遙かに好き
迷いのない動き。
近くに居た男の腕を掴むなり 鮮やかな一本背負いで、鈍い音と共にアスファルトに叩きつける。更には
「ぐは … っ !!」
襲い掛かって来た三人目の拳を躱しざまに、鋭い前蹴りを鳩尾に食い込ませた。最後まで一切躊躇せず、鮮やかな回し蹴りで四人目を沈めると
「ふん!」
仁王立ちする猛者の圧倒的勝利に バタバタと丸い尾を振って、忠犬が歓喜に沸いた。
「遙音」
パアァン!!
南天河の笑みは 大気を振動させる音を伴って両手でプレスされ
「ああ?何喜んでんだ?!
「恥じろ!!」
非情な怒声が落雷し、続きの言葉は一瞬で灰になった。
「…」
座り込んだ儘 じんじんと痛みを訴える両頬を宥める事も出来ない。
「無抵抗でやられてんじゃねーよ!!此のバカ犬!!
「やられたらやり返せ!!」
「うん。御免」
無意識に微笑んでしまい また殴られるかと思ったが
「立て!」
白い手が差し出される。細く、しなやかな其の手を
「わ」
取るや否や、思わぬ力に因って立ち上がっていた。
「ありがとう
「遙音優しー♪
「好き」
どれだけ殴られようとも 顔は溢れる心を隠せない。
「俺は嫌い」
飼い主の即答に、リキは其の顔をじっと見る。
「そう?俺は好き」
南が 当たり前、みたいなあっさりとした口調で返したが為に
「軽々しく言うな!」
ノリを嫌う飼い主が噛みついた。
「軽くないよ。本気だから」
恥ずかしげもなく堂々 とは此の事か。「本気」をぶつけられた飼い主は戸惑い、固まった。
リキは、焦れったい青春の一幕に ふしゅーと鼻から嘆息を漏らす。
嘘つけ って顔しろよ
「好きって言やぁ良いと思ってんのか?」
遊んでるよな?
「ダメ?けど、言わなきゃ伝わんないし
「ちゃんと届くまで、何回でも言う」
南の顔が 夕陽を浴びて、暖かいオレンジ色に染まっている。
狂犬ミナミがそんな顔すんな
揶揄ってんだろ?
真っ直ぐに見る 其の目に、輝く光を取り込んで
俺が好き?
ないない絶対ない
絶対 … って何だよ!?
「しれっと言いやがったな!
「途中で投げ出したら、ぶっ飛ばしてやる!!」
「え良いんだ
「もっと好きになった」
逃がさない。
「るっさい!
「いい加減 手、離せよ!」
体が火照るのは 南の手の体温が、心を伝えて来るからではない。
「嫌♪」
背後で溶けてゆく太陽と、同化した訳でも 南の情熱に、焦がされた所為でもない
に決まってるだろ!
「遙音
「全身痛い。抱っこして」
「デカい図体でほざくな!!」
あ、そこなんだ ― と南とリキの心が意見の一致を見せた。




