第四十七話 一発『一億ジェニー』のスクロール
バフ(buff)..バトルのあるゲームでよく見かける単語。バフ効果のあるアイテムや魔法を使うとプレイヤーキャラ等の能力値があがります。反対の言葉は『デバフ』で対象者の能力値を下げます。
グロリア王国の王子パーシャックは目を閉じ、両手を胸元付近であわせ一心に祈り続けている。オーラのようなものに包まれたその荘厳なたたずまいは、この世のものとは思えぬほどの美しさで、周囲の人間に不可侵な印象を与えていた。
普段は親しみやすい人間なだけに、このギャップはすさまじい。
同性の俺でもちらちら見ているだけでドキドキしっぱなしなのだから、異性だったらイチコロだろこれ。
そんな雲の上の存在が自分への視線に気づいたみたいで、閉じていたまぶたをパッと開いた。すると動かした視線がすぐに俺と合い、そのまま微笑までしてくれた。
俺にだけ微笑んでくれたのでは?
ああぁぁぁぁぁぁ~。
言葉にならない多幸感に包まれる中、唐突に学生時代の相方が推しの声優の単独ライブに行ってきた時の話を思い出した。
昔の事なので声優の名前は忘れたが「誰々くんと目線があった!」と興奮ぎみに話してくれた時のあいつの目の輝きと話の熱量は、強烈な思い出として今も鮮明に残っている。
当時は話を聞きながら「そこまで興奮することか?」などと思っていたが、同じような体験をした今の俺なら奴の気持ちが理解できる。マジでこんなに気持ちが昂っちゃう事ってあるんだね! あの時はすまんかった、相方よ。
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あ、あの。
もう、いいですか……? よさそうですね。それでは――
システムメッセージ
エピックウェポン:聖都の戦乙女の『王子の慈愛V』の効果が発動中。
グロリア国民/グロリア同盟国民/王子が愛する者に
戦闘中体力が回復し続ける
陣形効果超絶アップ
魔法吸収
バッドステータス無効
不意打ち無効
を付与
え? ちょっとぉ! これ誰が――やりすぎで――
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ちょっとおかしなシステムメッセージのおかげで意識を現実へと完全にシフトさせることが出来た。
にやけてゆるんだ頬を引っ張り、気持ちを一気に引き締める。
得られた情報で自分たちに何が起きているのか頭の中で整理してみる。『天の声』は俺にしか聞こえていないからな。しっかり理解しておこう。
といっても難しいことは言ってなかったので要点をすぐにまとめることが出来たけども。
こんな感じで。
戦場にいるグロリア、ルナール両国民に『天の声』の中の人が焦るくらい強烈なバフ(戦闘に役立つ能力アップ)が掛かっている。端的にいうとこうだ。
そんなバフ効果はグロリア国民の俺にもしっかり適用されているようだ。いつもより気分が高揚しているし、なんだか力が無限にわいてきているような気さえする。
これなら初めて戦闘面でも役に立つことが出来るのでは?
うんイケる、イケるはずだ。
強気になった俺は、いつのまにか戦場に戻ってきていた魔物の一匹に狙いを定め、一方的に戦いを挑む。
「うぉぉぉぉぉ! 観念しろい!」
――ダメだった。
まったく歯が立たねぇでやんの。初めてコインを入れた格ゲーで、熟練者に即乱入された時のような圧倒的な実力差がありました。こんなの筐体移動、じゃなくて、即逃げですよ即逃げ。
鍛冶仕事で得た筋肉にバフが掛かったらいけるでしょと思ったんだがなぁ。戦闘面の初期値が低すぎるのがここでまた足を引っ張った形か。無念。
まぁ、餅は餅屋ってことで。
落ち込んでも仕方がないし、マッチョな兵士たちの邪魔にならないよう鍛冶師としてやれることをやろう――
メイン盾だったシエラのいない戦場では、両国の兵士たちが多種多様な陣形を組んでは、シエラの役目を担いつつ『アダマンタイトフォートレス』の猛攻に対抗している。それと並行して戦場に紛れ込んだ多数の魔物とも戦っていた。
このような多vs多の乱戦を続けていると当然だが、装備している武器や防具の耐久値が目に見えて落ち始めていた。『アダマンタイトフォートレス』と戦っている最前線ほどそれが顕著だ。
戦っている彼らに必要なのは、装備の補修。何か役に立てるとしたら俺の役目はここだ。
俺はこの発見で戦場でのもう一つの居場所を見つけた気がした。
新規に武器を作ることは難しいが、切れ味の落ちた武器の研ぎ作業や、防具の修繕作業ならほかの誰よりもうまくできる自信がある。というか実際できる。
よしっ! やりますか。
『最前線系鍛冶師』カグツチアキラの誕生だ。
鍛治道具一式と最低限の防具を身にまとい、目についたところから作業に入る。
ユイリちゃんの愛用包丁を研いだ時のような研ぎ作業を楽しむようなことは一切せず、作業の効率を上げ、武器や防具を一心不乱に回収、修繕してまわった。
途中何度も魔物に襲われかけたが、その度俺の役割を理解してくれた仲間数人が作業中の俺を守ってくれた。彼、彼女らを信頼することで戦場の喧騒がまったく聞こえなくなるくらい夢中になって作業に没頭でき、その結果みんなの頑張りが高クオリティの装備品として生まれ変わっていったのだ。
こんな感じで。
グロリア王国式大剣+99
グロリア王国式大剣+99
ルナール王国式曲刀+99
ルナール王国式鎖帷子+99
グロリア王国式円盾+99
グロリア王国式長槍+99
ルナール王国式長靴+99
グロリア王国式大剣+99
グロリア王国式双剣+99
魔王直属臣下のガントレット+99
ルナール王国式短刀+99
などなど。
修繕しすぎて最初のほうしか仕事を覚えていないが、俺が直した武具はすべて+99のクオリティが付加され性能が大幅アップ。これらを装備した兵士たちは能力値が跳ね上がり魔物に対して圧倒的な力を見せつけ始めた。
どれくらい圧倒的かというと、魔物がどんなに巨体だったとしても、こちらの武器の切っ先を体にねじ込めた時点で一撃ですよ一撃。すごくない?
