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第三十九話 連続生存ボーナス

 


「これじゃキリがないにゃ……」

 そうつぶやいたシエラの表情に疲労といらだちが見え隠れしていた。

 よくない兆候ではあるが、こんな顔をしてしまうのも仕方がない――

 


 深夜から始まったこの終わりの見えない防衛戦は今や陽の光がまぶしく感じるほど時間が経過している。

 魔物を倒しても倒した分だけ『アダマンタイトフォートレス』の甲羅の上から増援がやってくるので一向に数が減っていかない。

 


 味方である連合軍が猫と亀のタイマンを邪魔させないようにとその都度新たな魔物の相手を引き受けてくれるのだが、長時間同じことを繰り返してきているので肉体的にも、精神的にも参ってきているのは明らかだった。 

 どうにかせねば……完全にジリ貧だ。



「頑張ってくれ。お前だけが頼りなんだ」

 話しかけづらくなっていたシエラに久々に声をかけた。

「……」

 返事が返ってこない。

 悲しいかな、ありきたりな励ましはシエラに全然ささっていないご様子。

 こんな時に気の利いた事が言えれば転生前コミュ症やってないわな。

 


「ふん、言われなくてもわかっているにゃ」

 ようやく帰ってきた答えは強気そのものだが、その言葉とは裏腹に自慢の尻尾は垂れ下がったままだ。この姿を見ていると『猫まっしぐら』の効果もそろそろ怪しくなってくるのではないかと不安になってくる。


 

 生き死にの可能性があるこの戦場で、シエラの心の支えになろうと思って傍にずっとい続けたが、戦うすべのない俺はシエラの動きの邪魔にならないよう動き回っているので精一杯だった。この異世界に来てから何度も味わう無力感だ。


 

 だが、ここでマイナス思考に陥って思考停止するわけにはいかない。

 自分でもやれることを考え、その導き出した答えに向かって力を行使し、この難局を打破するための楔を打ち込みたい。フィニッシャーはあくまでシエラや連合軍の仲間たちだから。

 

 

 よしっ。覚悟を決め行動を起こそう。

 というか猫と亀の戦いが膠着した時点でもっと早くこうするべきだったのだ。

 


 自分のやれること。

 それはチートな鍛冶スキルをこの難局で生かすことだ。



 この戦いのメインである猫と亀の戦いは、お互いがタフすぎて決着がなかなかつきそうにない。それはひとえにシエラが装備している『玄武短剣と同等のステータスを持ったグリーンタートルナイフ』の能力が防御寄りな性能なせいで『アダマンタイトフォートレス』の鉄壁を粉砕できない事が最大の理由だ。これは同時に相手にも言えることで、盾と盾が本気を出し合っていつぞやも見た泥試合が繰り広げられてしまっている。


 

 この盾と盾の戦いに一石を投じ、相手の盾を打ち破る『矛』を作るのが俺の役目。

 攻撃寄りな武器を作れさえすれば一瞬で片が付くのではないかと思っている。

 甘すぎる考えにも思えたが、ここは異世界で俺には都合よく鍛冶スキルが999もあるんだからそれくらいできてしかるべき。



 腹は決まったが、このプランの最大の難点は素材と武器を鍛造する場所の確保をどうするのかということ。…………これどうにかなりませんかね?



「ふにゃぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああ」

 突然の大声で我に返る。思考中でもシエラの動きにはついていけていたらしい。偉いぞ俺。

 とか言っている場合じゃなかった。現状を把握したらピンチとしか言えないことになってんぞ!?



 シエラが展開するバリアに『アダマンタイトフォートレス』の前足でのフットスタンプが真上から撃ち込まれていて、上からの圧力とそれに対抗するバリアの反発力で徐々に地面にめり込まされている場面だったのだ。

 


 シエラの気合でバリアは球体を維持しているがこれがあとどれくらい続くかわからない。

 下手すると数秒後には力尽き、ど根性カエルのようにぺしゃんこになっている恐れもあった。

 


 次から次へと難題が降りかかってきやがって! とか怒る前に打開策を導け。

 上を向いて『アダマンタイトフォートレス』の足裏を見る。へぇ~亀の足の裏ってこんなんなってるんだ。ってちがーーーーう。



 現実逃避をするんじゃーない! 頑張ってくれているシエラに失礼だろうが。

 戒めのためにぎゅーっとほっぺたをつねっていたらある名案が思い浮かぶ。完全に偶然の産物だし、失敗したら……いや、失敗のことは考えるな。



「シエラ、そのままで聞いてくれ」

「うっさいにゃ!」

 返事を返してくれる余裕はまだある。余裕のあるうちに早口でまくし立てる。



「バリアの膜の上に足がのっかってるだろ?」

「うっさいにゃ!」

 返事を……



「相手は重心を完全にバリアに預け切ってるから、バランスが少しずれるだけですっころぶと思うんだ。だからできるならこのバリア変形とかしてみない?」

 できない? じゃなくてしてみない? ってところがミソ。

 だってできなかったらお終イケル。 



「やーってやるにゃー」

 その瞬間、球体だったバリアに、斜め上から刀でスパッと切ったような急斜面が生まれた。バリアの真上から超強力な圧力をかけていた『アダマンタイトフォートレス』は重心を崩すと、前足を内側に滑らせ、見事にすっころんだ。



