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のじゃロリと異世界漂流日誌  作者: 右回游
序章 新たなる船出

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第2頁 君も遭難ですか?


「いたい…」


正座し頬をさする。


「なんじゃお主は!」


10やそこらに見える幼女は、布切れを両手で引っ張って臨戦体制で問いかける。


「ここに流されてきて、危うく遭難しかけていたんだ」


「漂流!この島にか、不幸じゃの」


「島なのかここ…というか言葉が通じるってことは君も日本人か?」


「ニホン?ようわからんが、われらは言霊の法で通じておるだろう?」


「法…?」


「セレが言っておったんじゃ。お互いの言葉がわかるように吟遊詩人が法を作ったとな」


法律、憲法…いや、法則か?…法則を作る?人が?


「それで、君はここの住人なのか?セレって人もここに?」


「あー…いや…」


何か言えないことがあるのか、目を泳がせる幼女。


「そう!われも流されてきたんじゃ!セレは…最近は見かけんのう」


大人びたを通り越して古びた言葉遣いをしている彼女が、見た目相応な寂しそうな顔を見せた。


「最近は見かけないって、この島から出る方法があるのか?」


「島を出たわけではないぞ。セレはるのからんのかもあやふやな精霊じゃからの」


「精霊?」


「われも詳しくは知らぬが、セレが言うには意志のある魔力の塊だと」


「…魔力??」


ここはやはり現実ではない…いわゆる異世界なのか…?


大きく首を傾げると幼女は大きくため息を吐いた。


「お主…ほんとに何も知らんのか…記憶でもなくしたのかの?自分の名前は分かるか?」


「そういや名乗ってなかったな。いかり 望海のぞみだ。記憶は…無くなってないと思う」


笑顔で送り出してくれた両親、友人、顔馴染みの大人たち…まだ記憶に新しい顔を頭に思い浮かべる──


「魔力が伝わらんとは、われより世間知らずじゃのぅ…われはマーレ。海を意味するらしいから、お揃いじゃの」


……マーレで海ってイタリア語じゃなかったか?偶然か…いや、情報もないのに考えてもキリがないか。


「何はともあれ、よろしくマーレ」


「うむ!よろしくじゃ、ノゾミ!」


ぐぎゅるるるる…


「おっと…」


「フフッ、飯にするかの。ついてきとくれ」


来た時とは別の道を通り、洞窟を出る。空を見るとすっかり赤くなっていた。


「はよこーい!ノゾミー!」


慣れた足取りでぐんぐんと森の奥へ進んでいくマーレ。


「足はっや…」


巨大な根で凸凹な森をうさぎのように跳ねていくマーレを、後ろから辿々しい歩みで追いかける。


「ハァ…ハァ…どこに向かってるんだ?」


「今の時期に果実がなっておる木のところじゃ。この島の木がちょーデカいってのは分かっておるな?」


「ちょーデカいよな」


「この島にある木は全部で15本。毎年実をつけるのは12本でな。それぞれ実をつける時期がズレておるのだ」


「季節が実のなる木でわかるのか、便利だな」


「今は赤の実の季節だからその木を目指しておる。ちなみにこの辺は黄色の実、2つ後の季節じゃ」


「島博士だな、マーレ」


「フフン!この島のことならなんでも聞いてくれて良いぞ!何せこの島に来てもう10年にもなるからの」


「まさかの大ベテラン」


待て…流されて来たの、もしかして赤子の頃じゃないか…?


──いぶかしむノゾミを見て、マーレは狼狽うろたえるようなそぶりを見せる。


「…さて、見えてきたぞ!」


青々とした森を抜けると、夕日が差し込み──


桜色の景色が現れる。


「綺麗じゃろう、赤の実の木は実がなると、葉が薄いピンクに染まるのじゃ。実がなった木はこうやって葉の色が変わる」


「桜──」


そうだ、今年はまだほとんどが蕾で見れていなかったな…


「ほれ」


「おっとと…」


景色に見惚れているうちに木の上に登っていたマーレから赤い実が投げ渡される。片手でギリギリ掴めるほどの大きさの、赤く、丸い果実。


「リンゴだ」


桜色の木なのに…ガブリ。


「酸っぱ!」


これさくらんぼかよ…!


「どうじゃ、美味かろう。あむ」


「あぁ、目が覚めた気分だ…」


スケールの違いを思い知らされた──


ふと、マーレを見ると口の周りに果汁をつけていた。


「フフッ…口の周り汚れてるぞ」


「ん?ほんとか、拭いとくれ」


両手にさくらんぼを持った彼女が首を前に出す。彼女の首にかかった布を掴み、口周りを拭く。


──1つ齧り終えた時には、彼女の手に2つの軸だけがあった。


「──さ、戻るかの。暗くなっては足元が危険…どうした?」


「もう少し、眺めてもいいか?」


「そんなにこの景色が気に入ったのか?」


「あぁ…故郷にも似たような木があったんだ。桜って名前で、故郷では沢山植えられてた。葉じゃなくて花だったけど、ちょうど今が咲き始める時期だった」


島の山、学校の校庭…旅行先で見た並木──ひとつひとつ思い出すたびに目が潤む。


「さくら…」


ノゾミの感傷が言霊に乗って、マーレは彼の記憶にある桜色の花を見た──


「この実だって、桜の実にそっくりだ。さくらんぼって名前で、これの10分の1もない大きさだけど、味も似ている…」


ノゾミは望郷の念に縛り付けられていく──


ポンッ──ノゾミの頭に小さな手が置かれる。


「…今日は帰るぞ、まだしばらく赤の実の季節じゃ。また来れる」


「そうか…分かった。明日に備えて今日のところはお暇しよう」


淡く光る洞窟の入り口に辿り着いた頃には、辺りはすっかり暗くなっていた──


「そういえば、洞窟の中結構明るかったけど寝られるかな」


「その心配は無用じゃ」


小屋のある空間は、昼には確かな光が包んでいたが、夜は鉱物の位置がわかる程度の光だけになっている。


「精霊も日が隠れると大人しくなるからの、精霊に反応する岩もこの通りじゃ」


「ぐっすり眠れそうでよかった」


待てよ?そもそも寝具がないじゃないか


「仕方ない、適当に床で寝るか…」


「待て、ノゾミ。特別に一緒に寝てやるから、ほれ」


体格に見合わない強い力で手を引かれて強制的にベッドに寝かせられる。

マーレはもぞもぞと腕と胸の内のスペースに入り込んでくる。


「…あったかいのう…あったかい…」


マーレは感極まった声で呟く。


──そうか…十年、人と会ってないから…

──確かに…あったかい……


二人は静かに眠りに就いた。


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