第三十話 エンシェントミニドラゴン
「ちょっと待った。なぜ脱ぐ?」
至極全うな事を言ったつもりだったが、ライオットに何を言っているんだお前みたいな顔をされてしまった。
「なぜって、これは母上が里から外へ出るわらわのためこしらえてくれた大切なものじゃし」
「よくわからんが、着替えるのなら工房じゃなくてユイリちゃんの部屋で着替えてきなさい。ここは服に引っ掛けたりしたら危ない工具が多いからさ」
とても大事な事なので、言い聞かせるようにライオットに伝える。
もしどっかに体を引っ掛けて地肌に怪我なんかさせたら、ライオットの里に行ったとき親御さんに顔向けが出来ん。
「わらわは着替えをするわけではないのじゃ。これから特殊な力を扱うからこそ、この服を着ているわけにはいかないのじゃ」
「???」
おかしい。
常識的な思考をしているつもりだが、話がまったく理解できない。
耐熱仕様の服に着替え、厚手の革エプロンを着込んでいくものと思っていたのだが、ライオットいわくそうではない、と。
だったらこんな所で大事な服を脱ぎ、一体何を披露するつもりなのだろうか?
「わらわはこれから『生きた金属』を半殺しにする」
半殺し! なんて物騒な事をいうのこの子は! お父さんそんな子に育てたつもりはありません!
「何ともいえない変な顔をするでない。『生きた金属』を加工するために必要な事を今からするだけじゃ」
「最初っからそう言ってくれよ。いきなりグレちゃったのかと思ったぞ」
「グレてなどおらぬわ! もういい! はじめるぞ!」
「何を?」とこちらが問いかける前にライオットが幼女からドラゴン形態へと急速変化していた。
左右のこめかみ付近から角が生え、口も前に延長され牙がびっしり生えて人間らしさはなくなっている。全身はうろこで覆われ、ファンタジー好きな人が見たら百人中百人がドラゴンと呼ぶフォルムになっていた。ただ、元々幼女だったこともあってかドラゴンというよりミニドラゴンという方がしっくりくるかも。
「この姿を人間のオスに見られるのは恥ずかしいのじゃが仕方あるまい。そこで見ているのじゃ。わらわ達『古代種のドラゴン』(エンシェントドラゴン)の力を!」
ドラゴンの力に反応したのか、とてもとても異常な事が起こった。
「くく、永い眠りから覚めて見れば力なき人間が我の力を欲するというのか。我の名は『グロリア鋼』。多くの英雄、勇者に選ばれてきた聖なる金属。古代種のドラゴンを仲間にしていようが、力なき者に決して屈したりはせぬ!」
「たわけ。すぐに音をあげさせてやるのじゃ」
金属がしゃべったぁ!?
どういった仕組みで声をだしているの? と不思議に感じたが、元幼女のドラゴンが目の前にいる現実があるのだから起こった事をありのまま受け入れる方がこの際いいと思うことにした。
「こぉぉぉぉぉ……」
ライオットが口を開き、独特な呼吸音で息を吐いていくと、ユラユラとしたエネルギー体が生まれた。
それが青とオレンジが合わさったような色のエネルギー体に変化すると、ライオットの口の中で螺旋を描いて小さな球体に収束して行く。
鮮やかな色彩を放つエネルギー体を美しいと思う反面、破壊を予感させるそれに俺は恐怖も感じてしまった。
あのう……ライオット、その力制御できてる?
このままここにいて大丈夫なのん?
「そんなもので脅しても無駄だ。我はけ、決して屈したりはせ――」
俺同様びびっている『グロリア鋼』が精一杯のつよがりを見せる。
だが、ライオットはお構いなしに『グロリア鋼』を掴むと天井へ放り投げ、的になった『グロリア鋼』へ強烈な力を解放した。
「『超越種の子竜滅波』(エンシェントミニドラゴンブレス)!!」
勝負は一瞬で付いた。
『超越種の子竜滅波』の効果は抜群だったようで、ダンディーな声でみっともない断末魔が『グロリア鋼』から聞こえてくる。
「ひぎぃぃぃぃぃぃぃぃ! 幼女に負けて真っ赤になった我の恥ずかしい姿をみんなが見てるのぉぉぉぉ!! 駄目なのぉぉ!! イっちゅう! 逝っちゃうのぉぉぉぉー!!」
きもいなぁ……俺こんなファンタジー要素見とうなかった……。
燃え盛る炉を前にしたときよりも感じる強烈な熱量の光線が『グロリア鋼』を一瞬で貫通する。
みっともない絶命をあげた『グロリア鋼』がグチャグチャに溶けて金床の上に落ちた。なお、工房の屋根にも大きな穴がぽっかり開きましたとさ。どうすんだこれ。
「あがが、補修したばかりだと言うのに…………アキラ」
「……はい」
いやな予感がする。まぁ察しはついてるけど……。
「ライオットはお前が連れて来たんだから、補修費はお前にツケておくからな?」
「……はい」
一仕事終えたライオットはいつの間にか元の幼女の姿に戻っており、服も着替え終わっていた。
「アキラ、うなだれている場合ではないのじゃ。生きた金属はすぐ元に戻ろうとする。仮死状態のうちにハルバードへ加工するのじゃ!」
あんな気持ち悪い声二度と聞きたくない。元に戻る前に作業を完了せねば!
