第五十話 最後の一撃はあっけなく
考えるより先に体が動いたのは自分でもびっくりだったが、学生時代にはまっていた格闘ゲームの事を思い出すと出来てもおかしくはないなとも思った。
相手の技をガード後、10Fや17F有利になる技に対して、最大確定反撃を難なく決めていたあの頃を思い出せばこういうことが出来てもさもありなんって感じ。まぁ今回は持ちキャラではなくて自分自身が動けたのはすごいけども――
「んにゃーー」
シエラが落ちる、と認識したと同時くらいに俺の腕は伸びていた。その腕には絶対に手を離してはいけない命の重みを感じる。今俺とシエラをつないでいるのは抱っこ紐とこの腕だけ。
解きかけだった抱っこ紐が、重みを分散してくれてどうにかなってはいるが、解けきったりしたらこの片腕だけでは耐えられる気がしない。だからそうならないように俺はシエラにこう言った。
「絶対に助けるから、暴れるなよ」
こんな事を言うのはもう一つ訳がある。
間一髪でつかんだのはいいものの、つかんだ先がよくなかった。
だってさ、つかんだのはシエラの尻尾だったんだよ。
「ふぎゃー! にゃーの尻尾がとれちゃう、とれちゃうにゃーー!!」
尻尾のない俺には強度など見当がつかないが、慌てているところを見るにそこまででもないのか? 痛がっているのもかわいそうだし、こっちの握力もいつまでもつかわからん。シエラのためにも早くどうにかせねば。
「こっちで踏ん張るから、お前は抱っこ紐を伝って登ってこられないか」
俺が『アダマンタイトフォートレス』にしがみつき、その間にシエラに登ってきてもらう作戦だ。片手を離すリスクがあるが、このままではジリ貧。握力が残っているうちに一気に決める!
あとはシエラがこの話に乗ってくれるかどうかだが――
「それでいくにゃー。にゃーの尻尾も、もう耐えられそうにないにゃ」
「いい返事ありがとなー。じゃ、一気に行くぞ」
「んにゃー!」
「「せーの」」
シエラが抱っこ紐を両手でつかみ、そこに体重をかけたのを確認してから、即尻尾から手を離し『アダマンタイトフォートレス』に両手両足でしがみつく。あとはシエラが登ってくるまで死ぬ気で耐え抜くだけだ。
「んっんっ」
く、くるしい。
「んっんっ……。痛いにゃ」
が、がんばれー。
「ん、ん、もう少し、あともう少しでいけそう、にゃ」
こんな状況で不謹慎すぎるのだけど、色っぽい吐息をもらしながら汗ばんだ体を密着させて登ってくるシエラがエロくてな……もう少しで俺がどうにかなりそうだったよ――
「ふぅ~一時はどうなることかと思ったにゃ」
「そりゃこっちのセリフだ」
腕の痛み以外にも別のことで耐えていたことを悟られないように俺は素っ気ない返事をした。
「アキラには迷惑ばかりかけてしまって申し訳ないにゃ」
「お互い気を付けようぜ」
「んにゃ」
「さてと、どうやって登ろうか?」
二人して頭上を仰ぎ見る。
これから登る甲羅の部分は、つかみやすい皮膚のあった足とは違い、つかんで登るという事が出来ない。登ろうと思えば登れるかもしれないが、揺れなどの不測の事態に耐えられないことは少し考えただけで分かった。つかめなきゃ汗で滑ってスッテンコロリンてなもんですよ。
俺がうんうん唸って悩んでいるとシエラからある提案がされた。
「にゃーが先行して、足場を作るにゃ」
「足場を作る? お前が?」
「なんか失礼な言い方にゃ……」
「いや、だってお前。そんな特技一度も話題に出したことないじゃん」
「確かに言ったことはなかったけど、にゃーは元々冒険者なのにゃ。このぐらいの事が出来てもおかしくはないはずにゃ?」
「それはそうかもしれないけどさ、でもなー」
「ふしゃー! アキラは本当失礼な奴にゃ。こうなったら実際に見せてやるにゃ。目ん玉かっぽじってよく見ておくにゃ!」
出会って数日で既にぐーたらな駄猫に片足、いや両足を突っ込んでいただけにできると言われても本当ですか~? いぶかしんでしまう。
ただ、率先して提案してきただけに自信はあるようだ。そこは信じよう。
