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最後に見た通知  作者: 月光
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3/4

スマホを置いたら、世界が静かになった

スマホを置いて過ごした、たった一日。

不安だったはずなのに、そんなことはいつの間にか忘れていた。

そして彼は、写真を送った本当の理由を話し始める――。



日曜日。


待ち合わせの時間より少し早く着いた。


いつものようにスマホを開く。


SNS。


ニュース。


メッセージ。


気づけば約束の時間まで、

あと一分だった。


「おはよう。」


顔を上げると、

彼が笑って立っていた。


「おはよう。」


私は慌ててスマホをしまう。


すると彼は、

小さな布の巾着を取り出した。


「これ。」


「なに?」


「今日はスマホ預かる袋。」


思わず笑った。


「本当にやるの?」


「うん。」


「今ならまだ引き返せるよ?」


彼は冗談っぽく言う。


私は少し迷った。


仕事の連絡が来るかもしれない。


友達からLINEが来るかもしれない。


投稿もしたい。


でも。


彼の顔を見ると。


「…分かった。」


私はスマホの電源を切った。


巾着の中へ入れる。


カチッ。


その音が、

思ったより大きく聞こえた。


---


最初の三十分は最悪だった。


何度もポケットを触る。


「あ…。」


もう入ってない。


そのたびに落ち着かなくなる。


「大丈夫?」


彼が笑う。


「なんかソワソワする。」


「禁断症状?」


「うるさい。」


二人で笑った。


でも。


本当に落ち着かなかった。


通知が来ている気がする。


誰かが連絡している気がする。


世界から取り残されるような、

そんな感覚だった。


---


商店街を歩く。


焼きたてのたい焼き。


「食べる?」


「食べる!」


熱くて二人で笑う。


服にあんこをこぼして、

また笑う。


古本屋に寄る。


変なタイトルの本を見つけて笑う。


道端で昼寝している猫を見つける。


彼がしゃがみ込む。


「見て。」


「かわいい。」


私は思わず言った。


「写真撮りたい…」


その瞬間。


二人で顔を見合わせる。


そして笑った。


「今日は目で撮ろう。」


彼がそう言う。


私は少し照れながら頷いた。


---


夕方。


公園のベンチに座る。


オレンジ色の空。


風が気持ちいい。


私はふと気づく。


今日。


一度も時間を気にしていない。


一度も通知を気にしていない。


一度も「投稿しなきゃ」と思っていない。


こんな休日。


いつぶりだろう。


「ねぇ。」


私が口を開く。


「なに?」


「今日さ。」


「写真、一枚もないね。」


彼は空を見上げたまま笑う。


「うん。」


「でも。」


「今日のこと、多分忘れない。」


その言葉に。


私は何も返せなかった。


写真は残らない。


投稿もできない。


でも。


今日の景色は。


ちゃんと心の中に残っていた。


私は初めて思う。


幸せって。


"残す"ものじゃなくて。


"感じる"ものなのかもしれない。


その時。


彼が静かに言った。


「ねぇ。」


「昨日聞いたよね。」


「なんであの写真送ったのか。」


私は頷く。


彼は少しだけ微笑んで、


ゆっくり口を開いた。


「君に、気づいてほしかったんだ。」


その一言に。


私は息をのんだ。



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