第67話 千光寺の空と、しまなみを見下ろす場所
尾道ラーメンの店を出ると、
午後の光が街の屋根を白く照らしていた。
ひよりが空を見上げる。
「ロープウェイって……
あそこから乗るんだよね」
悠斗が頷く。
「せや。
あれ乗ったら、尾道の街が全部見えるらしいで」
すずは静かに言った。
「……光、上から落ちとる」
湊はその言葉に目を向けた。
(尾道の午後の光……
しまなみの光とは違う、街の光だ)
ロープウェイ乗り場に着くと、
小さなゴンドラがゆっくりと揺れていた。
ひよりが少し緊張した声で言う。
「なんか……かわいいけど、ちょっと怖いね」
悠斗が笑う。
「大丈夫やって。
すぐ上まで行くしな」
すずは海の方を見つめたまま呟いた。
「……風、静か」
湊は胸の奥がじんわり温かくなる。
(この静けさ……
旅の終わりの空気だ)
ゴンドラが動き出すと、
尾道の街がゆっくりと下へ広がっていった。
ひよりが息を呑む。
「わ……
街が、海に浮かんでるみたい……!」
悠斗が目を丸くする。
「すげぇ……
向島がこんなに近く見えるんやな」
すずは窓に手を添えながら言った。
「……海、白い光」
湊はその言葉に胸が震えた。
(しまなみ海道の島々が……
遠くに影みたいに並んでいる)
昨日走った島々が、
まるで一枚の絵のように見えた。
加藤先生が言う。
「しまなみ海道を走った者だけが、
この景色を“地図”として見られるんだ」
ひよりが小さく頷く。
「……全部、つながってるんだね」
悠斗が言う。
「俺ら、あそこ全部走ったんやな……
なんか信じられんわ」
すずは静かに呟いた。
「……風、優しい」
湊は深く息を吸った。
(この景色……
絶対に忘れない)
山頂に着くと、
尾道水道が大きく広がっていた。
ひよりが言う。
「ここ……
すごいね。
街も海も、ぜんぶ見える」
悠斗が笑う。
「写真撮りまくりやな、これは」
すずはカメラを構えながら言った。
「……光、柔らかい」
湊もシャッターを切った。
(しまなみの旅の終わりに見る景色が、
こんなに優しいなんて)
加藤先生が言う。
「千光寺からの景色は“旅の余韻”だ。
ここでしばらく休もう」
ひよりがベンチに座りながら言う。
「なんか……
胸がいっぱいになるね」
悠斗が頷く。
「終わりが近いって思うと、
ちょっと寂しいな」
すずは静かに言った。
「……でも、嬉しい」
湊は空を見上げた。
(旅が終わるのは寂しい。
でも、ここまで来られたことが嬉しい)
四人はしばらく、
尾道の街と海を見下ろしていた。
午後の光が、
静かに山頂を包んでいた。




