第三十四話 いわくつきの双子と新たな脅威
パーシャック→『パック』
パーシャックの替え玉→『パーシャック二号』となります。
『賢王』と国民に呼ばれ愛された現ルナール王国の国王には二人の子供がいる。
姉が『ミレイユ』、弟は『カイル』といって二人は双子だ。
子供をなかなか授かれなかった賢王待望の跡継ぎということもあって、生まれてから二人は大層甘やかされて育てられた。そんな甘やかされて育った子供がどうなるかは火を見るよりも明らかなわけで……。
『賢王』が堅実に王国の財政を維持する一方で、二人は国の資金に手を付けてしまう。それは年を重ねるごとにひどくなる一方だった。普通は許される行為ではないのだが、王の子ということでそれが許されてしまっていた。特例というやつだ。
そんな構図がここ何年も続き、双子の浪費でルナール王国の財政に暗雲が立ち込めた頃、グロリア王国に今回の婚姻話が舞い込んだ。
ルナール王国側は双子のうち片方をグロリア王国に負担してもらって不良債権を半分にしたい、こんなところだろう。
この話をパーシャックに聞かされた時、難ありの双子の片割れとの婚姻など結ばないほうがよくない? と小市民の俺は簡単に考えちゃったが、「グロリア王国とルナール王国が結んだ盟約によりそれは無理だ」とパーシャックもとい『パック』が教えてくれた。
どの世界もままならぬものよのう……
「それと~」
「まだあるのかよ」
「あるんだなぁ~これが」
「それって――」
「パーシャック様の飲み物が空になっているだろ! 早く注いで差し上げろ」
話の続きを聞こうとしたその時、カイル王子の怒声が宴席に響き渡り場が一瞬で静まりかえる。
「は、はいっ! カイル様、申し訳ありません」
カイル王子の叱責に、見ているのも気の毒になるほどビクビク体を震わせながら給仕がパーシャックの替え玉をやっている『パーシャック二号』の元へ向かい、飲み物を注いだ。
嫌な気分にさせられたが、二人の生きる階級の差を考えるとこれが普通ではあるのよな……
パーシャックが特殊すぎてこういう階級社会の闇をすっかり忘れていたよ――
食事もあらかた済み、両国の会話がはずんで和やかなムードになったころ、ミレイユ王女がおかしなことを言い出した。
「パーシャック様、さきほどから気になっていたのですが、あなたの後ろで控えているあの者たちは?」
『あの者たち』とはどうやら俺たち四人の事を指しているらしい。ずっとこちらに視線を送りつづけていた。
「あの者たちのことでしたら、私の昔からの小間使いです」
そう言ってパーシャック二号は無難に答えた。
「そう、ですか。無理を承知でお聞きしますが」
「はい?」
中身は本物ではないパーシャック二号が、なんだか一瞬警戒したように見えた。マニュアル以外の返事には相当気を使うのかもしれない。
「『あれ』と『あれ』を私に譲ってくださいませんか?」
『あれ』と『あれ』と言ってミレイユ王女は満面の笑みで『パック』とシエラを指差した。
「姉さまずるいっ! 俺だって『あれ』には目を付けていたのに!」
「カイル、お前は姉の私に意見をするのですか?」
「ご、ごめんなさい」
あれだけ給仕に偉そうにしていた人間が、姉の恫喝めいた一言でうつむいてしまった。今の一幕で二人のパワーバランスが理解できた。姉つよし。
「じゃ、じゃあ! 『あれ』ならいいかな?」
そう言って一瞬で元気を取り戻したカイルは一転してライオットを指差す。
おいおいおい! この姉弟どうなってやがるんだ!? 言ってやれパーシャック二号!
