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第二十五話 パーシャックの秘めた想い



===============


 システムメッセージ

 エピックウェポン:ユイリ愛用包丁+99の『フラグ回避IV』の効果が発動。

 24時間のクールタイムが発生しました。


 

 



 え、嘘だろ……これで駄目なのかよ。

 サーニャさんと丸一日かけて作り上げた『ハルバード+99』を前にしばし呆然とする。

 


 

 この『ハルバード+99』はパーシャックのためだけに作った武器だ。

 小柄で非力なあいつでも持ち運びしやすいように、軽重量かつ丈夫な素材を選び出した。

 それにあいつが強く希望した王国の紋章の刻印も、サーニャさんの仲間の細工師を呼んで加工を手伝ってもらい、一切の妥協なく作り上げた。



 俺にだけしか聞こえないシステムメッセージも出来栄えに太鼓判をおすボーナス『+99』付きだと知らせてくれた時は本当に安堵した。 

 この完成度で一体何が駄目なんだろう?

 これ以上改良の余地なんてないぞ?

 


 工房の未来が掛かった大仕事を完全に終えた気でいたので、高揚感で感じなかった疲労が一気に押し寄せ体が重くなった。




 そんな中で難題がもう一つ生まれてしまった。

 バッドフラグが解消されていないのでパーシャックをまた一日引き止めなくてはならない事だ。

 


 パーシャックは一国の王子で気軽に「もう一日泊まっていけよ」とか言える立場の人間ではない。 帰りを待つお供の二人も早朝から迎えに来ていて、パーシャックの準備が整い次第一緒にお城へ帰っていく手はずになっている。

 この状況でどうやってパーシャックを引き止めることが出来る?


  


 

 昨日も今日もパーシャックがお城へ戻ろうとするとシステムメッセージが流れて来たのでバッドフラグのトリガーはパーシャックのはず。

 問題を放置したままパーシャックを返すわけには行かないのだが、システムメッセージ云々の事情を知らないパーシャックとお供の二人を引き止めるのは今の俺には難関ミッションすぎる。

 普段だって頭が回るほうじゃないのに、極度の疲労のせいで頭の中に霞がかかったようなのだ。

  

 


 解法も見つからず八方塞の中『ある考え』が頭をよぎる。

 それはとてもネガティブな思考から生まれた救いようのない発想。




 もしかして、『武器を作ったとしてもバッドフラグを回避できないのでは?』と。

 そもそもの前提条件が間違っていたのだとしたら全てをゼロから考え直さねばならない。

 時間も機会も限られているなかでこれはきつい。

 

  

 俺は一体どう頑張ったら、バッドフラグから誰かを救えるのだろうか?

 これは俺一人には荷が重過ぎる案件なのでは――





===============


 システムメッセージ



『おっほん! マイクワンツーマイクワンツー』

 なんだなんだ?

 いつぞや聞いた事のある能天気な女の声が突然脳内に響き渡る。



『悩むのはそこまでっ! 解決法は間違っていません。最初のアプローチであっていますしバッドフラグの対象者もパーシャックさんです。解決するためにはアキラさんが『王子のために最良の武器』を作ればいいんです~ただそれだけなんです!』 

 

 ただそれだけと言われても、『最高』の武器を作ったばかりなのだが?


    


『これは私の独り言なんですけどぉ~。バッドなフラグを回避したいのならアキラさんはもっと、も~っと王子と親密なコミュニケーションを取らないと駄目ですぅ~。恋愛SLGみたいに王子の好感度をガ~っとあげちゃってください。ガ~っと』

 


 

 王子の好感度をあげろって? 信頼度とかじゃなくて?

 鍛冶スキルしか取り得のない俺がそんなことしたら王子から

「一緒に帰って、グロリア国民に変な噂されたら恥ずかしいし」とか言われない? 大丈夫?

 それ以前にテキトーなノリのせいでこいつの言っている事信用していいのかいまいち悩むぞ。

 



『あっ! ヤッバぁ~もう見つかっちゃった。バイバ~イ、またね』

 ええぇ…………。

 システムメッセージは言いたい事だけいって消えてった。 


 

 



 まぁいいや。

 敵か味方かはわからんが、どうせカミシマと同じような存在なのだろう今の女も。そうだとしたらこちらからあっちに干渉する手段はない。あったらカミシマを今すぐぶん殴りに行っている。

 気にするだけ時間の無駄ってもんだ。

 

 

 それより後ろ向きになりそうだった思考を修正してくれたのはありがたい。そこは素直に感謝しておこう。ありがとう能天気な話しかたのお姉さん。

 

  



 さてと、どうするか。

 相手の言っていた事が嘘か本当かはわからないが、ほかに縋る情報はないんだよなぁ。

 新しい手段も思い浮かばない今、聞いた事は正しいと仮定して作戦を練っほうがよさそうだ。

 間違っていたらそのときは明日の俺に頑張ってもらおう。頼んだぞ明日の俺!


