第14頁 エスパーニャへ
下へ行くイザベラを見送り、俺は一人星空を見上げて、針路が逸れていないことを確認する。2年の間、毎日のように見て覚えた空は、最早故郷の空より見慣れたものだ。
そんな、異世界に染まっていく自分を、心の中で受け入れ始めている。いまだ世界周航なし得ぬ世界で帆船を操れるなど、子供の頃に描いた夢のような世界。だが、夢は夢だ。いつかは……
「ノゾミ?どうしたのじゃ?」
「なんでもない。どうしたんだ?」
「ノゾミがひとりで寂しがっていると思ってのう」
「よく分かったな」
「星空を見上げる時、たまに寂しそうな顔をしておるからの」
「顔に出ていたか」
「同じ空の下の、故郷のことを考えておるのか?」
「……あぁ」
──同じ空の、か。
「この旅で、故郷に帰れるとよいな!」
「……そうだな」
──ダメだ……気が滅入る。話を変えよう。
「そういえば、ソフィアたちとどんな話をしてたんだ?」
「エスパーニャがどんなところかという話と、3人が通っていた、学校というものの話じゃ」
「エスパーニャって、やっぱり情熱の国なのか?」
出発地ゆえ、マメに日誌を付けていた師匠でも、あまり多くのことを書いていなかったが、大体スペインと似たようなもののようなのだ。
『太陽の沈まぬ国』。この時代において最も勢力のある海洋国家と。
「そう言っておったのう。ソフィアは学校でもよく求婚されて困っておると言っておった」
交際すっ飛ばして求婚か……情熱的だ。
「学校に入ってすぐ、学校いちキザな男を自称する4人の男に求婚されたらしくての」
それも全員、示し合わせたかのように口に薔薇を咥えて白いタキシードであったと、笑いながら語っていたようだ。
「あの大人びた雰囲気ならモテるだろうな……」
「最近は同性の学友がソフィアのガードを固めておって、求婚されることも減ったとか」
「モテモテじゃないか」
「皆の悩みに親身に耳を傾ける優しい人じゃから、男女問わず人気があると、セシリアがやたら早口で語っておった」
セシリアは、余程ソフィアのことを慕っているようだ。
マーレは、続けてソフィアたちから聞いた学校の話を、楽しそうに話す。学校では礼儀作法や、神様について学ぶということ。時々豪勢なパーティが開かれるということ。
「マーレは、学校に通ってみたいか?」
「ん?うーむ……そうじゃのう……」
マーレは腕を組み、考えこむ。もし、学校に通いたいというなら、それもいいかもしれない。海の上での生活はどうしても過酷なものになる。
「楽しそうではあるが、そも、われは世の中をよう知らんでのう。馴染めるかどうか……」
「それに、今はノゾミと旅することが一番楽しみじゃ。もし通うとしても、その後がよい」
「──そうか」
なら、うんと楽しい旅にしてやろう。誰かに語っても、語り尽くせないくらいの。
「お二方、少々宜しいでしょうか?」
マーレと談笑していると、ソフィアが甲板に上がってくる。
「どうしたの?」
「私達も見張り番をさせていただきたく。微力ながら恩返しをさせて下さい」
「……分かった。でも、必ず俺達の誰かと二人でな」
「承知いたしました」
「」




