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アサとヨルの怪異譚  作者: 倉トリック
人の皮被った羊
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捕獲計画

「良い怪異なんて絶対にいない」


 怪異対策局東支部の会議室で、資料を見つめながら深夜琴音は言う。霧谷と、白石は顔を見合わせ、やっぱりな、と言いたそうな顔を浮かべた。


 前回の任務、『猿』の討伐失敗と、そもそも『猿回村』そのものが消滅したという圧倒的未解決で締めくくられてしまった今回の事件を機に、本部で新たな計画が立てられた。


 戦闘スーツ『タリスアーマー』の戦闘データも加味した作戦、怪異の生け捕り及び()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 中央支部での会議でソレを伝えられた霧谷は、頭を抱えた。あろう事か本部は、大橋静の戦闘をかなり評価しているようだ。


 口頭でも伝えたし、報告書にもしっかり記した通り、あの村での『タリスアーマー』を用いた戦闘は最終的に敗北で終わっている。装着者の静が生き残っているのが奇跡と言わざるを得ない完膚無き敗北だった。


 だがしかし、戦闘データを見た本部の反応は『素晴らしい』というものだった。曰く、そもそも素人が生き残れた事、猪の怪異と対峙するまでに何体も怪異を討伐している事の2点。改良の余地はあるが、計画そのものを白紙に戻す事は無いと。


 そこまでは、正直言って問題無い。わざわざ素人に戦わせる必要は無いという意見は変わらないが、あのアーマーを有効活用するのは大賛成だ。生身で戦うより遥かに生存率が上がるだろう。


 大問題なのは、怪異を生け捕りにしろいう点。討伐するだけでも一苦労な怪異を、あろう事か生かして捕まえろと、しかもその手段はこっちで考えろと。


 その上、()()()()()()()()()までしてきた。それもまた、問題の一つだ。


「深夜、気持ちは分かるが本部からの命令なんだ」


「ぬぅううう……」


 缶のカフェオレを飲み干して、深夜はテーブルに突っ伏す。今までに無いくらいやる気が無い、というか、これ以上話を聞く気すら無いように思える。


「『()()()()()()()』これまでの動きと、一時的にでも共闘したお前や望、呉さんの報告を照らし合わせて、俺達に協力してくれる可能性が最も高い」


 という本部の判断。霧谷自身はウサギとの遭遇経験は無いのでなんとも言えないが、少なくとも2人の仲間の命を守られている。信用するには材料が足りないが、敵対するには妙な違和感が残る。


 とはいえ、深夜が嫌がるのも分かる。ウサギは報告のたびに姿や能力を変えている。本人が隠しているのか、まさかとは思うが後天的にどんどん発現しているのか、どちらか分からないが、現状で能力は未知数、目的も不明、そんな奴を捕獲して、あろう事か仲間にしようなんて、不安要素しかない。


 最悪内側から組織ごと潰されかねない。敵はいつだってコチラの予想を裏切ってくる、警戒して損するという事は無いだろう。


「ていうか、似たような子ならもう既にいるのにー?」


 髪をいじりながら白石は空席に目を向けながら言う。


「今は知朱ちゃんとこにいるんでしょー? なんであの子達には声かけないの?」


 何も気にする事なく喋る白石に、霧谷は呆れた様子で小さなため息を吐く。深夜の目が、一瞬鋭くなったのを感じた。


「……まぁここならいいが、デリケートな話だからあんまり言いすぎるなよ」


「でもあの村での戦績で1番大きいのはあの子でしょー? なんでそっちを使わないのかな? 素性も知れてるし、ウサギちゃん狙うよりずっと安全だと思うけど」


「仲間の姿をしてる怪異だよ、ですよ、安全なんてありえない」


「コトネちゃんは徹底してるねー、でも調査と観察の対象だから殺っちゃダメなんだよー?」


「……滝川さん可哀想、その原因だってウサギなんでしょ? 味方なわけない」


 表情を変えず真顔のまま舌打ちをする。深夜の目的は一つ、怪異の皆殺し、どうあれ一時的にでも生かしておく、なんて事は不愉快なのだ。


「その原因がウサギだからこそ、対象を捕まえて滝川と合わせて調査したいんだろう、理解は出来る、が、俺達に丸投げなのが納得いかんな」


 霧谷班で動けるのは今や3人。霧谷、白石、深夜、滝川は言わずもがな自由に動けるわけがなく、実質的な戦闘不能状態。極端に、本当に極端に人手不足な中、普通より難易度の高い任務を丸投げ。これ以上人員が減っても良いと言うのだろうか。


 だが、しかし。


「納得いくかどうかは、残念ながら問題じゃない。さて、愚痴タイムはここまで、ここからが今回の会議の本題だ」


「どうやってウサギちゃんを捕まえるかだねー」


 たった3人で。と付け加えながら、白石はネイルをいじり出す。態度はともかく彼女は至って真面目な顔をしている。仲間が減っている事に、やはり少し気が滅入っているようだ。


「そもそも、どうやって見つける……」


 何度も目撃情報はあれど、いざ探し出すとなると手がかりはゼロだ。人間の皮をかぶっている時、どんな姿をしているのか、そもそもオスかメスかも分からない。


「……いつも通り仕事すればいいと思う、思います」


 ポツリと、深夜が言う。


「と、言うと?」


「アイツ、何か怪異が騒ぎを起こすとしゃしゃり出て来るから、いつも通り仕事してたら、そのうちひょっこり出て来るかもです。そこを斬ればいい」


「斬っちゃダメだって」

「斬るなって」


 2人してツッコむが、深夜の言う事はもっともだとも思った、というか、現状それぐらいしか思いつかない。色んな任務を掛け持ちする形になるかもだが、ピンポイントで狙うより遭遇率は上がるだろう。


「とりあえず、その方向で動くか。手っ取り早いのは、他の班に同行させてもらう形だな」


「他の班……あ、そういえば、梅井うめい班が失踪事件調べてたよ」


 白石の提案に、霧谷は難しそうな顔を浮かべる。


「梅井さんか……あの人、自分の仕事に手を出されるの極端に嫌うからな……果たして協力させてくれるのか」


 とはいえ、多分悩んでいる時間は無い。うだうだしているうちに犠牲者が出たり、他の班や、新たな怪異にウサギが殺されてしまう可能性だってある。


「よし、協力を仰いでみる、2人は準備しててくれ」


「りょーかーい」

「了解」


 こうして、ウサギ捕獲作戦が動き出した。


─────────────────────


「え? 霧谷?」


「はい、なんか協力させてくれって」


 部下からの報告に、梅井伸介(のぶすけ)は怪訝な表情を浮かべる。


「めんどくさいな……なんで他の班の面倒まで見なきゃならんの」


「最近負傷者死傷者多数出た班ですからね、人手不足なんでしょう」


「班長が力不足なだけだろそれ、めんどくさいな、でも断ったらこっちの評価まで下がるだろうなぁ」


 梅井はしばらく考えて渋々「分かった」と答えた。


「じゃあ今回は霧谷班と合同で、でもみんなそんなに気遣わなくていいから、いつも通り仕事しようね」


 本当に、心底めんどくさい。評価の低い奴は、すぐに人の功績に乗っかろうとするから嫌いだ。


 梅井は部屋を出て、自販機でブラックの缶コーヒーをひとつ買って、喫煙所でタバコを吸いながら思う。


(死なせてもサボらせても、こっちの評価まで下がるデメリットがある……でも、もし役に立たせる事が出来れば……頼むから俺が中央に行く邪魔だけはしないでほしいわ)


 合同作戦の裏で、1人の男の思惑も動いていた。

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