 

 プランがひとまず決まったのでシステムメッセージから得た情報を解読していく事にした。

 まず初めに『最初のアプローチはあっていてバッドフラグの対象者はパーシャック』と言っていた所から考えてみる。



 昨日の俺が考えていた事と言えば――

 エピックウェポンが感知してくれたバッドフラグを完全に折るために、パーシャックをマクシミリアン家に留まらせて、その間にバッドフラグを粉砕する武器を作ってあげたいと考えていた。

 この考えがあっているのなら昨日の俺グッジョブ。それと自分のチートスキルで挽回できる余地が残っているのが幸運だった。

 



 次に言っていたのは『パーシャックの好感度をあげろ』だったか。

 恋愛SLGだったらQセーブやQロードを使って総あたりで選択肢を埋めていけるがここはゲームの世界じゃない。

 チートスキルが影響しない分こっちのほうが難易度高いかもしれん。伊達に長年コミュ障オタクやってないし。

 

 


 あともう一つ大事な事を忘れていた。

 これはミスれば即ピチューンの難易度Lunaticだ。

 


 


 帰り支度を終えてしまったパーシャックは、すっかり仲良くなったユイリちゃんとライオットと名残惜しそうに別れの挨拶をしている。

 手をつないでキャッキャっとはしゃいだりしている姿はとてもほほえましく、いつまでも見ていたい光景だがそうもいっていられない。

 バッドフラグを完全回避するためパーシャックをお城へ返してはならないのだから。




「パーシャック様、私あのあとユークリッド様に、こぉーーっぴどく叱られたんですからね! 反省してくださいよ」

「本当ですよ。もうこういうのはこれっきりにしてくださいね」

 

 

 どっちがどっちだかわからないが、お供のフィルダーとタップスは俺の事をチラチラと横目で見ながら恨み節。こんな恐ろしい状況でパーシャックをここに留まらせなくてはならない。

 難易度Easyに設定変更できませんかね、これ。 

   


「パーシャック、話がある」

 エピックウェポンが反応するバッドフラグを解消しないままパーシャックをお城に返すわけにはいかない。

 名案も妙案も浮かばないが、出たとこ勝負で時間を稼ぐ。どうしようもなかったら社畜時代に培ったジャパニーズ土下座や泣き落としも辞さない構え。 

 戦闘も出来なければ頭も回らない悲しい転生者はこれだからつれぇわ。誰かスキルポイント分けて?



「改まってどうした? アキラ。おれと別れるのが寂しいとかいうんじゃないだろうな?」

「……そのまさかだ」    

 このセリフを言った後の妙な静寂と、その後に訪れたフィルダーとタップスからの殺気といったらないね。戦闘素人の俺でもわかるほど。

 おっかなすぎて思わずおしっこ漏らしそうでした、はい。




「おい、貴様!」

 ひぃいー。 

 あまりの威圧感に心臓は跳ね、叫びだしたいくらいの恐怖を感じた。 

 怒ったマッチョに突然胸倉を掴まれたら誰でもこうなるだろう。



 

「よく聞こえなかったのだが、今、なんと言ったのだ?」

 わかりやすい脅し文句にひざが笑い、喉もカラカラ。

 完全にビビりきってはいるが、そんなの知ったこっちゃねぇ。

 


 このままあんたらの王子をお城に返したら危険が危ないんだよ! 頭に酸素が回りきらないのか国語力0感。こうなっては仕方あるまい、やけくそだ。後は強く当たって流れに身を任せる。




「パ、パーシャックにはまだここにいてもらう!」

 このプレッシャーの中でちゃんと意見を言えた俺、カッコいい。

「貴様ぁぁ!!」 

 激高し吼えるタップスかフィルダーのどっちか。目が血走ってて怖い。



 至近距離で何秒ほどにらみあっただろうか。

 といっても俺は途中から目の焦点を相手に合わせていなかったのでいくらでも耐えられたのだが、目の前のタップスかフィルダーのどっちだかが、長いため息をついてから、一気にこうまくしたててきた。



「貴様のような人間とパーシャック様とでは時間の価値がまったく違うのだ。それがわからぬような無知蒙昧には見えなかったのだがな、私の勘違いだったようだ」

 


 はぁ~?

