第71話 帰り道と、静かな余韻
朝の尾道駅は、
昨日とは違う静けさをまとっていた。
ひよりが小さく伸びをする。
「……眠いけど、気持ちいい朝だね」
悠斗が笑う。
「そりゃ昨日あんだけ歩いたんやしな。
でも、帰るんやなぁ……」
すずは駅のホームを見つめながら言った。
「……光、白い」
湊はその言葉に頷いた。
(しまなみの朝とも、尾道の夕方とも違う。
“帰る日の光”だ)
加藤先生は駅前のトラックの横で
自転車を積み込みながら言った。
「お前たちは電車で帰れ。
自転車は俺が松山まで運んでおく」
ひよりが驚く。
「先生、一人で大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ。
お前たちはゆっくり帰れ。
旅の最後くらい、のんびりしろ」
悠斗が笑う。
「先生、かっこええな。
俺らは電車で優雅に帰らせてもらうわ」
すずは静かに言った。
「……ありがとう」
湊も深く頭を下げた。
(先生がいてくれたから、
この旅は安心して楽しめたんだ)
先生は手を振り、
トラックに乗り込んだ。
「松山で待ってるぞ。
気をつけて帰れ」
四人は手を振り返した。
電車がホームに入ってきた。
ひよりが言う。
「じゃあ……行こっか」
悠斗が頷く。
「帰りの旅やな」
すずは静かに呟いた。
「……風、優しい」
湊は胸の奥がじんわり温かくなる。
(しまなみ海道の旅が、本当に終わるんだ)
電車が動き出すと、
瀬戸内海がゆっくりと車窓に広がった。
ひよりが窓に額を寄せる。
「昨日まで……
あの海の向こうを走ってたんだよね」
悠斗が笑う。
「なんか信じられんよな。
夢みたいや」
すずは静かに言った。
「……海、白い線」
湊はその言葉に胸が震えた。
(尾道の海とも違う。
“帰り道の海”の光だ)
四人はしばらく、
車窓の景色に見入っていた。
やがて、
ひよりが湊の肩にもたれかかってきた。
「……ちょっと眠い……」
悠斗も大きなあくびをする。
「俺も……
昨日の疲れが今きたわ……」
すずは目を閉じながら言った。
「……眠ってもいい?」
湊は笑った。
「いいよ。
帰り道だし」
気づけば、
三人とも静かに眠っていた。
ひよりは湊の肩に、
すずは反対側の窓に、
悠斗は前の座席に寄りかかって。
(こんな帰り道……
きっと一生忘れない)
瀬戸内海の光が、
ゆっくりと車内に揺れていた。
松山が近づく頃、
ひよりが目を覚ました。
「……あれ?
寝ちゃってた……?」
悠斗も目をこすりながら言う。
「爆睡やったな……
でも気持ちよかったわ」
すずは静かに頷いた。
「……夢みたいな時間」
湊は深く息を吸った。
(旅の終わりの時間……
静かで、優しくて、あったかい)
電車は松山駅に近づいていた。
四人の旅は、
静かな余韻の中で幕を閉じようとしていた。




