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ゾンビ編 1/5

俺は部屋の壁掛け時計を見た。


23:30


「さて寝るか…」


きっと一般的な高2の学生は、せっかくの夏休みだから健全に夜更かしをして若さを謳歌しているに違いない。


俺こと「七女(ななめ) 相心(そうし)」の趣味と呼べるかわからないが、ささやかな楽しみは妄想する事だ。

設定や物語を考える。自分が妄想で作り上げた脳内アニメを楽しむのだ。

どことなく人気漫画に設定が似ていたり一体何番煎じなのかわからないようなおきまりの設定や展開が多いので、そんな斬新さの欠片すらない自作の妄想ストーリーを漫画や小説にしてわざわざ他人に見せる必要も無いだろう。

そもそもそんな事を妄想してる事を友達に知られる事なんて論外だ!妄想というのは記憶や考えて以上にディープなのだ。知られる等とは言語道断。恥ずかし過ぎて、羞恥死する。羞恥死という言葉が無いのならば今すぐ作れ。ここに存在する。


しかしながら俺はその死すらも超越する事で彼女ができ、リア充高校生へとジョブチェンジした。


もはや開き直って今日も自分だけの妄想を満喫する事にした。



そう、さっき観た金曜の映画番組のテーマ「ゾンビ」!これに勝る妄想などあるのだろうか?…ある!まぁ、他にも沢山素晴らしい妄想はあるのだが、「もしゾンビが出たらどう対処するか?」という論争に決着をつけるべく、俺は今夜も妄想する。


突然ゾンビが増殖し、街はパニックに!俺は親友と力を合わせゾンビに立ち向かう。そして愛する彼女を命がけで守り強まる絆、深まる愛。天才的頭脳を遺憾なく発揮し、見事ゾンビ達に屈する事なく生存し、救助されるのだ!



そういうハッピーエンドな妄想……

決まった!!!



『ゾンビが襲ってきたけども親友と彼女を連れホームセンターへ籠城~知恵と工夫のDIYで悠々自適の自給自足生活~』



あっ、それと前回の反省を活かし、ゾンビの最初の生け贄はクラスでいつも調子に乗ってるバスケ部の奴だ。ゾンビになって変わり果てた姿を遠慮なくボコボコにさせてもらおう。



さて…気を取り直して…


俺は妄想世界にダイブした。






炎天下の中、男子はグラウンドでサッカー、女子は教室で保険の授業だった。

あの、女の子の話しとかするやつだ。


俺とリッチーと卓やんは、先生がいない事を良いことにグラウンドの隅っこの木陰に座ってサボっていた。

一応たまに「ヘイ、パス!パス!!」とか声を出してちゃんとしてます風アピールをしていた。



たまに後ろを振り向き、教室にいるであろう円華の事を考えた。


「ソーシ、まーた彼女の事考えてんの?」


「うっせーわ」


卓やんに図星のつかれた俺は足元に落ちてた小石を拾って力いっぱい遠くに投げながら言った。


小さくてどこに飛んだかわからないが、向こうでサッカーしてる奴が「痛ぇ」って言う声が聞こえたから多分あっちなんだろう。



「なんかおもしれー事ねーのかなー」


退屈そうにリッチーが言った。

ちょうどその時、校門からフラフラと歩いてくる男がいた。片足を引きづっているからあまり早くはなかったが、どう見ても様子がおかしいしここの生徒の保護者って感じにも見えなかった。

サッカーをしていた生徒らもポツポツとサッカーを中断し始め、その男に注目した。


「お?何なに?なんかあのおっさんヤバくね?酔っ払い?」


リッチーがウキウキしながら立ち上がった。


ちょっと待て。これ、俺の妄想だよな?まぁ、あの男はゾンビって設定なわけだけど、なんでよりによってリッチーの発言が皮切りになったんだ?


もしかしてまたリッチーが妄想でリンクしてきたのか?だとしたら最悪だ。

また龍昇想波流とか使われてハチャメチャになってしまう!せっかくゾンビ映画を見て妄想が膨らんでるっていうのに!


とにかく確認してみよう。


「なあリッチー、龍昇想波拳使ってみてよ」


「ちょっ!バッ!!おまっ!しっーーー!」


「え?ソーシ今なんて言ったの?」



よし、これは完全に俺の妄想のリッチーだ。

リッチーはリアルではもちろん龍昇想波流の継承者であるという設定など誰にも話していない。だから卓やんの前での反応で判断できた。



「面白そうだから見てくるわ!」


ごまかすためにリッチーが逃げた。

ゾンビとも知らず、生徒達は男を遠巻きに取り囲み始めていた。この後一人の生徒が襲われて、そこからパンデミックが始まるのだ。

 

あ、前回の反省を活かしてちゃんと最初の犠牲者はバスケ部の園田にしよう。別に俺に絡んでくるわけではないし、隣りの席になったときは普通に喋るんだが、あいつはなんて言うか…キラキラしてんだよ。

もはや彼女の出来た俺は心にゆとりが出来た事で園田に対してなんとも思わないが、あいつが生きてると俺の妄想の中とはいえ、あいつの方が活躍しそうで困る。


遠巻きの一人、園田が男に話しかけた。


「おじさん酔っ払い?かなり顔色やべーけど大丈夫ッスか?」


遠俺と園田達との距離は30mくらいあるので本来会話は聞こえないはずだが、そこは俺の妄想。どうとでもなった。


「わー、おっさん!ゾンビみたいですね?病院行きましょーよ!おわっ!!ギャーーー!痛い痛い!!噛むなって!!血ぃ出てるやろ!!!いい加減せいや!!殺すぞクソオヤジ!!!」


わっ!ちょっ!バカっ!!

皆、男から適度に距離をとっていたはずなのにリッチーがゼロ距離で話しかけるもんだから真っ先にリッチーが噛まれてしまった。

噛まれたリッチーは腕から血を出しながら思いっきり男の頭をぱどついた。



クソ!リッチーのバカ!

あーもう、めんどくさくなってきたから途中経過をすっ飛ばしてリッチーもゾンビになったところからにしよう。

俺は想像力を働かせ映画のチャプターのように少し時間を飛ばした。



状況が一気に悪化しグラウンドでは悲鳴が上がりゾンビが増え、生徒達が散り散りに逃げている。

きっとあのゾンビや生徒達の中に混じって、今頃ゾンビとなったリッチーもいるのだろう。



「な、なんかヤバいんじゃない?ゾンビみたいじゃない?」


卓やんが立ち上がって後ずさりしている。


「多分ゾンビだろうな。噛まれたらゾンビになって人を襲うんだろう」


俺は校舎を見た。


「ひとます教室に逃げよう、円華が心配だ」



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