ゾンビ編 2/5
他の生徒より校舎側にいたので先に校舎に入る事が出来た。運動靴のまま3階の教室までの駆け上がった。教室のドアを勢いよく開け、授業中の教室に俺だけズカズカと入っていった。
ただでさえ男子禁制なデリケートな授業だっただけに、男子が、しかも土足で、しかも女子達の間を割って進んでいくんだからかなり顰蹙ものだろう。
俺の妄想ではこれが限界だが、リアルだったとしたら俺はゾンビに殺される前にここで女子達からの軽蔑の目に晒されて死んでたかもしれない。
だが、そんな危険を承知で円華の事を心配している…完璧だぜ。
女子からの顰蹙による軽蔑死は避けたいが、命をかけて彼女を守るという部分だけ切り取ってリアル円華に見せたかった。
「説明は後だ!俺を信じてついて来てくれ!」
「えっ?どうしたのソーシ君!?」
きっと円華は一度俺の妄想とリンクした事があるから、俺の真剣な表情で事態を察してくれる、という設定だ。
「わ、わかったわ」
円華は俺の手をとり、教室のみんなに向けてなのかペコリのお辞儀して俺に引っ張られて教室を出た。
俺と卓やんと円華は廊下を走っている。ここは説明する時間が惜しいから走りながら説明する、というシーンなので廊下がやたら長い。
「嘘みたいな話しだけど、ゾンビが現れて、リッチーが襲われた。グラウンドにいた生徒達も襲われてて、いずれこっちにも来ると思う」
「え!?リッチー君はどうなったの?」
「リッチーは…」
俺は卓やんの方を見た。
卓やんは静かに首を振った。
円華は目に涙を浮かべていた。
「俺達にはどうする事も出来なかったんだ…ごめん…」
「ううん。ソーシ君達は謝らなくていいんだよ。私よりソーシ君達の方が辛かったよね」
「ありがとう…」
本当に俺達にはどうする事も出来なかった。これはあくまで俺の妄想だがきっとリアルでゾンビが現れた場合、俺の予想を下回る事をしてくるだろうからリッチーの危機管理能力の低さは注意が必要そうだ。
「これからどうするの?」
「その事なんだが…」
「ギャーーー!や、やめっ!やめろぉぉ!!」
このタイミングで長い長い廊下が終わり目の前の階段から悲鳴が聞こえた。
行ってみると2階から俺達のいる3階への階段の真ん中辺りで生徒が倒れ、足をゾンビに噛みつかれていた。すぐさまゾンビは蹴り飛ばされ階段の下に倒れ込んだ。噛まれた奴は叫んでいた。
ゾンビは人間とあまり見た目が変わらなかったが、肌が白く不気味に顔全体的に青筋が浮き出していた。メイクで顔が変わる人ってこんな感じなんだろうか、このゾンビは良く見た塚原君だ。倒れ込んでるのは隣りのクラスの…名前は忘れたな。
噛まれたやつがひとしきり叫んだ後、突然痙攣を始め顔色が見る見る青白くなっていった。痙攣もやみ、ピタリと動かなくなったがむくりとおきあがった。ゾンビの完成だ。
「よし!職員室に逃げよう」
「よし!ってなんだよ!」
ゾンビに気づかれたかどうかわからないがとりあえず走ろう。俺は円華の腕を引いてゾンビとは逆の階段を4階へ上った。
職員室のドアは開いており、若い先生が数名廊下に出ていた。
「おい七女、授業どうした?外で何があったんだ?」
そうだった、今は授業中って設定だったな。しかも運動靴で、さらに4階まで来てるなんてなかなかエクストリームな事してるな、と思った。
「あ、それは…」
「キャーーーー!!」
説明しようとした途端下から悲鳴が聞こえた。
「下が危険なんです!見てきてください!」
「お前達とりあえず教室に戻ってろよ!」
先生達は慌てて下へ向かった。「見てきてください!」って俺、先生に死刑宣告しちまったな。
とりあえず職員室の入口を阻む先生達が消えてくれた。職員室に入ると授業だったので先生は少ない。残っていた先生が外を見て何か話している。俺は二人を職員室の入口に待たせ、職員室に忍び込んだ。
