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第三十八話 フォートレスと呼ばれる『所以』

 

 明確な討伐対象である『アダマンタイトフォートレス』へ一直線に向かっていく。

 行く手を阻む魔物達はその都度シエラのバリアに触れると、バチっと音を発したのち片っ端から空へ吹き飛ばされていった。こんな風に。

「ホンギャー」

「ギギギギギャー」

「……あのっ!……これマオーさ、キャー」

「ギャッギャー!」



 なんか変なのが混じっていたような気もするが気のせいだろう。

 たぁ~まやぁ~とかのんきな事を言いたくなるほど見事に空へ打ち上げられていく魔物達は回避方法のない個体はそのまま地面へ落下し、叩きつけられ絶命。それ以外は体勢を立て直し追撃を受けぬ空へ逃げ去っていった。

  


 駄猫の猪突猛進っぷりに舌を巻いていると、後ろからいくつもの足音があることに気づく。

 それもだんだんと増えてきているような? 魔物だったら、いやだな……。だが無視するわけにもいかない。

 思い切って思い振り返る。するといつの間にか俺たちの後ろに大勢の援軍がついてきていた。

 それは連合軍の兵士だったり、魔物を倒した時に生まれる戦利品を黙々と回収する正体不明の強面の集団だったりした。




 シエラの快進撃を見て英雄たちの猛攻を跳ねのけてきた『アダマンタイトフォートレス』をこの人ならワンチャンあるかも! と勝機を感じとって来てくれたのかもしれない。

 実際はどうかわからないが、後方から追いかけてくる邪魔な魔物をその都度蹴散らしてくれているのできっとそうに違いない。

 


 こんな一連の流れ作業を繰り返していると、数十メートル先にアダマンタイトフォートレスを見上げるポイントまでやってきていた。

 ここからが正念場なわけだが――




「さて、どうする?」

「んにゃーーーーーーーーーー!」

 おいぃー!?

 シエラは雑魚を倒した勢いそのまま、『アダマンタイトフォートレス』へ突っ込んでいった。



 パーシャックに何を吹き込まれたらこんな命知らずの火の玉ガールになるのか。

 ここまで後をついてきた援軍も、というか魔物達も一様にざわついてんぞ!?

 


 と心の中で突っ込んでばかりじゃいられない。

 バリアの加護範囲から漏れないよう俺もついて行かねばならないわけで。うおー待ってくれー。




「あの亀は絶対にゃーが倒す」

 やっとこさ追いついてシエラの横顔をちらっと見ると、「ふんす、ふんす」と鼻息も荒いし目も血走ってやがる。

 欲にまみれた人間の目だこれ!




「んにゃーーー!!」

「いやぁぁぁぁぁぁー」

 シエラは大声をはり上げつつ距離を一気に詰め、そのまま勢いだけで質量差を無視したタックルをぶちかましにいく。

 女の子のようなトーンでみっともない声をあげてしまった俺は、来るべき衝撃に備えて思わず目をつぶってしまう。

 そして間もなく『カキィーーン』と某ゲームのホームランバットを当てた時のような気持ちいい音が聞こえてくると、すぐ後に強烈な光がギュっと閉じた目に飛び込んできた。

 うおっまぶし――――



 

 ――痛みは……まったくない。

 どうやら生きてはいるようだ。

 すると気になるのは結果。そろりと目を開けてみる。

  


 

 おいおい、やるじゃんシエラ!

 網膜に飛び込んできた映像は、左前脚をひざまずきその場から動けないでいる『アダマンタイトフォートレス』の姿だった。

 衝突現場からは目測で百メートル以上後退し、地面には脚を引きづった大きな跡が出来上がっていた。

 

 


「やったな!」と興奮気味に声をかけたが、殊勲のシエラから返事がない。

 いない事にはすぐ気づけたのだが、どこへ行ったのかがわからない。周りを見渡すも見つからず。

 あれ? どこいった?



 そんな中「坊主ーー上だ! 上ー」と

 遠巻きで観戦している援軍から「上、上!」と声がかかりまくる。

 何のことだ? 上上下下的なサムシング?




