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ラッキーボイス

部活の約束を交わす声、寄り道を相談する声 肩が触れ合うたびに、放課後の廊下に楽しげな声が弾む。


「ね、見て。これ」

「何?」

「三毛猫パフェ」

「ええ、可愛い~っ♡」

「でしょー?

「先週駅前にオープンしたばっかりでさ

「結構並ぶみたいなんだけど 今日、行かない?」

「行く行く!!」




『今日、行かない?』


少し前を歩く女子二人の会話が耳に飛び込み ― 端を影の様に歩きながら 其の言葉を頭の中でなぞった。

思いをすっと相手に伝えられる彼女が羨ましい。自身の口から零れるのは溜息ばかり。

未完成の誘い文句が、出口を見つけられずに心中を渦巻いている。


なのに 何故


忘れ物を取りに戻った教室に あの男が居るのだ。

入りかけた足は見事な瞬発力で踵を返し 体は壁にぴたりと張り付いて同化する。

心臓が喉から出て行きたがったので、逃がすまいと口を固く結んだ。


幸い、あの男は机に突っ伏して寝ている。そうっと行けば、きっと気付かれない ― いや、無理だ。

爆発寸前の心臓の音が教室中に響き渡りそうで怖い。


「幽霊」になれ。お前の姿は誰にも見えない。いつもの事じゃないか。

深呼吸した後、意を決し 抜き足差し足で入って行く。

ロッカーの扉をスロー再生のように開き ―


「眼鏡クン … ? 

「忘れ物?」


   ぎゃあああああああああーーーー


反射で振り返った月彦を 寝ぼけ眼の宮原怜勇が見ている。


「あ …


外れない視線に追い詰められ


「え … っと


灼熱で眼前の世界が気化してゆく。流砂に吸い込まれた体が動かない。

喉は干乾び、声が掠れた。


「眼鏡クン、今日暇?

「あのさ


― 今日、行かない?


「き … っ! 今日

「今日、行かない?!!」


宮原が自身と同じ事を言おうとしている ― 脳がそう察した。

唯の気紛れを真に受けて、此の先も勝手な思いにつけあがる前に 戦慄く唇は制止を振り切り

決断に至っていない事案を、見切り発車で実行に移す事で戒めたのだ。

打ち消せば 言葉は自身の分だけ。聞かなければ 是れ以上 宮原の心に淡い期待を抱かずに済む。


玉砕も本望 ― だろ?


「え」

宮原の目が大きく見開かれた。


   え、キモ

   って?

   分かってるよ


「あの … だから


   馬鹿。続けるな


「駅前に、店 が、 … 出来 て


   駄目だ。泣きたい


「嘘

「待って待って

「俺 今、誘われた?」


   … は?


「知ってるよ、猫パフェ

「行く行く!!」


   … あれ?

   デジャヴ?


宮原は嬉しそうに立ち上がると 月彦の隣のロッカーを開け、鞄を引き出す。

「今日のラッキーアイテム、効いた感」

砂漠の月夜のポストカードと、宮原の笑顔が 月彦の至近距離で叶わない筈の幻想を見せた。


   距離感 … !!


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