その後も快進撃は続き、雑魚魔物を蹴散らし続けた結果、情勢は多vs多から多vs個へと移っていた。
残りの『アダマンタイトフォートレス』さえ倒しきればこの戦いも終わる。最終局面だ。
まぁこいつがどうにもならんのですが。
エピックウェポンのバフに、俺が修繕してクオリティが跳ね上がった装備に身を包んだ兵士たちが束になってかかっても『アダマンタイトフォートレス』を倒しきるにはいたらなかった。
攻撃が一切通らないというわけではなく、幾度も流血させるほどの傷を負わせているのだが、その度自己再生めいたもので完全に治癒するので勝負が決する気配がまるでない。それどころか前回の戦いとは違い、時間が経つにつれて『アダマンタイトフォートレス』の攻撃が徐々に激化してきているような気さえする――
「うちのかーちゃんが俺の帰りを待っているんだ! いいかげにくたばりやがれ、亀野郎!」
「そうだ! そうだ!」
「しつこいやつは嫌われるぞ。いい加減諦めて地面でもなめやがれ!」
「そうだ! そうだ!」
勝負の決まらない戦いに兵士たちもフラストレーションがたまってきたご様子。
これ以上は聞かせられないよ! となるような罵声もちらほらと聞こえてくる。
そんなピリピリしているところに招かれざる男がやってきちゃったわけよ。
「俺様のためによくやってくれた! あとは任せるがよい」
マタカヨ。
金ぴか鎧という目立つ格好をしているのに『戦場で一度も見かけなかった』カイル王子が、馬上で大げさなポーズを取り、突如ラストアタック宣言。
いや、無理でしょ。と即突っ込みを入れたくなったがやけに自信ありげなのは気になるね。
何か秘策があるのかもしれない。こんなんでもルナール王国の王子ではあるし。
槍の刃を研ぎながら様子をうかがっていると、カイル王子は続けて声高にこう叫んだ。
「ルナール王国直属『エルフの代行人』、前へ出ろっ!」
「「「「「はっ」」」」」
この世界に来てから初めて聞くワード『エルフの代行人』と呼ばれた人たちは皆が皆、全身をすっぽりと覆うローブを着ているので容姿がうかがい知れない。正直少し不気味だ。
この『エルフの代行人』と呼ばれた人たちはあの馬鹿王子が注目を集めてまで投入したのだから何かの精鋭だとは思う。ただ、一体何ができる人たちなのかは今の情報だけじゃまったくわからない。
戦場で異質なのは全員が武器を持たず、代わりにサラサラで高級感を感じる質感の紙を持っていることか。その『どこかで見たことのあるサラサラな紙』をどうするのか固唾を飲んで見守っていると、全員が持っていた紙から文字のようなものが浮かび上がった。
日本語でもこの世界の文字でもないそれは、ポウっと光ったのち、いきなり燃え上がり焼失してしまった。
え、どういうこと?
とか思っていたら突然『エルフの代行人』達の腕に、雷を連想させるようなエネルギー体が生まれていた。
「一発一億ジェニーのエルフ共のスクロールだ。豪快にぶっ放せ!」
「「「「はっ」」」」」
全員が半身になって、雷のようなエフェクトがまとわりついたほうの腕を伸ばす。そのままの体制で照準を『アダマンタイトフォートレス』へあわせ、もう片方の手でその手首をつかみ一斉にこう叫んだ。
「「「「「ライトニング、アロォォォォォー!」」」」」
強烈な放電が一瞬見えて、ピカっと光ったと思ったら長大な雷の矢となった総額五億ジェニーの『ライトニングアロー』が、『アダマンタイトフォートレス』の甲羅をぶち抜いて大きな空洞を作り上げていた――