「まずは足場を作るために穴を開けますにゃ」
簡単にいうけど『アダマンタイトフォートレス』の甲羅は固いぞー。
「んにゃっ」
そう言って『フォートレスデストロイヤー』を甲羅に突き立てると、簡単に穴が開いた。あと微妙に『アダマンタイトフォートレス』にダメージが入った。
「そして、これをこうっ! にゃ」
できた穴に胸元から出した金属のようなものをはめ込む。それからこれまた胸元から出した筒の中に入っていたものはそこへ流し込む。それで簡易的な足場の完成である。すげーな。
「これどうなってんの?」
「今回は工房で出た端材や失敗作に、にゃーのかか様が作ってくれた特殊な瞬間接着剤をあわせた合作品にゃ」
「へー。てか、瞬間接着剤? そんなのもあるんかこの世界」
「あるのにゃ」
冒険者としてこっち方面の能力に正直期待していなかったのだが、先行するシエラは手際よく足場を設置してくれた。瞬間接着剤と聞いて強度が少し心配だったが、先行するシエラを信じて俺も後に続く。
「こんなもんいつも持ち歩いていたのかよ」
「冒険者ならこのくらい当然にゃ」
「冒険者ねぇ~」
「……定期的ににゃーのカッコイイ部分を出さないとダメ見たいにゃーね」
「そういうこと」
こんな感じの言い合いをしながら登る続けていると、安定性がありすぎた足場のおかげで前半部分よりもだいぶ楽に頂上へたどり着くことが出来た。
「着いたにゃー」「着いたーー」
ここまで来ればほぼ目標は達成したと言っていい。あとは落下に気を付けつつ、『天の声』に教えてもらった手筈通りにやるだけ。バランスを保ちながら俺は事前に聞いていた目印を探した。
ありがたいことに探し物はすぐに見つかる。前回の討伐未遂の時には気づかなかったが、甲羅の中心部に青白い紋様があって目的地はここだと言わんばかりにすごい目立っていた。自分たちがいた地表からではパース上見られない場所だっただけで最上部ではこんなことになってたんね。
まぁそれはいい。
目的のものが見つかったのでやるべきことをやってさっさと済ましてしまおう。頂上のここもそこまで安定感があるとはいえないしな。
「シエラ、そっちの短剣使わせてもらっていいか?」
そっちと指さしたのは『フォートレスデストロイヤー』のほう。今回はこれがどうしても必要になる。
「いいけど、なにに使うにゃ?」
太ももに固定していた鞘を外しながら、なんともなしに聞いてくるシエラの一言に少し心が痛んだ。すでにシエラの愛用品になっている『フォートレスデストロイヤー』がこのあとどうなるかを伝えるのは少し億劫だった。
でも、心を鬼にして事を進めねば、この無駄でタフな戦いに終止符を打つことが出来ない。だから今から起こることを事前に伝えておく。
「これからこれを神に『捧げて』『アダマンタイトフォートレス』を討つ!」
神というのはでたらめで、実際はシエラを説得するための方便だ。
「捧げるとどうなるにゃ?」
「無くなる」
「だったらいやにゃ」
即答。でも俺諦めないから。
「こいつを倒しきるにはどうしても必要な事なんだ。わかってくれ頼む」
「い、や、にゃ!!」
一度渡した短剣を奪い返そうと、俺につかみかかってくるシエラをどうにか宥めようとする。まぁ効果なしなんだけど。
意外とこいつは自分の持ち物に愛着をもつタイプだからここまでは想定の範囲内。
そこまで知っているのでその点は心苦しいのだが、こんな強力な武器をあえて消費しなければならない理由が『アダマンタイトフォートレス』を倒すこと以外にもあるだけに、ここで譲歩するわけにはいかない。
これは俺も聞かされるまでは知らなかったことだったが、クリティカルすぎる問題なだけに避けては通れない問題だった。
でも、人を説得するのがこんなに難しいとは。
てか、シエラの腕力つぇぇぇぇぇな。
「返すにゃードロボー」
「落ち着けって」
うおおぉぉ。いつぞやもあった力比べが始まってしまった。当然シエラには力でかなわない。
