表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
13/18

駆け落ち少年

手話ではなく、独自の身振り手振りで「耳が聞こえない」事と「話せない」事を伝えてくれた。


一通り説明を終えたところで 少年は再びついとボールペンを差し出す。


   いやいや

   さっき其れで俺の心読んだよな?

   絶対読んだだろ


じりじりと後退してゆく柳木に、少年は怪訝な表情になり 次いで、攻撃態勢に入った蛇の様に凶悪な目で睨み付けて来た。


   怖い怖い怖い


「ねえ、あれ何してんの?」「喧嘩?」

「脅してんじゃない?」「ボールペンで?マジ?」

不良にボールペンを突きつけられた自身の 切羽詰まった状況を見守る外野から 何か起こる事を期待した熱い視線が送られる。


   最悪だ


顔も忘れられる様な、薄っぺらい存在で日々を満喫しているのに。其れを


   どーすんだよ!これ


視線に焼かれて体が熱い。沸騰しては、蒸気となって 思考が消えてゆく。

落ち着け。

軽く無視すれば良いだけの事だ ― どっちを?


「あの、お客様


誰かが 店員を呼んだらしい。エプロン姿のスタッフに躊躇いがちに声をかけられ 心臓が跳ねる。反射的に体が動いた。

少年の手を、ボールペンごと掴むや否や駆け出し


白を基調としたショッピングモール内に 吹き抜けの天井から差し込む光の中を

何事かと振り返る群衆の間を抜けて行く ― 空間は まるで


   駆け落ちしてるみたいだな


電流の様に、繋いだ手にびりっと走る 「驚き」。


   しまった 読めるんだ


慌てて手を離す。少年は、振り返った柳木の視線をふいと躱した。


「あ … っと。悪い

「違くて

「唯の、例え

自分でも何を言っているのか分からない。抑々


   あ、そうか

   耳が聞こえないんだよな


言葉を伝えるには ―


ちろ、と少年が此方を見る。柳木が何か言っているのを雰囲気で感じたのだろう。

極力目を合わさない様にしながらも 少年はボールペンを差し出してくれた。

先端を掴む。


御免

逃げる事でもないよな

あんまり恥ずいからさ

サイレント劇


柳木の顔を見る目に、冷淡な色が浮かんだ。


狙い通り。

少しばかり胸が痛んだが 苦悩の地獄に落とされる未来は回避した。自身の行動が招いた惨事とは言え 煩わしい感情に振り回されるのは真っ平だ。人付き合い等、精神の消耗でしかない。


其の直向きな目に映る世界を 同じ様に見てみたかった


其れだけだ。其れ以上の事は求めていない。

心を逃がす為に 波風立てない人生を歩む為に

自身の口は嘘を吐く。

手を離そうとした 瞬間


『作り笑いすんな

『全然恥ずかしくねーし』


   え …


其の目に視界を奪われ 躰は「声」に魅入られた。


   え?え?!

   声 … !


柳木のリアクションを受けた少年は 満足気に、にやりと笑う。


『強引に攫って来たからには、責任取ってくれんだよな?』


蛇に睨まれた蛙 ―


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