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海山羊に関すること〜異世界周航記〜  作者: 碁式游
第一章 人を売り買いする者

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第12頁 夢の巨人


見渡す限り白一色の空間を、色とりどりのクラバウターマンたちが、列を成して行進している。しかし、我が船に住み着いている灰色は居ない。

一糸乱れぬ動きで向かう先には、お爺さんなのかお婆さんなのか分からない、ローブを着た老人が。

その老人は静かにこちらを向いて、話を始めた。


「あの水晶が強く光るのは、蓄えられた魔力が引き出されているのじゃ。最後の一回、魔力欠乏を起こしたのは、蓄えが減って、引き出すのに多くの魔力を必要としたからじゃ」


魔術のせいで気を失ったと思っていたが、石の方だったのか……。


「人間は、魔力を扱う力が弱い。故に、モノの力、そして、人の力を正しく借りよ。それが、巨人を打ち倒す力になろう」


白一色だった世界が、濃霧の海へと代わり、大小さまざまな帆船が行き交う。

その遠くに、黒く、巨大な影が──

海で直立しているにもかかわらず、胸から上が海上に出ている、大きな影。

行き交う船を睨みつけるその影の目は、あらゆる敵を打ち倒さんとする、強い意思が垣間見えた。


「それから、魔力欠乏には気を付けよ。空の器に、良からぬものが入ることもある」


老人が指差した俺の胸の中から、見覚えのある灰色のクラバウターマンが這い出てくる。

地面に降り立った小人は、俺を見上げて、海軍式の敬礼をした。


そんな妙な夢が、ゆっくりとぼやけて消え──目を開けると、大きな巻き角が目に入る。


「目が覚めたか」


俺体を起こし、二段ベッドの下段から出る。


「どんくらい寝てた……?」


「ほんの数時間ほどだ」


「そうか……マーレと、囚われていた人たちは無事か?」


「あぁ」


「なら良かった」


「……すまなかった」


申し訳のない顔で謝罪を口にするカプラ。

意外と繊細なんだよな……。


「いや、俺が油断してただけだ。カプラに非はない」


まだ申し訳のない表情のカプラ。


「むしろ、3人を安全に連れて来てくれて、俺が寝ても、船を動かしてくれたんだ。感謝しかないよ。ありがとう」


「いや……礼には及ばん……」


「まだ足りないか……?」


そういえば、感謝と激励をするって話だったな。


「天才!最強!美人!ええと……立派な角!」


「も、もういい!分かったから……。それより、マーレの方へ行ってやれ」


落ち込んだ顔ではなくなったカプラに安堵し、部屋を出る。

貨物室の椅子に、3人の少女が座っていた。


「君たち、災難だったね」


「助けていただき、ありがとうございます」


少女の一人、1番の年長に見える面倒見の良さそうな子が、椅子から立ち上がり、頭を下げた。


「どういたしまして。俺は碇望海。陸までの間、よろしく」


「私はソフィアです。よろしくお願いいたします。隣の彼女はセシリア。そちらはイザベラさんです」


セシリアと呼ばれた気弱そうな少女は、ソフィアの陰から頭だけ出して会釈する。

イザベラと呼ばれた気の強そうな少女は、椅子から立ち上がり、社交界の女性のような、丁寧な挨拶をする。


「故郷まで送るけど、出身はどこだ?」


「私とセシリアはイスパーニャ人で、イザベラさんはイタリエ人です」


同郷の2人は旧知の仲、イザベラさんとはまだ知り合って日が短いのだろうか。


「なるほど……ソフィアさん。後で寄港先の相談をしてもよろしいか?」


「承知いたしました」


──まずはマーレに起きたことを知らせなければ。


ハッチから甲板へ出る。

外はすっかり日が落ちていた。

俺と目があったマーレは、不安が晴れた顔で駆け寄る。


「ノゾミ!起きたか……!」


「すまん、心配かけた」


「全くじゃ……!ぐずっ……」


「ごめんなさい……」


船で一人、俺たちの帰りを待っていたマーレの不安は、計り知れないだろう。

初めて大きな敵意を向けられて、落ち着く間もなく一人残されて──

今思えば、俺も、初めて砲撃を受けて、気がはやって危険なことをしてしまっていた。


「次あんなことがあっても、マーレを置いていくことはしないって、約束する」


「……絶対じゃぞ」


「あぁ」


くるるるる……


「飯にするか。今日は掻っ払ってきた牛の干し肉だ」


「うむ!」


下へ降りて、3人に声をかける。


「食事にしよう。干し肉の予定だけど、魚と果物もあるぞ」


「干し肉をいただきたいです。3人とも、あまり食べていませんでしたので……」


「わかった。飲み物は水とジュース、どっちがいい?」


「私は水を」


「わ、わたしはジュースがいいです」


「水でお願いします」


「カプラ、ジュース頼んだ」


「わかった」


食料庫に入り、干し肉を6つに分け、軽く塩を振る。

扉の向こうから、カプラの果実生搾りショーに対してだろう拍手が聞こえる。


「賑やかじゃの」


木のマグに水を注ぐマーレが嬉しそうに呟く。


「そうだな。でも、これからはもっと賑やかになるぞ」


陸に着いたら人を雇う予定だ。3人ではあまりに人手不足。

それに、一隻では積める物資にも限界があるから、随伴船も買うつもりだ。

この船の食料庫に入る備蓄は、3人でも1週間分くらいで、貨物室も使えばもっと積めなくもないが、長距離航海には足りない。

それに、海賊との戦いで理解したが、安全のために大砲は必要だ。

巨人……夢で見たアレを倒すのなら、尚更。


「どうぞ、干し肉だ」


「ありがとうございます」


「うぅ……おいしい……」


セシリアさんは干し肉を受け取ると、口いっぱいに頬張る。小さな体格と相待ってリスのようだ。


「私は外で食べさせて頂きますわ」


「イザベラさん?ここで食べていけばいいのに。危険があれば知らせが来るし」


イザベラさんは、俺の楽観的な物言いに猜疑の目を向けて、呟く。


「……不安なのですわ。また同じ目に遭いたくありませんの」


「わかった。気をつけてな」




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