俺は山下先生の机に向かった。
山下先生の机の横に通勤用と思われるバッグがあったので遠慮なく開けた。目的は車の鍵だ。バッグのサイドポケットに鍵はあった。いくつか鍵があったが、車のメーカーのロゴが付いてるこれだろう。うちの親父のと同じメーカーだった。
職員室を出て二人にこれからのプランを説明した。
「これからきっとどんどんゾンビが増えていくと思うんだ。だから、自衛隊とかが動き出してゾンビ事件が終息するまで、あっちの中古本屋の近くにあるホームセンターあるだろ?あそこに立てこもろうかな、って思ってる」
俺は続けた。
「ホームセンターなら、入口から入って来られないようにする板とか釘とかあるだろ?ゾンビを倒すための斧とかチェーンソーとかあるし、あそこは俺の中で『武器庫』と呼んでいる。お菓子とか飲み物も置いてるし、土も野菜の種もあるから長期戦にも向いてる。もはやホームセンターはゾンビ襲撃に備えて作られた施設なんじゃねーかな?」
「なんだよそれwでもまぁ、確かにそうだね」
俺が冗談で場を和ませようとしたのを察してくれたのか、卓やんものっかってくれた。
だが、正直冗談で言っているのではない。ホームセンターこそ、俺が度重なるゾンビ妄想の行き着く先に見いだしたベストアンサーなのだ。理由は先ほど述べたが、多分発電機もあるから自給自足に近い生き方が出来るだろう。発電機にしてもチェーンソーにしても、野菜を育てるにしてもアーバン育ちのシティボーイな俺には扱えるかはわからないが、ネットが使えるうちに検索しておくというシミュレーションまで完璧にしてある。
土もあるので雨水を濾過して飲み水も作れるだろうと思っている。
そこで俺は円華との楽園を作るのだ。
ちなみに次点でショッピングモール。
入口をどう封鎖すればいいかわからないが、地下の食料品売り場があれば調理場もあるし、消耗戦となるがゾンビ終息までいけると踏んでいる。
そっちバージョンの妄想もまた練り直してみよう。
「問題は…ホームセンターまでの道のりだよね」
卓やんがそうつぶやいた後、一同が顔を見合わせ、俺の手に持った鍵に視線を移した。
「免許は持ってないけど、ソーシ君、運転出来るの?」
「ゲーセンのハンドルとかついてるアレ、ゲーセンに行ったら5回に1回くらいやるがアベ4位くらいだ」
「あんまりうまくはないね」
「アクセルとブレーキと、エンジンがかかればどうにかなるんじゃないか?」
多分そうだ。親父の運転を見てたらなんとなくそんな感じなんだ。妄想ではそういう事になるはずだ。
「まずは校舎裏の駐車場で山下先生の車をパクろう。グラウンドと逆側だから、ゾンビに注意しながらいけばいける気がする」
「問題は、ここは4階だね。下まで降りれるかな?」
円華が不安そうにいった。確かに俺達には武器がない。
その間にも下の階から時折悲鳴が聞こえていた。
火事の時の避難用具?あれ、確か滑り台みたいになってるんじゃないか?
ここまでは妄想の中で考えていなかったな。どうしよう、アドリブは苦手だし、避難用具の使い方もわからないからリアリティに欠ける。そういうディテールにはこだわりたい。
教室などを想像するが武器になるようなものってあったっけか?ペンや定規?音楽室のギター?そもそも鍵は?
クソ、ちょっと焦ってきた。
今回の妄想はこの件に関して次回の妄想までの宿題にしておいて、今回は端折ってしまおうか。
駐車場に着いたところからにしてしまおうか…
そう考えていると階段の下から勢いよく駆け上がってくる足音が聞こえてきた。
お昼頃にもう1話アップ予定です。
よければお読みください!