「………………ミレイユ様、申し訳ありませんが、あの者たちは『物』ではありません。皆私にとって家族同然の大事な存在ですから、その申し出は丁重にお断りいたします」
「そう…………まぁいいわ」
ミレイユ王女は気分を一方的に害したようで、席を立ちお供を引き連れて外へ出ていってしまった。
「姉さまっ!」
姉を追うことよりライオットの方を名残惜しそうに見つめるカイルだったが、自分の陣営の人間に促されやっと姉のあとを追った。
二人が出ていってからは場の空気は最悪。特にあちら側の人間はわかりやすく頭を抱えていたよね。バカ王女にバカ王子を持つルナール王国の前途は多難ですわ。
小間使いに用意された質素な共同部屋に向かうまでの間、俺達はさっき起きたことを話した。
「と、言うことなんだ。話には聞いていたが実際目の辺りにすると、なんと言うか、困るな……」
「ふにゃ~……あの王女さんずっとにゃーの体ばっかり見ていたにゃ。目つきが蛇みたいでおっそろしかったにゃ……」
「わらわなんか、変態ロリコン王子に邪な好意を持たれたのじゃぞ? ううぅ思い出しただけで寒気がするわ」
「二人共いやな思いをさせて済まなかった。好みであれば『性別を問わない』ミレイユ王女に、好みであれば『年齢を問わない』カイル王子。箝口令が出ているはずの醜聞がおれたちのところまで届いていた時点でよっぽどだと思ってはいたが、これほどとはな……はぁ~」
『パック』は本気のため息をついで黙りこくってしまった。あれと婚姻を結ぶことになるのだからこの反応は当然だ。どうにか力になれないものかねぇ……。答えも出ぬまま俺たちは部屋に到着してしまった。
「じゃあな、疲れただろうけどゆっくり休めよ三人とも。俺はタップスかフィルダーに寝床用意してもらうわ」
「は? 何を言うとるのじゃお主は?」
「へ?」
もと来た道を戻ろうとしたら、ライオットにつかまってしまった。物理的に。
「へ? ではない! さっきの変態ロリコン王子が夜這いを仕掛けてくるかもしれぬじゃろが? お主は保護者代理としてわらわを守る義務がある。違うか?」
いやぁ、そうは言うけどライオットさんあなたその変態ロリコンバカ王子を返り討ちに出来る力を持っていますよね? と言いたかったが、ライオットのしっぽがガッチリ俺の足を掴んでいるので早々に諦めたよ。
部屋に入ると寝床は用意されていたが、藁の上に敷かれた粗末な敷ふとんとシーツがあるのみ。
さて、どうしたものか……ライオットとは普段一緒に寝ているから別に問題ないのだが。
問題はシエラだ。
こいつと同じ寝床で寝てしまうのはまずいと思うわけですよ。
こいつの体を見ているだけで時々『ナニ』かが『爆発』いや『暴発』してしまいそうになる。疲れていたって、いや! 疲れているからこそ、その可能性は十分にあった。
そんな事になってみろ? ……グロリアに戻ったら一日立たずに街中の馴染みに話が伝わるぞ? ああぁぁぁ考えるだけで恐ろしい! どうにかしなくては!
ただ、前提として疲れているので寝床でしっかり寝たいのも事実。なので無理して朝まで起きている選択肢は取りたくない。
…………そうだ! ひらめいた!
「『パック』いや、パーシャック、一緒に寝るぞ!」
身内しかおらんのでいつもの呼び名に戻す。いいよな別に。
「ええええええええ!? いいいいいいいきなり、ななななにを言い出すんだお前は!」
何をそんなに焦っているんだこいつは。
「いやぁまじで頼むよ。両隣をライオットとパーシャックにすることで俺が安心できるんだ!」
「あああ安心って! なななな何を安心するんだお前はぁぁ?」
「あのう、お楽しみのところ申し訳ないけど、にゃーはさっきので精神的に疲れたんでさきに寝るのにゃ。お先~」
いの一番に寝床を確保したシエラは15Fくらいの速さでいびきをかきだした。のび○かよお前は……
「シエラの隣はいやなのじゃ。アキラ、早うこっちに来るのじゃ」
何度も睡眠を妨害され、軽くトラウマになっているライオットはシエラとは距離を取って真反対の端っこに陣取り俺に手招きをしている。
あとはシエラとライオットの間のスペースしか残されていない。
「パーシャック、ほらいくぞ」
「あああああ!? おいいぃぃ!?」
いい加減眠くなってきたし、めんどくさいから手を引っ張ってシエラよりの真ん中に押し込んどいた。シエラ、パーシャック、俺、ライオット。この並びで就寝することになった。
シエラとの間にパーシャックを挟むことで制御不能な『ヤツ』を抑え込む。
我ながら完璧な作戦だ。
ふぃ~今日も一日お疲れ様。
夜目が効き出した頃、両隣の体温ですっかり寝床はポカポカになっていた。ライオットの体温が高いことは知っていたが、パーシャックも負けず劣らずで体温が高いわ。助かる~。
ていうか、こいつ汗を流していないのにいいにおいしてくるわ。
ていうか、パーシャックなんでさっきからこっち見てるのん?
というか、パーシャックなんで俺に顔を近づけてきてるのん?
「アキラすまん。おれ、もう無理だ――」
パーシャックが目を閉じ何かを決意した時、外がいきなり騒がしくなった。
馬がいななき、外にいる見張りの兵士が大声で叫ぶ。
「敵襲ぅぅ!! 敵襲ぅぅ!! 魔物の大群が『エルフの転移スクロール』でやってきたぞぉぉぉ!!」




