第三十一話 積み上がっていく『何か』
「いや待て。そんな約束した覚えないぞ?」
「そうは言っても、なぁ?」
パーシャックはそう言いながら前方の御者二人に向かって、「来てくれるって言ってたよな?」と尋ねる。
「ええ、聞きました」
「私も」
聞き覚えのある声と、御者に似つかわしくないガタイの良さで、声の主がタップスとフィルダーだと気づく。
二人とも昨晩のお別れ会の場にいなかったはずだが、ナンデシッテイルノカナ?
「こうやって証人もいるんだ、約束通りおれに付き合えよ。一緒に来てくれればごちそうもでるし、悪いようにはしないからさ」
「ん~……」
ごちそうが食べられるのなら悪くない条件に思える。だが、なんで俺たちなのかが気になった。
この大遠征が無事済めば、パーシャックと相手方の王女が主役の盛大な婚礼が執り行われるだろう。
その上流階級しかいないであろう場に、友人代表ポジだとしても鍛冶職人、二日酔いの駄猫、ロリっ子ドラゴン娘とかいて大丈夫なのん? 場違いすぎない?
チラっと「ふにゃにゃ……おいしいごはん……」とか言いながら白目をむいているシエラと、ス~ス~寝息を立てながら寝入っているライオットを覗き見る。
今からこの二人を叩き起こして「おうちに帰る!」と言うのも人道的にいかがなものかとも思うし、それ以前に俺たちを必要としているパーシャックの願いを無碍にするのもどうかと思うわけで。
ふと、馬車の中から四方八方の風景を眺める。
そこには見事な隊列を組む聖徒グロリアの王国軍が、威風堂々と行軍している景色が広がっていた。
素人目から見てもわかるその攻防一体の堅固な防壁を見ていると、滅多なことなど絶対に起きないという確信が生まれた。
一番の懸念材料だった安全面は既にクリアされていたようだ。これならライオットを連れて行っても大丈夫だろう。安全面に問題がなければシエラとライオットと一緒においしい料理を食べることができるしいいことづく目。場違いで多少嫌な目にあうかもしれないがきっと許容範囲内だろう。
「わかったよ。ついていく」
「よっしゃ!」
そう言って大遠征の主役であるパーシャックは立ち上がって子供のようにはしゃいでいた。
そんなに喜ぶほどのことかねぇと思ったが、内心悪い気はしなかった。
牧歌的な外の景色を眺めながらパカパカと馬車に揺られること数時間。
ここまでの行程で、心配するようなことは何も起きなかった。
正確に言うとあるにはあったが、何かをされる前に王国軍が事前に察知し、すべてを蹴散らした。
名も知らぬ魔物に命知らずの盗賊たち、南無~。
日が暮れかけた頃、俺たちは宿場町にやってきていた。
ここは俺たちが住む聖徒グロリアと、今回の大遠征の目的地である同盟国の『ルナール王国』が共同管理する安全な地で、多種多様な種族がいて大いに賑わっていた。
この『昔のシューティングゲームによくある完全な安地』で、馬に水とエサと休養を与え、調子の悪い個体がいれば新しい馬と交代させていた。
兵士たちは酒と休養を取り明日への英気を養う。
万事抜かりなしというわけだ。
こいつ一人を除いてな……。
「ふにゃ……お腹が痛いにゃ……ちょっとここで待っていてほしいにゃ」
「…………おう」
何度目のやり取りだろうか。
朝から体調をくずしっぱなしのシエラはお腹をさすりながらトイレへ消えていく。
この腹痛の原因は言わずもがな。俺の助け舟に乗船しなかった駄猫の自業自得である。
それを知っているのに、パーシャックは心配そうにこう言った。
「おいアキラ、半裸のお姉さん大丈夫なのか? なんか頬までこけて今にも死んでしまいそうだぞ」
「いやぁ流石に死にはしない。暴飲暴食が原因の腹痛だ、時期治る」
出すもの出しすぎて干からびて死ぬなんてことはないだろ流石に。
「……そうなのか?」
「そうだって」
とか言いつつも、はかなげな顔されるとこっちまで心配になってくるでしょ……。
どうにかしなくちゃな。腹痛でごちそうが食べられなかったとなったら末代までシエラにたたられそうだ。
「気になってしゃーないし、パーシャックの方でよく効く薬とか用意できないかな?」
「おう! 任せろ」
あるのなら最初から処方してあげて……。
長旅で疲れて寝てしまったライオットを背負いながら、シエラのトイレを待つだけの手持無沙汰な時間、パーシャックを見るといまさらあることに気づいた。
なんでこいつも俺らと同じ恰好してるんだ?
婚姻を結びにいく王家の人間がこんな小間使いのような、王家の者からしたら大分みすぼらしい格好をしているのは非常に違和感があった。
パーシャックはどんな格好していても様になるとはいえ、なんか理由でもないとおかしい。
それとなく探ってみるか。
「その服装もいいけどさ、もっと着飾ったほうがいいんじゃなイカ?」
我ながら完璧なさりげなさだ。
パーシャックは自分の服をひっぱっりながら「これは~なんというか~念の為?」と言った。
パーシャックのこの何気ない一言に何故か嫌な予感がした俺は
「ん? 大遠征って危ないことはないんだよな?」と問う。
「そりゃあ、もちろん。な? フィルダー」
「はい。なんの問題もありません」
きっぱりと言い切られてしまい、なら『念の為』とは一体どういうことだ? とは聞きかえすことができなかった。
フィルダーとタップスのそれ以上は聞くなという無言の圧力にビビったからでは決してない。決して。
…………本当だよ?
「気にしすぎだってアキラ。王国軍の活躍をお前も見たろ?」
「まぁ、確かにそうなんだが」
しっかり今日起きたことも加味してシュミレーションをしてみる。
魔物や盗賊を寄せ付けない圧倒的な武力。
これだけの軍勢がいて、宿場町で充分な休息を取り慢心は一切ない。
明日向かう中継地で『ルナール王国』の王国軍と合流するみたいなので盤石と言って過言ではない。アフターフォローもばっちりとくれば出てくる答えは一つ。
勝ったな風呂入ってくる。