「これを聞いても、平気でいら、れる、か、な? っていたたたた」
「何のことにゃ、早くいうにゃぁぁぁぁ」
少しだけ力が収まったので今のうちに言ってしまわねば。
「シエラ、落ち着いて聞いてほしい」
「んにゃ」
「その武器の力を使いすぎるとな」
「使いすぎると?」
「おバカになっちゃうんだ――」
「ほいっ」
説明の途中でシエラが『アダマンタイトフォートレス』の紋様に『フォートレスデストロイヤー』をぶっさした。これ以上おバカになるのはいやらしい。自覚はしてたんだ……。
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システムメッセージ
無事手放すことが出来たんですね。
盟約により『神雷の矢』を発射しました。
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『システムメッセージ』のあと強烈な光源を上空に感じ、そっちへ視線を向けると流れ星のようなものが遥か上空を旋回しながらこちらへ徐々に向かってきていることに気づいた。わーキレーだな。
それは螺旋めいたものを先端に感じさせるエネルギーの流れを持ち、さながらドリルのようだった。照準を直線上にある紋様にあわせるのが目的だったのか、上空でピタッと止まった。
それから次の局面に移行したと知覚できたときには既に、『アダマンタイトフォートレス』の紋様に深く、深くエネルギー体が突き刺さっていた。
そして『アダマンタイトフォートレス』の甲羅を突き破りながら血液を周囲にまき散らし、そのまま地面へ向けて螺旋の力で突き進んで貫通すると、すぐに地面をもえぐっていく。それからエネルギーの形態を変化させると、体の内側からエネルギー体が四方八方へ何度も何度もぶっ飛んでいき、大量の肉片とか血液と共に内部を破壊していった。
うぇぇぇ……グロテスクすぎる。内部ぐちゃぐちゃでしょこれ。
えげつねぇな。
これが『天の声』が言っていたエルフの究極スクロールの一つ『神雷の矢』の威力だった。だてにルナール王国の十年分の軍事費掛かってねーわ。
『イレギュラー』な存在だった『フォートレスデストロイヤー』はこれでお役御免だが、しっかり役目を果たしてくれた。短い間の活躍だったがとてもインパクトがあって一生忘れることはできそうにないな。ありがとう……『フォートレスデストロイヤー』。
まぁ残念ながらここまでやっても勝負は決まらないんだけどね。
正直『天の声』の対処法を聞いていなかったら、この後まもなく三度目の復活をする『アダマンタイトフォートレス』のしつこさに呆れて完全にさじを投げていたと思う。
いい加減こいつとのやりとりも飽き飽きだが、ここまでの工程も『天の声』に教わった攻略手順の途中で、フラグ立てみたいなもんなのだ。
それに、今の状態は将棋でいうところの一手詰み『王手』状態。あとは最後の締めを俺の鍛冶スキルで決めるだけなので気分がいい。ここからが俺の最大の見せ場だ。
今こいつは『神雷の矢』で体をぐちゃぐちゃにされただけではない。それ以外にも破損させられた部分がある。それは世界の理を無視した存在に対する『ペナルティ』で、どんなことをやっても修復不可能。
これを『フォートレスデストロイヤー』を犠牲にしたご褒美として今から利用させてもらう。
聞いた通りなら勝負は一瞬でつくはず。
目をつぶり、息を吐き、結果に備えて精神を集中する――
――よし、これならいける!
目を開くと同時に大声で、「これで終わりだ!」と叫び、俺は金槌を構え、大きく振りかぶると、そのまま『アダマンタイトフォートレス』へ叩きつけた――
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システムメッセージ
DATA ID:3205
ワールド内に6本目のエピックウェポンが誕生しました――
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