにヤンキー

「ただい わああ?!!」


玄関を開けて直ぐ 茶色の塊が勢いをつけて飛びついて来た。

「リキ!!ちょ、待てってば

遙音の顔を甘いキャンディに見立てて舐め回すのは ころころとした赤毛の柴犬、リキ。

「遙音おかえり」

明るい茶系のロングストレート、しゅっと締まった輪郭 威圧的な眼差しの中に、深い愛情を込め

「天使かよ!!」

我が子をぎゅっと抱きしめる

「あ、お邪魔します」

遙音の母親 ステラ・希空のあはハーフだとか言う話で 長年友人を務めている自身は 今更、此の熱狂的な帰宅の儀式に驚きはしない。

「おう、将宗か」

ゴリゴリのヤンキーとヤンキーの間に産まれた子供は

「母ちゃん。将宗さ、デートドタキャンされたってゆーから

「晩飯一緒に食おうって誘った」

間違いなく慈愛の天使。

「良いぜ?アタシの手料理、思う存分食ら 食っていきな」


   何か言いかけた


にやりと物騒な笑みに戦いたのは遠い昔の事で ステラ・希空は意外にも家庭的だったりする。

「じゃ 俺、先にリキの散歩行って来る」

上目遣いに遙音の周りをぐるぐると回っていたリキは 「散歩」の言葉に飛び跳ね出し

「リキ!着替える迄待てってば!

なら、手伝おう とばかりに遙音の体に両前足をかけ

「コラ!引っ張んな!」

制服のズボンを脱がしにかかった。


   犬だから許される行為だよな


頭の中で独り言ちていた、陰の傍観者は

「よーし、将宗。働かざる者食うべからずだ

「来い」

否応なしに表舞台に引き上げられた。

古風なセリフだが、理には適っている。其れなのに 何処か ― 校舎、或いは体育館 裏に呼び出された気分になるのは何故だろう。




寂れた公園の一角。

傾いた太陽の光が 歪な人影を映し出し 鈍い衝撃音と下卑た嗤い声が響く。


「おいおい、お前ほんとに狂犬ミナミかぁ?」

「入院してたんだってな。すっかりなまっちまって。かわいそーに」

「俺らが鍛え直してやんなきゃなあ?」


他校の制服を着た生徒が、地面に膝をつく南の腹を容赦なく蹴り上げた。そうまでされようと 南天河は無表情の儘、反撃もしない。嘗ては 道行く者を震撼させた、歩く凶器。其の鋭い眼光は失せ 虚ろな視線が灰色の罅割れたアスファルトを見ている。


「無反応かよ」


男が南の顔面目掛けて拳を振り上げ ―


「こらあああ!!何やってんだあーーーー!!」


往年の鬼教師を思わせるセリフが 透き通った声に因って、鼓膜を破る声量で発された。


「うおお?!」


居合わせた全員の心臓が 衝撃に跳ね上がり

「な … ! 何だあ?!」

振り返った男達の目に 先ず飛び込んできたのは


夕陽よりもゴージャスな、ゴールデンイエローの癖毛。牙を剥き、突進態勢に入った怒り心頭の柴犬を連れている 黒いジャージを着た小柄な少 ― の姿。


「へーえ。ミナミクンの知り合い?かっわいい~♪」

「お嬢さーん。どう?遊んでかない?」

男達はにやにやと嫌な笑みを浮かべながら、軽薄な足取りで近寄って行ったが


くっきりとした二重の、少し青の入った金茶色の大きな眸 長い睫

目を惹く程に可憐な少 ―  は、眼光も鋭く 黒いオーラを燃やし


「どっからどう見たって男だろ。此のアホ共があーー!!」


凶悪な声と共に、見事な蹴りを繰り出した。

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