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光のしまなみ、夏のさざなみ  作者: 双鶴


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第72話 松山の空と、帰る場

電車が松山駅に滑り込むと、

昨日までの旅の景色が嘘みたいに、

いつもの街の音が耳に戻ってきた。


ひよりが小さく息を吐く。


「……帰ってきたんだね」


悠斗が伸びをしながら言う。


「なんか不思議やな。

 昨日まで海の上やったのに」


すずは静かに呟いた。


「……光、松山の色」


湊はその言葉に胸が温かくなる。


(旅の光とは違う。

 でも、この光も好きだ)



駅前には、

加藤先生のトラックと、

その横に先生の奥さんが運転する車が停まっていた。


先生が手を振る。


「おかえり。

 ちょうど今着いたところだ」


ひよりが驚く。


「先生、もう戻ってきたんですか?」


「高速を使えば早いからな。

 自転車は全部積んである。

 学校まで送るぞ」


悠斗が笑う。


「先生夫婦、最強やな」


すずは静かに頭を下げた。


「……ありがとうございます」


湊も深く礼をした。


(先生がいてくれたから、

 安心して旅ができたんだ)



学校へ向かう車の中は、

旅の終わりの空気が漂っていた。


ひよりが窓の外を見ながら言う。


「松山の街……

 なんかちょっと違って見えるね」


悠斗が頷く。


「旅した後って、

 いつもの景色が新しく見えるんやな」


すずは静かに言った。


「……光、柔らかい」


湊はその言葉に目を向けた。


(旅の光とは違うけど、

 この光も“帰ってきた光”だ)


先生の奥さんが笑う。


「みんな、いい顔してるわね。

 楽しかったんでしょう?」


ひよりが照れくさそうに笑う。


「はい……すごく」



学校に着くと、

トラックから自転車を降ろし、

四人はそれぞれの自転車にまたがった。


悠斗が言う。


「じゃあ……解散やな」


ひよりが少し寂しそうに言う。


「また学校でね」


すずは静かに頷いた。


「……また、光見に行こう」


湊は胸の奥がじんわり温かくなる。


「うん。また行こう」


四人はそれぞれの方向へ走り出した。



湊が家の前に着くと、

玄関の前で父が待っていた。


「おかえり、湊。

 どうだった、旅は?」


湊は自転車を降りながら笑った。


「……すごく、よかった」


父は安心したように頷いた。


「顔を見れば分かるよ。

 いい旅だったんだな」


湊は空を見上げた。


(松山の空……

 旅の終わりを迎える空)


しまなみ海道の光も、

尾道の夕暮れも、

全部胸の中で静かに揺れていた。


「ただいま」


その言葉は、

旅の終わりと、

新しい日常の始まりを告げるように響いた。


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