恋って何?
「今日 ウチの店来る?」
気持ちの籠っていない誘い方だ、とは自覚している。
「何で?」
太陽は灰色の雲に覆われ、其の姿を隠しているのに 熱気は未だ冷めやらない。
降りそうで 降らなさそうな はっきりとしない天気だった。
間延びした様な終業のチャイム音まで、無気力に聞こえて来る。
「何でって …
― 此間のコ、次はいつ来るの?
― また誘って来てよ
― ね、一生のお願い!
人生が周回プレイに入っている 「バイト先の女子連中お願い多過ぎ問題」を語らせれば、自身の右に出る者はいない。
「何となく」
其れも此れも 恋愛拒否勢の
「雑か
「今日は駄目
「此れからデート」
え …
待て待て待て
お前 今 デ
近くの席で、聞き耳を立てていた女子達の口が軒並み開くも 空気の振動で押し止められた。互いに顔を見合わせるなり 「嘘」「今何て?」と白熱のテレパシー会議が始まる。
ヤバい
「そっか。じゃ、俺も行くかな」
此の後、敵陣に一人取り残され 追及の銃弾を一斉に浴びる恐怖に戦く心が 置いて行かないでくれ、頼む 一生のお願いだ と叫んでいる。
「は?」
は?じゃねーわ!
お前の所為だろが 助けろ!
「いや、途中まで」
射馬爽は唯一の友の頼みを ふーん、別に良いけど と胡散臭げな顔付きで請け負ってくれた。
『やっぱ顔が良いよね~』
顔が好きなだけで 本当の「自分」を好きな訳じゃない ―
素顔を知る事もせず 妄想で作り上げた偶像に、エゴの好意を向けて来る だから、優しく出来ない。突き放す言葉を選んでしまう と言う気持ちは分かる。だが
自身の硝子の心を守る事に尽力し 十年も続いて来た友情を、ぞんざいに扱って良い理由にはならないだろう。
背中に刺さった視線の鏃は、校外の湿った大気の中に溶けてゆき 脱出の成功に一息吐いた。
「で
「何、デートって
「そんな相手居たっけ?」
並んで歩きながら 何気ない素振りで灰色の空を見上げる。
「何処までついて来る気?」
俯いて隣を歩く爽は、冷めた口調で返して来たが
「其処まで
「つか もじもじすんな
「キモい」
校舎を出て一言も発さない儘、歩を進めるごとに 気もそぞろ に拍車がかかっていた。
「はあ?!キモ … ! な」
的確な指摘に心臓が飛び上がったらしい。一気に染まった頬が 稀に見る赤さになっている。
「え嘘。ガチ恋?」
俄然、興味が湧いて来た。
「何コイツ。ウザ」
ふいと顔を背け 平静を装って、必死の抵抗を見せるところが又何とも言えない。
「いやいや、お前も遂に … いって!!」
揶揄い過ぎたのか 言い終える前に鞄で強か殴られた。
何が嬉しい、と癪に障るも 友人は何時も自分の心に正直に生きていて ― 何時も 拗れた自身の心を解き 十年 変わらず傍に居てくれた。此奴の前でだけは
「… 恋じゃねーし」
素直になれる。
「へー。じゃあ何?」
「鯉」
「ん?」