「というわけらしいのでさっさとハルバードを作りましょう」
「だな」
ハルバードを事前に作りなれていたこともあって、異世界に来てから最高の集中力と速度でもって『グロリア鋼』を使った最高のハルバードを完成させることができた。そこに至るまでの過程はひどかったが、渾身作である。
「待たせてしまってすまなかった。これが建国王が魔王と戦うために選んだ素材と同じ物で作った強力な武器だ。バッドフラグだろうがなんだろうが必ず全ての脅威からお前を守ってくれる! 受け取ってくれ」
そう言ってパーシャックに差し出すと、パーシャックは涙目で出来たばかりのハルバードを受け取ってくれた。
「おれのためにここまでしてくれて、みんなありがとう…………自分と同じくらい大事にするよ」
===============
システムメッセージ
DATA ID:3203
ワールド内4本目のエピックウェポンが誕生しました。
聖都の戦乙女
銘 カグツチアキラ
装備可能レベル1
STR+15
DEX+15
LUC+99
AGI+15
敵対心-100
特殊効果
王子の慈愛V
グロリア国民/グロリア同盟国民/王子が愛する者に加護を与える(加護効果:戦闘中体力が回復し続ける 陣形効果超絶アップ 魔法吸収 バッドステータス無効 不意打ち無効)
絶対カウンター
武器所持者が任意で一度だけ敵対者からの全属性の攻撃を反射する事が出来る(その際ランダムでバッドステータスを付与する)
グロリア鋼の叡智
グロリア鋼の叡智を得る事がある
魔王がダイエットのために始めた縄跳びを中断しました。
魔王軍の宰相がエピックウェポンの情報収集を部下に命じました。
===============
自分で作っておきながらなんだこの厨性能な武器は。
こんなのMMORPGで実装されたら、支援型他職メインのプレイヤーから即反感を買い、SNSや匿名掲示板が大荒れするに違いない。またはサービス終了を予期して気分が落ち込む人が出てきそう。
まぁそれはゲームでのお話でこの世界では無関係。この性能なら確実にバッドフラグをぶち破ってくれるだろう。目的どおりパーシャックを守ってくれそうな武器が出来上がって肩の荷が下りた気分だ。
だがしかし、まだ大きな悩みは残ってる。
武器を完成させると魔王に毎度毎度こちらの情報がもれ、魔王軍に聖都が襲撃されてしまう問題だ。三度も同じ事が続きそうとなればさすがに見過ごすことは出来ない。俺が住まわせて貰っているマクシミリアン工房ではユイリちゃんのエピックェポンの加護があるおかげで安地と化し事なきを得ているが、他の住民は違う。
なら、どうすればいいのか?
当初の目的通り魔王を倒すしかないよな……。
異世界の生活に慣れるのに精一杯で、いまだに魔王がどこにいるのかすらわかっていないのが現状だ。というか魔王を倒すにしても戦力が足りていない。
まず俺自身が戦力になっていない。なので一緒に戦ってくれる強力な仲間が必要だ。
真っ先に頭に浮かんだのはアシッドジェリーを倒したシエラ。あいつは強力なタンクとして戦力になりそうなので是非仲間になって欲しい。
けどいきなり頼んだところで危険な魔王討伐の旅程にあいつが、無条件で付いて来てくれるとは思えない――
むぅぅぅ、色々と思考が先走りすぎている気がする。
人命がかかる大仕事なのだ簡単に決めていい問題じゃない。
一人でなんでもかんでも決めるのは無謀だ。機を見計らってみんなに相談してから今後の事を考えよう――
『祝! 王国依頼品完成&パーシャックお別れ飲み会in マクシミリアン工房』
と銘打ってはいるが、サーニャさんとシエラが飲みたいだけでどんな理由でもよかったわけよ。要するにこじつけだ。周りに酒飲みがいたらよくわかる状況だと思う。
「な~に辛気臭い顔をしているんだお前は! 飲め、飲め!」
コップになみなみと注がれた『麦を発酵させシュワっと喉越しさわやかなおいしい水』を口元に運ぶ。普段ならノータイムで飲み始めるが、朝から死にかけるわ、パーシャックと人生初のデートをするわ、どMの『グロリア鋼』と格闘するわで体力ゲージが空っぽ。
このまますっかり出来上がった飲ん兵衛の二人と夜更けまで飲み明かしたら、いつもの時間に起きられるわけがない。明日の事を考えたら飲むのはやめて早く寝た方が絶対いい。
と、転生前の俺なら考えていたろうな――
「かぁー! 『麦を発酵させシュワっと喉越しさわやかなおいしい水』うめぇぇ!!」
「おお! いい飲みっぷりじゃねーかアキラ!!」
魔王の問題などやっかいごとは残ったままだが、パーシャックの武器作りは無事終えることが出来た。今日はその祝いだ。こうやって適度に発散させておかないと精神がもたん! ぶっ倒れるまで飲むぜ!
