幸せそうに見せてただけだった。
「君は幸せそうに見せるのは上手だった。でも、幸せになるのは下手になってた。」
彼の一言で、私は初めて自分を見つめ直した――。
「君に、気づいてほしかったんだ。」
彼はそう言って、
少しだけ笑った。
私は何も言えなかった。
彼は責めるような口調ではなく、
静かに話し始めた。
「最初はね。」
「写真撮るの好きなんだなって思ってた。」
「思い出を残したい人なんだって。」
私は小さく頷く。
それは本当だった。
最初は。
「でも。」
彼は少しだけ目を伏せた。
「途中から変わった。」
「変わった?」
「うん。」
「写真を撮るために出かけるようになった。」
「投稿するためにご飯を選ぶようになった。」
「綺麗な景色を見ても。」
「最初に見るのは景色じゃなくて画面だった。」
私は言葉を失う。
全部。
その通りだった。
彼は続ける。
「一番悲しかったのはね。」
「君が笑わなくなったこと。」
「え…?」
思わず聞き返した。
「写真では笑ってた。」
「でも。」
「写真を撮り終わると、すぐ真顔に戻ってた。」
胸が締めつけられる。
そんなこと。
考えたこともなかった。
「投稿が伸びた日は嬉しそうだった。」
「でも。」
「伸びなかった日は、一日中落ち込んでた。」
私は俯く。
思い当たることしかない。
数字が気になって。
フォロワーが気になって。
誰かと比べて。
勝手に疲れて。
そんな毎日だった。
彼は少し笑う。
「君はさ。」
「幸せそうに見せるのは、すごく上手だった。」
その言葉に、
胸が痛くなる。
「でも。」
「幸せになるのは、下手になってた。」
その一言で。
涙がこぼれた。
私はずっと。
幸せになりたくてSNSを見ていた。
でも。
いつからか。
誰かより幸せに見えることばかり考えていた。
「ごめん…。」
小さな声でそう言うと。
彼は首を横に振った。
「謝ってほしかったんじゃない。」
「ただ。」
「もう一回、一緒に笑いたかった。」
その言葉を聞いた瞬間。
私は泣きながら笑っていた。
気づけば夕日が沈み始めていた。
私はポケットからスマホを取り出す。
画面には通知が何十件も並んでいる。
でも。
私はそのまま電源を切った。
彼が驚いた顔をする。
私は笑って言う。
「今日は。」
「もう見なくていい。」
「今は。」
「あなたを見ていたいから。」
彼は照れくさそうに笑った。
その笑顔を見た瞬間。
私は思った。
今日のこの景色は。
きっと写真に残すより。
心に残した方が、
ずっと綺麗なんだろう。




