その写真に写っていたのは
「一日だけスマホを置いて、デートしよう。」
彼からの突然の提案。
たった一日なのに、私はなぜか怖くなってしまった――。
彼から送られてきた一枚の写真。
私は何度も見返した。
最初は。
彼の寂しそうな表情ばかり見ていた。
でも。
少しずつ気づく。
写真の中の私は。
夜景を見ていなかった。
彼も見ていなかった。
ただ。
スマホだけを見つめていた。
「こんな顔、してたんだ…」
思わず声が漏れた。
何十枚も撮って。
何度も見返したはずなのに。
私は一度も、
自分の姿を見ていなかった。
その夜は眠れなかった。
ベッドに入っても。
何度も写真を開く。
彼はいつから、
こんな顔をするようになったんだろう。
私が気づかなかっただけで。
ずっと前から、
寂しかったのかな。
そんなことばかり考えていた。
---
翌日。
会社で仕事をしていても、
頭の中はその写真のことばかりだった。
昼休み。
なんとなくSNSを開く。
昨日の投稿はさらに伸びていた。
「理想のカップル!」
「幸せそうで羨ましい!」
「彼氏さん優しそう!」
そんなコメントが何百件も並ぶ。
でも。
その言葉を読めば読むほど。
苦しくなった。
幸せそうなのは、
写真の中だけだったのかもしれない。
私はスマホを閉じた。
その瞬間。
彼から電話がかかってきた。
「もしもし。」
「昨日、ごめんね。」
彼が先に謝った。
「え?」
「急にあんな写真送って。」
私は慌てて首を振る。
「違う。」
「謝るのは私の方。」
少し沈黙が流れる。
すると彼が静かに言った。
「今度の日曜さ。」
「一日だけ付き合ってほしい。」
「どこ行くの?」
「決めてない。」
「え?」
「でも、一つだけ約束。」
私は笑いながら聞いた。
「なに?」
彼は少し間を置いて言った。
「その日だけ。」
「スマホ置いてデートしよう。」
思わず笑ってしまう。
「無理だよ。」
「仕事の連絡もあるし。」
「写真も撮りたいし。」
「投稿もしたいし。」
そう言う私に。
彼は優しく笑った。
「じゃあ。」
「一日だけ実験。」
「もしつまらなかったら。」
「もう二度と言わない。」
その言葉に。
私は少しだけ考えた。
たった一日。
それくらいなら。
「…分かった。」
そう返事をすると。
彼は嬉しそうに笑った。
「ありがとう。」
電話を切ったあと。
私は無意識にスマホを開く。
でも。
画面を見つめたまま、
指が止まった。
本当に私は。
一日もスマホなしで過ごせないのかな。
その時。
通知が鳴る。
反射的に開こうとして。
私は思わず手を止めた。
日曜日まで。
あと三日。
その三日が。
なぜか少しだけ怖かった。




