第65話 尾道の朝と、商店街へ続く道
渡船を降りると、
尾道の朝の空気がふわりと四人を包んだ。
ひよりが深呼吸する。
「……街の匂いだ」
悠斗が笑う。
「島の匂いと全然違うな。
なんか“帰ってきた”感じするわ」
すずは静かに言った。
「……風、四角い」
湊はその言葉に目を向けた。
(確かに……
建物の影が風の形を変えている)
しまなみ海道の島々では感じなかった、
街特有の“影の風”だった。
自転車を押しながら、
尾道駅前の通りを歩く。
ひよりが言う。
「なんか……
旅が終わったって感じするね」
悠斗が首を振る。
「いや、まだ終わってへんで。
尾道も旅の一部や」
すずは海の方を振り返った。
「……船、まだ見える」
湊も振り返る。
(向島の渡船場が……
もうあんなに小さく見える)
しまなみ海道の島々は、
もう遠くの影になっていた。
商店街のアーケードに入ると、
朝の光が天井のガラスから差し込んでいた。
ひよりが目を輝かせる。
「わ……かわいいお店いっぱいある!」
悠斗が笑う。
「なんか“観光地の商店街”って感じやな。
でも落ち着いとるわ」
すずは静かに言った。
「……光、白い」
湊はその言葉に頷いた。
(しまなみの光とは違う。
街の光は、どこか柔らかい)
アーケードの中は、
朝の準備をする店の音が響いていた。
コーヒーの香り、
焼きたてパンの匂い、
古い木の匂い。
全部が“街の朝”だった。
加藤先生が言う。
「このあと、尾道ラーメンを食べに行くぞ。
昼前に行かないと混むからな」
ひよりが笑う。
「やった……!
旅のご褒美だね」
悠斗が拳を握る。
「腹減ったし、最高や!」
すずは静かに頷いた。
「……あったかい匂い」
湊は胸の奥がじんわり温かくなる。
(しまなみ海道を走り切って、
今こうして尾道を歩いている)
それだけで、
胸がいっぱいになった。
商店街を抜けると、
尾道水道の光が再び見えた。
ひよりが言う。
「海……
向島の時より静かだね」
悠斗が頷く。
「街の海って感じやな。
でも、ええ景色や」
すずは静かに呟いた。
「……光、細い」
湊はその言葉に耳を澄ませた。
(街の影が、海に細い線を落としている)
加藤先生が言う。
「さぁ、行くぞ。
尾道ラーメンの店はもうすぐだ」
ひよりが笑う。
「楽しみ……!」
悠斗が言う。
「よっしゃ、行こか!」
すずは静かに歩き出した。
「……風、あったかい」
湊は自転車を押しながら、
尾道の街を見つめた。
(旅の終わりの街……
でも、まだ続いている)
四人は商店街を抜け、
尾道ラーメンの店へ向かって歩いていった。
朝の光が、
静かに道を照らしていた。




