第二十八話 真っ赤なフラグ
パーシャックのご先祖様の武器が展示されているフロアへ並んで足を踏み入れようとすると、突然パーシャックが立ち止まってしまった。
どうしたのかと問いかける前に、パーシャックが先に口を開いた。
「ここに来るのは久しぶりなんだ……」
出先で迷子になってしまった子供のような表情をしているパーシャックを見てしまい、動揺した俺は気の利いたセリフがとっさに浮かんでこなかった。
ただ、それと同時にこの局面がとても大事な場面だという事が直感でわかった。きっと何本もクリアしてきた恋愛SLGのおかげだ。
でもなぁ……選択肢の出てこない現実世界でどうすればいいのか正直わからん。
わからないが、パーシャックがこんな不安げな表情になってしまう理由を多少なりとも把握している俺としては、少しでも早く不安を取り除いてやりたいと思うわけで――
うんうんと悩んだ結果、頭に浮かんだありがたい言葉がある。
『下手の考え休むに似たり』だ。
こうなってしまっては仕方ない。奥義『出たとこ勝負!』
手汗を服でぬぐってからパーシャックの手を強引にひき寄せ、ぎゅっと握る。そして前を見据えながらこう言ってやった。
「いくぞ」
やってやったぜ! とやってしまった……が半々といったところか。
自分らしくないイケメンムーブに内心戸惑いつつも、二人並んで武器の前まで歩いていく。パーシャックがこっちを見ているのが気配でわかるが、動揺した表情を見られて心情を悟られるのは恥ずかしいので気付かない振りをしておこう――
台座の上に横たえられた『建国王の鉾槍』は、腰の高さほどあるガラスケースに全面を保護されていた。
工房にあったハルバードと差異は見当たらないのでプレミア感はない。けれどこの『建国王の鉾槍』が建国王とどんな冒険をし、現国民に語り継がれるまでの物語を想像するとなんか『クる』ものがあるよね。男として!
「アキラ、もう大丈夫だから」
明るい調子のパーシャックの声が聞こえ、我に返った俺はパッと握っていた手を離す。
「すまん、痛くなかったか?」
「ううん」
左右に首を振ったパーシャックは続けてこういった。
「……暖かかった」
「そ、そっか。しょ、しょれならよかった」
パーシャックの笑顔に心奪われそうになったからといって、何噛んでいるんだ俺は……。
「もうここに来る事はないと思っていたけど、勇気を出せてよかった」
ガラスケースに近寄って、食いいるように『建国王の鉾槍』を見つめるパーシャックの瞳を見ているとこっちもうれしくなる。
「よかったな」
「アキラのおかげでもあるんだぞ?」
「どういたしまして」
劣等感が原因で憧れの人を遠ざけてしまったパーシャックだが、ほんの些細なきっかけで事態は好転したようだ。本人が勇気を出した結果ではあるが大人になるにつれて徐々に失っていくこの素直さを、出来る限り持ち続けていて欲しいものだ。
「ご先祖様はさ、これ一本で全てを成し遂げたんだ。凄すぎない?」
戦場で使う武器はほとんどが金属の塊だ。この『建国王の鉾槍』だって金属の塊なわけで、金属同士の接触で刃こぼれはするし、ひびだって入る。
人や魔物を切ったら血のりが付きそれが原因の錆も生まれるわけで、そんな性質を持つ金属の耐久力なんてたかが知れている。と俺はゲームで学んだ。
大分浅い知識だが、金属は金属だ。パーシャックの言っていることは無理がありすぎる。
でもなぁ……。
子供のようにガラスケースに額をくっつけ、食い入るように見ているパーシャックを見ちゃうと野暮な事は言えないよな。いい顔しちゃってからに……って額くっつけすぎて赤くなってんぞ。小学生かお前は。
「確かに」
頭の中で繰り広げられたツッコミは消去し、無難な返事を返す。
話の真偽はともかく、成し遂げた偉大な功績でこの国は隆盛しているわけで、それに比べれば些細なことだったわ。
「そういえばさ」
「うん? なんだ?」
「アキラはおれを生かすために武器を作ってくれているんだよな?」
今更何を言い出すのか、意図を図りかねる。
「そうだけど。いきなりどうした?」
「お前がおれによくしてくれるように おれもお前のために何かしてやりたいって思っているんだ」
なるほどね。
「そういう事か、いきなり何を言い出すのかと少し身構えちゃったじゃないか。お前はこの国の王子なんだからそんな事気にしないでいいと思うぞ。それにこっちはいまだに結果を残せていないんだからなお更だ」
「そんな他人行儀な事いうなよぉ。初めてのデートをした仲じゃないか」
「いやまぁ、パーシャックがそれでいいのならいいけど……あと恥ずかしい事いわないの」
「えへへ~」
王子様と俺の距離感がおかしい。
この子は自分がこの国の王子って事を忘れちゃいないか?