「にゃはははははー楽しいにゃ!」
すでにご機嫌なシエラは、服を着るのもめんどくさいのか下着姿になって大声を上げながら騒いでいる。そしてハイテンションのまま『麦を発酵させシュワっと喉越しさわやかなおいしい水』が入った樽に顔を突っ込んでぶくぶく泡を立てながら中身を呷っていた。
おいおいおいシエラさんよぅ~。俺もそれを飲むんだぜ? 勘弁してくれ。
ほどなくして樽から顔を上げたシエラは、真っ赤な顔をして食卓の机に置いてあった露天のスペシャルメニュー激辛香辛料たっぷりのイモを手づかみで取り口にほおばっていく。お前明日のトイレの事まったく考えてないのな。
う~ん。なんというか。
これだけ無警戒に食べまくっているのをみると、こいつ『激辛香辛料の洗礼』を味わった事が無いのかもしれない。
『時すでに時間切れ』かもしれないが、トイレの中で神様に祈ってしまうほどの激痛と、直視できぬふがいなさに見舞われるのを知っている自分としては、助け舟は出してやるべきだろう。
やつはこんなでも女の子だからな。男として優しくしてやらねばならない。
「シエラ、もうそのへんにしておいた方がいいぞ」
「にゃははははは。そうは言っても新感覚の味覚と刺激で止まらないのにゃ~」
せっかく助言をしたと言うのに、めんどくさそうな顔をしながらこっちに来た酔っ払い猫は、油や香辛料でベタベタになった手を俺の服で拭きだしやがった。
こいつはもう知らん!
騒がしいシエラが「あ、漏れそう」と不穏な言葉を残してトイレに駆け込むと少し場が落ち着いた。そうすると『麦を発酵させシュワっと喉越しさわやかなおいしい水』を飲まないメンツに目が止まった。短期間とはいえすっかり仲良くなったパーシャックと幼女組だ。
パーシャックとのお別れ会という事もあっていつもは布団の中にいる時間にも関わらずユイリちゃんとライオットも特別にこの会に参加していた。
ただ、大人組のテンションには付いていけないようでパーシャックを含めた三人でなにやら内緒話をしながら楽しそうにしていた。
う~ん微笑ましい。
同年代の友達が出来たのはユイリちゃんにとってとてもいい事だ。こういった時寂しい思いをせずにすむ。
「何を辛気臭い顔をしてるんだお前は! 飲め、飲め!」
「あの、まだこれ飲み終わってないんで……」
今日はさすがに飲み過ぎた。手でコップに蓋をし、それとな~く辞退を伝える。
だが、それが逆効果だったようで
「ああん? 私の酒が飲めないっていうのか?」と凄まれてしまった。
…………パーシャックのお供二人よりこわいです。
勘弁してください。
「や、やっぱりいただきます……」
「そうこなくっちゃな!」
完全に出来上がってしまったサーニャさんの絡み『麦を発酵させシュワっと喉越しさわやかなおいしい水』に抗えるすべを持たぬ俺は、そのまま樽の中身が空になるまでサーニャさんに付き合った。
昨日から徹夜で今日一日色々イベントがありすぎてもうヘトヘトです。寝かせてください。
「うえっぷ――」
ア――――ラ頼みが――――だ
よし! 約束し――――――――おお! 半裸もとい全裸のお姉さんも――
そ――――飲んだな――――
心配事も――――――――――
――――迎えの時間は
「アキラ、お休み」
「お休み……」
飲みすぎて記憶が飛び飛びだが、パーシャックにお休みの挨拶はしっかり返せた気が、す、る。
他にも、なにかい……っていた……よう…………な
……
…………
……………………
…………………………
………………………………
……………………………………
すぐ近くでカラカラ、パカパカとどこかで聞いた事のある音が聞こえてきた。
目を開け天井を見ると見慣れない風景だった。どこだここ?
音と振動で何かに乗って移動しているのはわかった。
ガバっと起き上がって見ると、向かいの席に白目になってだらしなくベロを出したシエラと、毛布をかけられてスヤスヤ寝ているライオットが座っているのが確認できた。ふたりとも同じような布のワンピースの上にエプロンを着ていた。俺も同じ素材の服をいつの間にか着せられている。なんじゃこりゃ?
「よく寝てたな」
声のしたほうに目をやると、そこには見慣れた顔があった。
そいつの何かを企んでいそうな笑顔を見て、回りくどいことはせず聞くべきことを聞いた。
「パーシャック、これは一体どんな状況なんだ?」
「大遠征の最中だ」
「今なんて?」
「お前達が来てくれるって約束してくれたからな、一緒に大遠征をしている最中だ」
ふぇぇぇぇぇぇぇぇ!? 聞いてないよぉー。




