第66話 尾道ラーメンと、旅の味
商店街を抜けると、
路地の先に小さな行列ができていた。
ひよりが目を輝かせる。
「ここ……尾道ラーメンのお店だよね!」
悠斗が笑う。
「行列できとるってことは、絶対うまいやつやん」
すずは静かに言った。
「……匂い、あったかい」
湊はその言葉に頷いた。
(醤油の香り……
しまなみの風とは違う“街の匂い”だ)
店の前で並んでいると、
湯気とスープの香りが風に乗って流れてきた。
ひよりが言う。
「なんか……
体が勝手にお腹すいてくるね」
悠斗が笑う。
「そりゃあんだけ走ったんやしな。
塩分欲しとるんやろ」
すずは静かに呟いた。
「……お腹、あったかくなる匂い」
湊は胸の奥がじんわり温かくなる。
(旅の終わりに食べるラーメンって、
なんでこんなに特別なんだろう)
店に入ると、
カウンターの向こうで湯気が立ち上っていた。
加藤先生が言う。
「尾道ラーメンは“背脂の浮いた醤油スープ”が特徴だ。
疲れた体に染みるぞ」
ひよりが席につきながら笑う。
「もう匂いだけで幸せ……」
悠斗が箸を構える。
「よっしゃ、来い!」
すずは静かに丼を見つめた。
「……光、揺れとる」
湊はその言葉に目を向けた。
(スープの表面に浮かぶ背脂が、
店の灯りを反射して揺れている)
ラーメンが運ばれてきた。
ひよりが一口すすって、
目を丸くする。
「……おいしい……!
なんか、体に染みる……!」
悠斗も勢いよくすすった。
「うまっ……!
これ、走った後に食うためのラーメンやろ!」
すずは静かにレンゲを口に運ぶ。
「……あったかい味」
湊もスープを飲んだ。
(しょっぱいのに優しい……
疲れた体に、まっすぐ届く味だ)
加藤先生が笑う。
「旅の終わりのラーメンは格別だろう?」
ひよりが頷く。
「うん……
なんか泣きそうになる味」
悠斗が照れくさそうに言う。
「分かるわ。
達成感って、こういう時に来るんやな」
すずは静かに呟いた。
「……風の味、しとる」
湊はその言葉に胸が震えた。
(しまなみの風と、尾道の街の匂いが混ざった味)
食べ終わると、
四人は店の外に出た。
ひよりが言う。
「はぁ……幸せ……」
悠斗が伸びをする。
「腹いっぱいや。
午後も歩けるわ」
すずは海の方を見ながら言った。
「……光、白い」
湊は深く息を吸った。
(尾道の午後……
ここからまた、新しい景色が始まる)
加藤先生が言う。
「このあとは千光寺へ向かうぞ。
ロープウェイで上がって、尾道を見下ろす」
ひよりが笑う。
「楽しみ!」
悠斗が言う。
「よっしゃ、行こか!」
すずは静かに歩き出した。
「……風、優しい」
湊は自転車を押しながら、
尾道の坂の方を見つめた。
(旅の終わりの景色……
どんな光なんだろう)
四人は千光寺へ向かって歩き出した。
午後の光が、
静かに街を照らしていた。