 パーシャックと俺の時間の価値が違うだぁ~?

 そんな事わかっているっつーの。

 学生時代から社畜までの長い年月、ピラミッドの下層を主戦場としてきた俺が誰よりもそれを理解している自信があるわ!

 


 などと言い返すのは怖いのでしないが、なんでか知らないがどんな馬鹿にされすごまれようが相手の要求を拒否し続ける妙な反骨心が生まれた。



 ただ、それでも状況は好転しなかった。

「お前達! おれの友達に対して言葉が過ぎるぞ」

「はっ。申し訳ありません。ですがパーシャック様――」

 パーシャックは俺のために真剣な表情でお供を制してくれる。

  


 お供がしぶしぶ引き下がるのを確認してから俺にゆっくりと向き合った。

「理由はわからないけど、おれと一緒にいたいっていう強い気持ちは伝わってきたよ。うれしいし、出来ればそれに応えてやりたいんだが……」 

 


 困り顔のパーシャックは、タップスとフィルダーを交互に見やる。二人が小さくかぶりをふっている事を確認すると

「ご覧のとおりだ」

 と言って色んな感情のつまった笑顔を浮かべた。



 


「おれもそんな暇じゃないんだぞ?」

 母親が駄々っ子を諭すような優しいセリフが、頼むから俺に折れてくれと言っているように聞こえ、つい「それじゃ仕方ないよな」と弱気な返事をしてしまいそうになった。とっさに奥歯を食いしばっていなかったら言っていたと思う。

 

 


「さ、パーシャック様、馬車を大分待たせておりますから」

「おうっ! そういう事だごめんな、アキラ」

 いつもどおりの笑顔に戻ったパーシャックがお供の二人と大通り側のドアへ向かっていく。



 駄目だ、このまま返しちゃ駄目だ。

 王子であるパーシャックは気まぐれに工房に来られはするが、俺たち一般人はおいそれとパーシャックの元へは行けない。知り合いだと言った所で文字通り門前払いを受けるだけだ。



「頼む、いかないでくれぇ」 

 別れ話を持ちかけられ、それでも抵抗する情けないヒモ男のようなみっともなさ。

 事情が伴っていなければ俺が一番毛嫌いする男の姿だ。だが、俺のやっすいプライドなんかこの際捨てておく。どんな事をしてでもこいつを引き止めなくてはならないからな!



 反応してこちらを振り返ってくれたパーシャックだったが、それも数秒。

 俺の願いむなしく、お供の二人を伴って大通り側の出口へ近づいていく。

 マクシミリアン家から出て行かれたら『ユイリ愛用包丁+99』の加護もなくなってしまう。

 そうしたらこれから24時間以降パーシャックの身に何かが起こっても俺は何も手出しが出来ない。

 


 バッドフラグが起きると知っているのに、あいつを助ける事が出来ない。

 俺だけが知っている、俺だけがパーシャックを助けることが出来るのに、このまま指をくわえて黙って見送るだけか?

 


 それでいいのか?

 慈愛に満ちた笑顔でユイリちゃんやライオットを見守ってくれたあいつがいなくなってもいいのか?




 いいわけないだろ!!

 勝算なしだが体が勝手に動いた。

 実力行使だとばかりにパーシャックの元に走っていく。このままパーシャックに抱き付いてお供が諦めるまでパーシャックを離さないつもりでいた。超ヒモ男理論だ。

 


「うぉぉぉぉパーシャックゥゥ」

「貴様! 止まれ! 止まらんと」

 腰に帯刀した剣に手をかけ、殺気を放つフィルダーだかタップスのどちらか。

 このまま突っ込んだら冗談抜きでぶった切られそう。

 でも、俺……止まる気ねぇーから!



「不敬者が……」

 そう言って重心を下げるとフィルダーだかタップスが刀身をギラリと抜く。

 その瞬間一気にさぶイボが全身に発生し、体が冷たくなった。

 あ、あかんやつだこれ―― 





「お兄ちゃんだめぇーーーー」

 今際の際に聞こえたのはユイリちゃんの声だった。ごめんねユイリちゃん。

 お兄ちゃん正解を間違えちゃったみたい――




パーシャックの武器完成までの文字数が多くなりすぎたので区切りいれるために分割しますが、次は推敲段階まで進んでいるので更新は早めにできると思いますので引き続きよろしくお願いします。


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