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のじゃロリと異世界漂流日誌  作者: 右回游
序章 新たなる船出

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第3頁 マーレとマリネ


「さくら…さくら…いま…」


枕があるほうにマーレの足があり、シーツは渦を巻いていた。180°の大回転である。


「ん…?ん〜っ!よく寝た!」


せいいっぱい伸びをするマーレ。

軽快にベッドから起き上がり、寝室のドアを開ける。


「おはよう」


「もう起きとったのか」


「あぁ。実も摘んできた、朝ごはんにしよう」


「おぉ!気が利くの〜」


ココナッツを半分に割った器に八つ切りにした巨大さくらんぼを並べる。


「おぉ~器用じゃの〜。しかし、何故わざわざ切ったんじゃ?」


「昨日口にべったりついてたから食べやすいようにと思って」


「う、うむ…そうか…ここまでされると小っ恥ずかしいぞ」


マーレは子ども扱いに羞恥心を感じて顔を赤くし、そっぽを向く。


「このナイフを見つけたから、試してみたかったしな」


木で出来た刃渡り5cmほどのナイフを見せる。


「それ、あんまり切れ味がないじゃろ」


「皮の薄い果物がギリだな…」


「硬いものや生き物には…これじゃの」


マーレはキッチンから、洞窟に生える、光る鉱石を持ってくる。朝方ではあるものの、外のそれに比べると弱々しい光を放っている。


「それ、明かりじゃなかったのか」


「そうじゃ。よく切れるぞ」


「じゃあ次からはこの光るナイフを使おう。それはそうと、生き物って、果物の他にも食べられるのがいるのか?魚とか」


「魚と鳥じゃの。島に生きるものは、木々同様に強大なものばかりじゃが、島に寄り付く生き物はそれほどではない。そうさな、われオススメの狩りスポットを案内しよう!」


食事の後、光るナイフを片手に進むマーレの案内で、また別の洞窟の出口へと向かう。三本目の出口の先は──崖の中。

岩肌の30メートル下で、海が白い波を立てていた。岩肌の凹凸は不揃いではあるが下までの道を作っている。


「よっ…ほっ…とっ…とっ…」


不安定な岩場でもマーレは軽々と降りていく。八艘跳びもかくやと言った身軽さだ。マーレが踏んだ場所をトレースしてついて行く。


「よっ……ほっ……とっ……とと…とぉッ!?」


足を滑らせた──が、重心を元に戻して尻もちをつく。危機を寸前で回避したことに安堵し、吐息を吐く。


「大丈夫か〜!」


「大丈夫だ〜!」


起き上がり、慎重に下を目指し、ようやく海岸まで降りてきた。


「それで、どうやって魚を取るんだ?」


マーレはしなやかに体をよじって──襤褸ぼろを脱ぎ捨て──


「よっ」


ドボンッ──!美しい流線型を描いて、海に飛び込んだ。


「素潜りか…」


脱ぎ捨てられた服を拾い上げ、岩に腰掛ける。


岩に打ち付ける波の中に、何かを振りほどこうとしているような水飛沫が右へ左へ。


「ひょっとしなくてもあれマーレか…?どれだけデカいの獲ろうとしてるんだ…」


ものの数分で海面から浮上し──


「──ッ!ったど〜ッ!!!」


自身と遜色ないほどに大きな魚を持ち上げたマーレは、そのまま波打ち際へと移動する。


「なにさ、最後の掛け声」


「ん?あぁ、なんだか言わなきゃいけない気分になってのう」


「なんだそりゃ」


釣果を受け取り、服を彼女の頭に被せる。


服を着てブルブルと頭を振るマーレを横目に魚を見る。姿はクロダイに似た、1m超えの超大物。一体何年ものだろうか──

ひっくり返してみると光るナイフがエラに深々と突き立てられていた。


「恐るべし野生児…」


「よし、戻るか!」


「ちょっと待ってくれ、ここで締めておく」


ナイフを引き抜き、尾ビレの付け根を刺し、少し置いてから、エラに再び刺し込み神経を断つ。

マーレは締めの流れを興味津々で見つめる。


「こうすると美味しく食べられる」


「ほぉ~」




「──よっこいせ…じゃ、行くぞ!」


頭の上に魚を載せて、幼女は歩き始める。


「フフフ、フフフ、フ、フ、フ〜♪」


マーレはご機嫌な鼻歌を奏でながら、魚を担いだまま岩肌を登る。


「いやー、ここまで大きいのは久々じゃ!」


ノゾミは、マーレの年相応にはしゃぐ姿に安心感を覚える。


「今日はノゾミが来た記念に魚ぱーてぃーじゃ!」


ツルッ──!足が濡れているせいでマーレは足を踏み外してしまった──


「おわ──っ!」


「おとと…大丈夫か?」