 察しの悪すぎる俺に今度は罵声が飛びまくる。

「上を見ろって言ってんだよ馬鹿野郎!!」

 視線と指さす場所をたどってみると、どんなベクトルの力が加わったのか知らないが、上空へ高くぶっとんだシエラがバリアを展開したまま両手両足を広げ、物理法則にしたがって落下してきている場面だった。



「おいぃーーーーーシエラァァァ!」

 驚きが真っ先に来たのは間違いないが、それと同時に何ができるわけでもないのに落下地点だと思われる場所へ駈けていた。

 


 キャッチすればいいのか? いや、いくらあいつが小柄でもあの高さから落っこちて来られたら受け止めきれるわけがない。 

 でも。

 


 わかり切った答えが既に導き出せていようが、このままあいつが地面に叩きつけられるのを指をくわえて待っているのは違うだろ。全速力で落下予測地点に向かい到達すると、その場で心臓をバクバクさせながらキャッチ体制に入る。




 両手を肩幅にしたバレーのレシーブ体勢を取り、『どんとこいや! 男だって度胸じゃい!』と心の中で気持ちをみなぎらせ衝撃に備えた。  

 こんな感じに柄にもなく物語の主人公っぽい事をしてみたらシエラの落下は二、三メートル手前くらいで急ブレーキがかかり重力を無視した速度でゆっくりと俺の両手に無事収まった。

 初めて見せたこのムーブに思わず「ナニソレ?」と突っ込む。君は重力を自在に操る高貴なる猫なの?




「いやぁスリルがあって楽しかったにゃ~」

 遥か上空から見事生還したシエラさんの第一声がこれ。

 


 ひとつ間違えたら地面に自分のシルエットの穴が空いていたかもしれないというのにハツラツとした顔を浮かべてやがる。まるで簡易スカイダイビングを楽しんで来たような……ま、まさかな。



「お前なぁ、意識があったのなら反応返してくれよ。すっげぇ心配しただろ」

「にゃーも舐められたもんにゃ。無敵のにゃーに不可能の文字はないというのに……」

 カッコいいことを言って煙に巻いたつもりだろうが、そうじゃないことはすぐにわかった。

 


 正面衝突の衝撃で服はボロボロだし、ご自慢の尻尾は膨らんで毛は逆立っている。

 猫を飼ったことはないが、自分の好きだったアニメの猫キャラの同人誌に尻尾の事が詳しく書いてあったからその知識を現在の状況に当てはめると、こいつは人並みに『恐怖』を感じているはずなのだ。

 


 シエラを完全に猫とした場合の話ではあるが、尻尾で感情が駄々洩れなシエラの事だ当たらずとも遠からずだろう。

 そんなシエラに俺がかけるべき言葉は……。



「重いからおろすぞ」

 ちーがーうーだーろー。

 何を素っ気ないクール系気取ってるんだ俺は! こういうのはイケメンにしか許されないセリフ筆頭じゃないか。

「失礼にゃ! にゃーはそんな重くないにゃ。アキラが非力なだけにゃ――」

 ほら怒らせちゃった。



 デリカシーのなかった俺の発言に怒るシエラがゼロ距離まで詰め寄ったその瞬間! シエラのボロボロな衣服がファイティングバイパーズの脱衣コマンド入力後のようにはじけ飛んだ。(ちなみにコマンドは6464P+K+Gだぞ)

「んにゃ?」

 清い交際の者同士でしか見せてはいけないシエラのほぼ全てが俺の網膜に光速で届いた。



「うおっ! 見えてる! 見えてるって!」

 この瞬間だけ『アダマンタイトフォートレス』の事を完全に忘れていたよ……。

 『?』と首をひねったシエラは大事な所を隠そうとしない。なんでなのん? 羞恥心をお空に置いてきちゃったのん?

 後ろの援軍には俺が壁になっていて見えていないだろうが、唐突に『鶴翼の陣!』とかされたらバレてしまう。シエラの、いや! シエラのとと様の名誉のためにも娘の痴態を早急に隠さねばならない。 


 

 羞恥心がいまいち薄いシエラの肌を隠すため急いで上着を脱ぎ、シエラにかぶせた。

 っていうかオプションで尻尾穴まで作ってあげた。ふぅ~俺ってなんてジェントルマンなのだろう。

 


 シエラの胸と肢体を凝視続けた俺は一仕事を終えて汗をぬぐった。

「……ありがとにゃ」

「どういたしまして」



 こんなコント番組みたいなことしていたら事態は第二局面に移行していた。

 『アダマンタイトフォートレス』の大きな甲羅の上から無数の何かが飛び立ち向かってきているのが視線に移ったのだ。

 


 なんだあれ? と目を細めてみる。

「どうしたにゃ?」

 異変に気付いたシエラも後ろを振り返ると、とたんに嫌そうな顔になる。

 すぐ後、俺も全貌がわかり思わず「うわ……」と声が漏れてしまった。



 それは武装した魔物を背中に跨らせた飛行形態の魔物達が数えきれないほどこちらへ向かってきている光景だったのだ。しかもそれはまだまだ続くようで――

 『フォートレス』ってそういう事か。


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