異世界に転生した一鍛冶職人に対してのこのホスピタリティは一体何のだろう。
いや、俺だけではない。デート中関わった全ての人にこいつは優しく平等に接していた。
王子様という身分を考えるとこれはなかなか出来る事ではないと思うのよ。
本人は自分の美点に気付いていないっぽいが、この才能を本人が自覚すれば今後一切誰かに嫉妬することなんてなくなるのではないか。小市民な俺はこう思うわけです――
パーシャックの『お返しをしたい』という希望を叶えるために俺は駄目元で、ある提案をした。
それは実際にこの武器に触れて見たいと言う難題だ。
国宝とも言える『建国王の鉾槍』に触れる事で何でもいいからガラスケース越しに見るだけではわからない情報をつかみたいと思ったからだが、それに対してのパーシャックの言葉がすばらしいの一言だった。
「任せろ!」
俺より男らしくてきゅんきゅんしちゃった。
パーシャックの一言で四人の係りがどこからともなく現れ、ガラスケースの撤去作業に入った。
この迅速な行動……今までのパーシャックとのやりとり全部見聞きしてましたよね。恥ずかしいぃぃ。
なんかごっつい鍵で開錠する所や、耳慣れない詠唱? を見守っているうちに無事ガラスケースから『建国王の鉾槍』は開放され本来の姿をさらけ出した。
「パーシャック様、あまり時間を取れませんのでお早めにお願いします」
「うん、ありがとう。助かる」
特例ってことか。まぁそうだよね。
「さ、アキラ。こっちの事は気にせず、存分にご先祖様の武器に触れて、最後はおれを救ってくれよな」
「おう、任せろ!」
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システムメッセージ
DATA ID:1104
建国王の鉾槍(覚醒済)
銘 データ破損
装備可能レベル75
(グロリア・ドゥ・シュバルハイム専用武器)
STR+80
AGI+50
INT-5
敵対心+15
特殊効果
想い人
特定の味方からのバフ効果が二倍になる変わりに敵からのデバフ攻撃を受けやすくなる
集中III
次の一撃の命中率・クリティカル率大幅アップ
一番槍
先制時攻撃にボーナスを得る
無鉄砲
体力を大幅に消費する変わりにクリティカル率大幅アップ
アミルマミルの加護
アミルマミルの加護を得る
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予期していなかったので、触れた瞬間に頭の中に流れてきた聞きなれない声に驚く。
基準はわからないが自分が作っていない武器でもシステムメッセージが流れる事があるみたいだ。
それはそうとしてこれで三人目か? システムメッセージの中の人何人いるのだろう?
実際のところどのくらいいるんですかね?
…………返事がない。友好的な人と事務的な人で分かれているのかしらん。
まぁいいや。
それよりこの建国王の武器を知る事のほうが重要だ。と言いたいところだけど、大分ピーキーな武器を愛用していた建国王の事が気になってしまった。
後衛泣かせな要素が目白押しなので、魔王討伐まで味方に助けられまくっただろうなぁ……
一人で国を興してしまった逸話も含め、なんとなく建国王のひととなりがわかったような気がする。
「どうだ、何かわかったか?」
「うん、なんというか。建国王の人となりが見えた気がするよ」
「触れただけでそんな事までわかるのか? 鍛冶職人ってすごいな!」
カミシマとかいういけ好かない野郎から、半ば強引に異世界転生させられ代償にもらったチートスキルなので、もろ手を挙げて喜べないが、それでもこうやって大事な人の役に立てる能力だったのはありがたい。
武器自体の性能はわかったが、これだけではパーシャックの武器作りに反映させる事が出来そうにない。
もっと『建国王の鉾槍』から情報を得たいのだけど、う~~ん。
何気なしに手に取って持ち上げてみる。
うお、なにこれ、軽っ!!
見た目に反して重量がなさすぎる。中が空洞にでもなっているのか?
何かにたたきつけで強度を確認したいがそういうわけにもいかないので、拳でたたいたり、人力で曲げようと試みたりしてみた結果、中身はぎっしり詰まっているしちゃんと強度もあるようだった。
そうすると原理がよくわからない。
俺の知らないレアメタル的なサムシングなの? それともこの世界固有の素材なの? 鍛冶スキルが999あってもわからないことはわからない。無念。だが、自分の知識の範囲外にある素材の存在を知れたことは収穫だった。工房に戻ったらサーニャさんに聞いて見よう。
最後になって展示されていた部分からは見えなかった『建国王の鉾槍』の持ち手付近に『ある文章』が刻み込まれているのを発見したが、これは彼のプライバシーに関わる事なので同じ男として見なかったことにした。
ここで得られる情報はもうなさそうだ。
パーシャックに感謝の気持ちを伝え、係りの人に挨拶をしてから一緒に博物館を後にした。
バッドフラグをへし折る武器つくりが成功すると断定は出来ないが、今までとは違ったアプローチでの武器作りのプランが出来上がった。あとは実際に試して作ってみるまでだ。
その帰り道。
俺たちはガラの悪い奴に絡まれてしまった。
「にゃーにゃーにゃー! お二人さんお熱いですにゃー。にゃーもそこに混ぜて欲しいにゃ」
そいつはハッピーバー○ルのような入れ物をわきに抱えて、その中からもう片方の手で見覚えのある真っ赤な香辛料がたっぷりかかった食べ物を口に運んでいる。こいつが食べているのはデート中に食べたあれに違いない。見た瞬間、反射的に口の中に広がっていった唾液がそれを証明している。
ただ、その激辛料理は俺に対するいやがらせであってメニューとしてなかったはずだが……あの時新メニューとして生まれたのだろうか。 というか、それを知っているって事はこいつ、パーシャックとのデート最初っからつけてたのか?
「なーにしてるんだお前は」
こんなの引っ張るわけもなく相手は完全にシエラだったので、睨みつつ声をかける。
「にゃ、そんな怖い顔しないでも……ちょっとやってみたかっただけにゃのに。しくしく」
この駄猫、嘘泣きも下手である。
「何のためにお前がついてきたのか知らんけど、武器作りのプランが出来上がったから手伝ってくれ。明日までに間に合わせるぞ」
「もぐもぐ、わかった、もぐもぐ、にゃー」
大事な仕事の話をしているのにあまりに適当に聞いているもんだから、今度こそ本気で怒ってやろうかと思ったが、シエラの明日のトイレ事情を察して許してやる事にした。食欲に負けてほお張り続けている香辛料たっぷりのそれで明日、地獄を見るといい!