後ろ向きに倒れたマーレの背を支える。


「す、すまぬ、はしゃぎすぎた…」


──無事に小屋に戻って魚の調理を始める。


「その前に、調理って焚き火?」


「いや?魔術がある」


水汲みから戻ったマーレが答える。

魔術がある世界だったか…


「術式の描いてある丸い石の台に、この鍋を置くと、熱が生じる。鍋の底にも術式が描いてあって、ニコイチの式というわけじゃ」


水を入れた石鍋を載せてみる──するとほんのり熱が生じ始めるのを感じる。


「そしてこの台に付いてるツマミを右に回すと火力が上がる。逆も然り。うむ、実によく出来た術式じゃ」


石の台が一部だけ回転し、術式を変えることで出力が変わる。


「左端だと熱は出ない、と。完全にIHコンロだな…」


壁画といい小屋といい、一体誰が作ったのだろうか…セレっていう精霊…なのか?

そんなことより、今は料理だ。


「塩ってあるか?」


「あるぞ。ほい」


「あるんだ…」


「セレの教えで色々揃えておるのじゃ」


ふふん、と胸を張る。


「じゃあ、調理開始だ」


フライパンがないから煮物にするとして…水で煮て、さくらんぼが残ってるからマリネっぽくするか。あの酸味なら問題ないだろう…よし。


「島に生まれた人間たるもの、魚の捌きくらいはできるべし…」


漁師である祖父の教えで身に付けた、捌きの技術を、今こそ振るう時──!


「刃渡りの短いナイフでどこまでやれるかな、と」


ナイフの背で鱗を落とす。

次に、胸ビレと腹ビレに沿って頭を落とす。腹を割って内蔵を取り出し、水で洗う。尾ビレを落とし、3枚に下ろして、半分の皮を剥いてぶつ切りにし、鍋に入れる。もう半分は──


「マーレは魔術を使えるのか?火を起こすみたいな」


「使えるぞ!」


先ほどから手伝うことがないかとソワソワしていたマーレが目を輝かせる。


「じゃあ、これ焼いておいてくれるか?皮目はじっくり焼いて、身はサッとで」


何枚かに分けて串に刺した切り身をマーレに渡す。


「任された!」


マーレは串と薪を持って小屋を出る。


──グツグツと煮えたら、鍋から身を取り出し、皿に盛る。さくらんぼを絞り、細かく切ったさくらんぼをアクセントに入れて、塩を少しふる。


「さて、味見を…うん、油が欲しい…」


マーレの様子を見に行くと、両手の指の間に串を挟んで火にかざしていた。香ばしい匂いが漂ってくる。


「皮目じっくり、身はサッと…」


「こっちは出来たぞ、そっちはどうだ?」


「こっちも終わったとこじゃ!」


小屋に戻り、皿の上に焼き魚を並べる。


「おぉ〜!これが料理というやつか!」


なんちゃってマリネに興奮するマーレ


「深刻な材料不足だが、まぁ料理だ。マリネ、フランス料理で海を意味する」


「ほぉ〜!」


マーレは料理の名前を聞いて大興奮し、年よりも幼い振る舞いを見せる。


──言霊が感情に呼応し、彼女にフランスの料理店の風景を幻視させた。


「さて、俺は焼き魚からいただこうかな」


「うむ!ぼなぺてぃ、じゃ!」


フランス語…これも言霊ってやつの影響か?

焼き魚を齧る。


「あぁ…塩振っただけの焼き魚が旨すぎる…」


久々のタンパク質に身体が歓喜する。


「われもマリネとやらを…あむっ」


木のフォークをマリネに刺して口の中に入れる。


「ほわぁ…魚の食感と酸味の調和が最高じゃ…」


「時間が経ったから味が染みて身も柔らかくなってきたな、悪くない」


──3分の1を二人で食べた。


「さすがに食べきれんのう…」


満足げな顔でマーレは呟く。


「問題ない、どっちも保存が効く。蓋をして置いておこう」


ココナッツ皿を重ね合わせて蓋とする。料理を片付けた後、再び椅子に座り、マーレと向き合う。


「それで、少し相談があってな。これからのことなんだが…一緒にこの島を出ないか?」


「…出られるのか?」


「造船と航海について、それなりの知識はある。造船に何年かかるか分からないから、今すぐってわけじゃないけど」


航海術なんて、高校生が趣味で知り得る程度の知識しかないし、木造の帆船は本の知識だけだが、やるしかない。帰る方法を探すためにも、まずはこの島を出なくては。


「われは…この島を出たいぞ。セレも、われが島を出ることを望んでおった。われの名前も、そう願ってつけたのだと…どれだけ難しいことか、われには分からん。じゃが、協力させとくれ」


「…ありがとう、よろしくな」


「よろしくじゃ!」


さかな、さかな、さ、か、な


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