 そのすっころんだ衝撃でめりこんだ地面からすぽっと抜け出すことに成功。奇跡的に窮地を脱出できたようだ。

「チャンスにゃー」

 シエラはそう言ってここぞとばかりに距離を詰めていく。いまならノーリスクで攻撃し放題だ。やったねシエラ。こういう時の行動の速さには恐れ入るよ。

 


「これがにゃーの本気!」

 圧倒的有利な立場に立ったとたん邪悪な笑みを浮かべてシエラが襲い掛かる。

「シエラァァスーパーウルトラゴッドスラッシュュゥゥゥゥゥゥ!」

 


 長ったらしい必殺技名を叫んだのち、シエラの連撃が『アダマンタイトフォートレス』の全身を切り刻んでいく。 

 以前の必殺技と名前違うじゃんという些細なことは忘れてしまうほどの華麗な連続攻撃にさしもの『アダマンタイトフォートレス』も四足をジタバタさせ抵抗をみせる。

 効いてる効いてる。



「にゃははははは! にゃーの伝説のため、ここで息絶えるといいにゃー」

 どっちが悪役だかわからなくなるようなセリフを吐きながら攻撃を続けていくと、長時間に及んだ猫と亀の均衡がついに崩れる。

 


 これまで傷一つ付かなかった鉄壁の『アダマンタイトフォートレス』からいろいろな体組織が地面に落下し始めたのだ。それは分厚い皮膚の一部だったり、血液だったり、甲羅のかけらだったり、本当にありとあらゆるものだ。

 


 これいけるんじゃね? ジタバタしていた動きもやがて鈍くなっていき素人目から見ても生命力がだんだん失われて行っているのが見て取れる。完全に優勢といっていい状況だ。最後の詰めを誤らずにいければ勝利も見えてくるはず。

 って時ほど人って気を抜いちゃうんだよな………



 勝利を確信したっぽいシエラは『アダマンタイトフォートレス』に背を向け、魔物と戦ってくれている連合軍のみんなに向かってぐっとサムズアップし始めたのだ。いくらなんでも気を抜きすぎでは? これは注意しておかないとって――



 急に嫌な予感がして、その源に顔を動かす。すると長い何かに光が一点に集中していく光景が映った。それがピタッと止まると、その長い何かは『アダマンタイトフォートレス』のテイルであることがわかり、そこから極太の光線が俺たちに向かって照射される直前だった。

 


 瞬間、ぞわぞわっと体中に寒気が走る。

 シエラはまったく気づいておらず後ろを向いてサムズアップしたまま。バリアを張っているとはいえシエラにとっては完全な不意打ち攻撃。防御態勢が不十分な俺たち。

 これ死んだのでは?





===============



 システムメッセージ




『ぴんぽんぱんぽーーーーん』

 なんだなんだ?

 とんでもないタイミングで、いつものノーテンキな女の声が頭の中に響き渡った。



『アキラさんおめでとうございます~』

 なになになに、なんなの? 悠長に話をしている場合じゃないんだけど!?

 いままさに『アダマンタイトフォートレス』のテイルレーザー『仮』が俺たちに突き刺さりそうなんですけど?



『いやぁ~それはまぁ……大丈夫ってことで! それよりっ!』

 あ、都合が悪いから話を変えやがったな。



『この身寄りもいない厳しい世界で百日連続生存ボーナス達成でっす!! おめでたいですね~』

 はひ?

 なにそのソシャゲのログボみたいなシステム。初耳なんだが?

 

 


『細かいことはいいじゃないですか~』

 いや、結構重要なことだと思うぞ? 俺だってそろそろ知る権利をだなぁ――



『記念にこの中からボーナスアイテムを選ぶことができますけどどれにしますか? お姉ちゃんがそろそろ起きる時間なので『なるはや』でお願いします~』

 まったく人の話を聞いてくれねー




百日連続生存ボーナスアイテムを以下からお一つお選びください

 火のピクシーストーン 

 水のピクシーストーン

 土のピクシーストーン

 雷のピクシーストーン

 風のピクシーストーン

 闇のピクシーストーン

 光のピクシーストーン



 第三隕鉄

 神器ネジサウルス

 オリハルコン

 ヒヒイロカネ

 賢者の血石

 七兆ジェニー



 なんかレアなアイテムばかりなんじゃないかこれ?

 シエラのために武器を作るならピクシーストーンが鉄板だが、いつの間にか時間が止まっているこの状態から『アダマンタイトフォートレス』のテイルレーザーをはじき返す手段を探すのもありだと思う。平時だったら『七兆ジェニー』一択だが――



 ピピピピッピピピピッピピピピッピピピピッ

 


『あ、やばっ時間切れですアキラさん。こっちで適当に一つ選んで送っておきますね。それと勝手に制限されていたアキラさんの力を一時的に解除しておきました。はぁ~私ってなんて優しい女の子なのでしょうか……うあ、お姉ちゃんマジ切れ!? 急いで逃げなくては! それではまったねー』

 


 嵐のように過ぎ去った天の声は言いたいこと言って満足したのか聞こえなくなった。まともに会話のキャッチボールをしようとしたら疲れるし、いい加減このやり取りにも慣れないといけないな。

 それより! 天の声さんはいったい俺に何をプレゼントしてくれたのかな。

 都合の良すぎることはこの際忘れて、天からの力を最大限に享受させてもらおうじゃないか。 



===============



 システムメッセージ



 百日連続生存ボーナスアイテム『雷のピクシーストーン』を獲得しました。

 所持素材から合成品の検索が可能になりました。残り300秒、299秒、298秒――






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