ゾンビ編 4/5
「車でホームセンターまで行く。運転は妄想だからある程度大丈夫だ。到着する時に壁に激突する予定だがエアバッグが出る」
「相変わらず凝ってるな」
俺がリッチーと打ち合わせする。背後で円華と卓やんには一旦フリーズしていてもらうことにした。
「ならまずらここから飛び降りるか」
リッチーは4階の廊下の窓を指差した。バカだ。好きだ。
「残念だが今回は階段を使おう。幸いまだゾンビはそんなに増殖していないはず。他の教室の生徒が犠牲になっている事になっているから、今のうちに駐車場までいこう」
「ゾンビ、そんなに増殖してない…ね。うん」
リッチーが窓から外の駐車場側を見下ろした。
歯切れの悪い返事だったので俺も外を見た。
花火大会でもあんのか?ってレベルでゾンビがいた。もう襲う人とかいなくて12000%くらい飽和状態だった。なんだこのバカみたいな数。
「リッチー、お前だろ?」
「何が?」
「このゾンビだよ。俺も詳しくないけどうちの街の人口を遥かに越えてるだろ」
「だって、これくらいいないと技が使えねーじゃん」
もう俺の設定は完璧に崩壊していた。
車での移動は無理だし、ホームセンターまでたどり着くのも無理そうだ。
こうなれば円華と卓やんを守りつつ、またリッチーとの共闘によってゾンビを制圧しないといけなさそうだ。
早くこの妄想を終わらせよう。
俺は円華と卓やんに説明した。
「思った以上にゾンビが増殖しているみたいだ。俺らは完全に囲まれている。ここでゾンビとの決着をつけよう」
「えぇ?決着って、俺ら武器とか持ってないよ?」
「大丈夫だ。俺とリッチーがなんとかする」
卓やんにそう伝え、俺は円華の方を見た。
「円華、お前の事だけは絶対に守る。安心してくれ。なぁに、パパっとやっつけてすぐに戻ってくるよ」
もう俺は腹を括って死亡フラグを立てた。
この妄想では俺は死亡フラグを立てた事により円華と涙のお別れをする。円華を守り俺はゾンビに噛まれる。俺は自我があるうちに円華を逃がしてゾンビ
達を爆弾のある部屋に閉じ込め身を挺して円華を守る。お別れのシーンで円華と最期のキスをするのだ。
「ソーシ君…私も一緒に戦うわ!」
「はは、大丈夫だって。こう見えて俺、強いんだぜ?」
二本目の死亡フラグを立てた。
円華に強がってみせる。妄想の中では実際強いから強がって見せたというのは正しいのかよくわからない。
リッチーと無双すればこれくらいのゾンビもすぐに片付くんだろうが、リッチーの妄想に付き合うのもなんだか癪だ。
ゾンビを全て倒したと気を緩めたところで物陰に潜んでいたゾンビから円華を守って噛まれよう。
「ヨッシャー!話はまとまったみたいだな!じゃあみんな!下は危険だから屋上にいけ!」
リッチー屋上好きだな!
みんなで屋上に行った。前に俺が妄想した屋上と同じだった。俺が死んだタイミングで救援部隊がこのヘリポートに到着するというオチでいいだろう。
俺達は屋上へ移動した。
「さーてお出ましだ!」
リッチーがそういうと、屋上に入るドアからゾンビがわらわらと現れた。リッチーがゾンビの群れに飛び込んで行った。
俺もそれに続く。
リッチーのパンチやキック1回につきゾンビが3体くらい破裂する。たまに出す衝撃波なんて一気にゾンビを20体くらい消し炭にした。
俺自身の強さの設定がよくわからないのでとりあえず1体ずつ倒していくことにした。
うちの学校にこんなに沢山生徒いないだろ、って数のゾンビを倒しきったところで、背後で身を潜めていた卓やんが叫んだ!
「あ、あれ見てよ!」
卓やんが指差した方向を見た。
グラウンド側の先、300mくらいのところにこの校舎と同じくらいのサイズのゾンビがいた。
いや、もう本当に意味がわからない。あいつがゾンビになる前もあのサイズだったわけだろ?どこに住んでたんだ?何県民だ?テレビで話題になれよ!
