第70話 尾道の夜と、ほどけていく時間
夕暮れの海を眺めたあと、
四人は宿へ向かって歩き出した。
ひよりが言う。
「今日……すごく長かったね。
でも、全部きれいだった」
悠斗が頷く。
「しまなみも尾道も、
なんか“旅してる”って感じやったな」
すずは静かに言った。
「……光、オレンジから青に変わった」
湊はその言葉に目を向けた。
(夕暮れの色が消えて、
夜の青が街に降りてきている)
宿にチェックインすると、
木の香りがふわりと漂った。
ひよりが布団を見て笑う。
「畳の部屋……落ち着くね」
悠斗が荷物を置きながら言う。
「旅の宿って感じやな。
こういうの、好きやわ」
すずは窓の外を見つめた。
「……海、暗いけど光っとる」
湊も窓に近づいた。
(尾道水道の灯りが、
細い線みたいに海に揺れている)
加藤先生が言う。
「少し休んだら、夜の散歩に出るぞ。
尾道の夜は静かでいい」
ひよりが嬉しそうに頷く。
「行きたい……!」
夜の尾道水道は、
昼とはまったく違う表情をしていた。
ひよりが息を呑む。
「……きれい……
昼より静かだね」
悠斗が言う。
「街の灯りが海に映っとるんやな。
なんか映画みたいや」
すずは海を見つめながら呟いた。
「……光、細い線」
湊はその言葉に胸が震えた。
(しまなみの海は“広い光”だった。
でも尾道の海は“細い光”だ)
街の灯りが、
海の上で細く揺れていた。
四人は海沿いのベンチに座った。
ひよりが言う。
「今日で……
本当に旅が終わるんだね」
悠斗が静かに頷く。
「せやな。
明日、松山に帰るんやもんな」
すずは海を見たまま言った。
「……終わるの、寂しい」
湊は深く息を吸った。
(でも……
この寂しさも旅の一部なんだ)
加藤先生が言う。
「旅は“終わり”があるから美しいんだ。
でも、また来ればいい。
しまなみ海道は逃げない」
ひよりが小さく笑う。
「うん……
また来たい」
悠斗が言う。
「次は逆走してもええな。
尾道から松山までとか」
すずは静かに頷いた。
「……光、また見たい」
湊は胸の奥がじんわり温かくなる。
(また来よう。
みんなで)
宿へ戻る道は、
潮風がゆっくり吹いていた。
ひよりが言う。
「夜の尾道って……
なんか優しいね」
悠斗が笑う。
「せやな。
静かで、落ち着くわ」
すずは空を見上げながら言った。
「……星、少しだけ見える」
湊はその言葉に目を向けた。
(街の光に負けない、小さな星)
加藤先生が言う。
「今日はよく歩いたな。
ゆっくり休め。
明日は松山へ帰るぞ」
ひよりが布団に潜り込みながら言う。
「今日……
本当に幸せだった」
悠斗が笑う。
「明日もええ日になるで」
すずは静かに目を閉じた。
「……光、眠っとる」
湊は布団に入りながら思った。
(旅の夜……
静かで、優しくて、少し切ない)
尾道の夜風が、
そっと窓を揺らしていた。