「すげぇなあれ…」
リッチーも感心していた。
「あれ、どうすんだよ?この前のあの技使うのか?」
「そうだな…その前に覚醒して真の力に目覚めれば、倒せそうだな」
またよくわからん設定が出てきた。
「そもそも倒せそうだな、とかなんだよ。無責任だな。あいつ倒せばお前の妄想終わりなんだろ?」
「…かな?」
「自信持てよw俺はな、とりあえずゾンビを倒し終わった後に気を緩めたところで襲ってきたゾンビから円華を守って噛まれて死ぬから。最期に円華と悲しいお別れシーンあがって、そ、その…そこで、キ…キスとかするんだから邪魔すんなよ」
「お互い、もう開き直ってんよなww?」
「わわっ、ソーシ君、それちょっと堂々と宣言し過ぎだよ!ハズい!」
「あぁ、悪ぃ悪い。だってよー、リッチーどうせ空気読まずにキスシーンの時に話しかけてきたり、実況したりとかしそうじゃん?早めに釘さしとかなきゃって思ってさ」
「うーん、そういうのじゃなくてさー」
「映画のラストシーンみたいでいいじゃん!」
「でもソーシ君が死んじゃうのはやだなー」
円華がゴネる。
しかし、もうこんな状況だし、綺麗にゾンビを倒して締めくくるエンディングが思いつかない。それに妄想だし、実際に死ぬわけじゃないんだから先立つ俺を許してくれ。
「さて…あのゾンビの倒し方は決まったか?」
リッチーの方を見たがまだ考え中だった。必死に妄想してるんだろう。
もうちょい待つか。
「リッチー待ってる間、何しようかな。みんな夏休み何してんだろ?俺、特に予定も無いんだよなー。さっきのゾンビの群れを見てたら花火大会行きたくなったわ。円華と花火見てぇーー」
「何それw明日って確か花火大会でしょ?一緒に行く?」
「いいね!円華の浴衣姿めっちゃ見たいわ!」
「浴衣ねwはいはい。着てくるよ」
「やったぜ!花火見ながらキスしてぇー!高校生活ロマンチックしてぇーんだよ!」
「ははは、ゾンビに噛まれたソーシ君とキスするよりそっちの方が私もいいかなw」
「やっぱそーだよな?俺も死にたくねーもん」
「そうと決まれば、あのゾンビ倒しちゃおっか!」
そういってゾンビの方を向き、円華が両方の掌をゾンビに向けた。
「むむむ!」
円華が念じると巨体ゾンビがゆっくりと浮かび上がった。
ん?ん?ん??
どうなってんだ?逆側にいたリッチーの方を見ると、「おーー」と感心しながらゾンビを見ていた。
「どういうこと?リッチーの技?」
「ん?あ、いや、俺じゃねーよ。城島の超能力じゃね?」
へ?どういうことなの?超能力って何?
俺は振り向いて円華を見た。
「そだよー、私の超能力!あのゾンビも私が考えたやつね!最近読んだ漫画とごちゃ混ぜになっちゃったw」
この際ゾンビのサイズはどうでもいい。円華も妄想に入ってきてたのか。いつだ?
振り返ってみるが、自分の本来の妄想とこのごちゃ混ぜの妄想と、さらにこの状況の理解で頭が追いつかない。
そうこうしているうちにゾンビが天高く浮いていた。
ゾンビが高いところを飛んでいる鳥みたいに小さくなっていて、ここからじゃゾンビかどうかわからなかった。
「えい!」
たいした力を込めた様子もなく気の抜けたかけ声で空中にいたゾンビが爆散した。まあまあおぞましい最期だ。
「汚ぇ花火だぜ」
リッチーがやかましかった。
「なんかキモいから、キレいな花火もあげとくね!」
そういって円華が右手を上げ、空に向けてくるくると腕を回した。
突然空が暗くなり夜になった。
どこからともなく遠くの空で打ち上げ花火があがる。
さっきまでのゾンビとの死闘が嘘のように静かで、心臓に響くような花火の打ち上げた音と、散っていく花火の音だけが聞こえた。
「明日の花火、忘れないでね」
いつの間にか隣りにいた円華が言った。
「もちろん」
妄想が終わるまで手を繋いで花火を眺めた。
明日の午前中に最終話をアップして、また別の作品を投稿させていただきます。
よかったらそちらの作品もよろしくお願いします!




