第64話 渡船の海と、尾道へ着く瞬間
向島の渡船場に着くと、
小さな船が静かに波に揺れていた。
ひよりが息を呑む。
「……この船で、尾道に行くんだ」
悠斗が笑う。
「なんかええな。
最後が船って、旅の終わりっぽいわ」
すずは海を見つめたまま言った。
「……光、揺れとる」
湊はその言葉に胸が震えた。
(海の光が……
しまなみの“最後の光”みたいだ)
加藤先生が言う。
「しまなみ海道の締めくくりは、
昔からこの渡船だ。
橋ではなく、海を渡って尾道へ入る」
ひよりが小さく頷く。
「……なんか、特別だね」
自転車を押して船に乗り込むと、
木の床がぎしりと鳴った。
船がゆっくりと動き出す。
悠斗が海を見ながら言う。
「うわ……
船、めっちゃ気持ちええな」
ひよりが笑う。
「風が優しい……
走ってる時の風と全然違うね」
すずは静かに呟いた。
「……海、白い光」
湊はその言葉に目を向けた。
(朝の光が海に落ちて、
白い線がゆっくり揺れている)
波は穏やかで、
船の音だけが静かに響いていた。
海の向こうに、
尾道の街並みが近づいてくる。
ひよりが目を細める。
「尾道……
本当に近い……」
悠斗が言う。
「ついにゴールやな。
なんか信じられんわ」
すずは静かに言った。
「……街の影、きれい」
湊は胸の奥がじんわり熱くなる。
(ここまで……
みんなで走ってきたんだ)
加藤先生が言う。
「尾道は“旅の終わりの街”だ。
でも同時に“次の旅の始まりの街”でもある」
ひよりが小さく笑う。
「分かる気がする……
終わるのに、終わりじゃない感じ」
悠斗が頷く。
「また走りたくなる街なんやろな」
すずは海を見つめたまま言った。
「……風、あったかい」
湊は深く息を吸った。
(この風……
旅の終わりを祝ってくれてるみたいだ)
船がゆっくりと尾道の岸に近づく。
ひよりが言う。
「着く……
尾道に着く……!」
悠斗が笑う。
「よっしゃ、最後の一歩や!」
すずは静かに頷いた。
「……うん」
湊は胸の奥が熱くなる。
(しまなみ海道……
本当に終わるんだ)
船が岸に触れ、
小さな音を立てて止まった。
加藤先生が言う。
「さぁ、降りるぞ。
ここが尾道だ」
四人は自転車を押して、
ゆっくりと船を降りた。
尾道の朝の光が、
四人を優しく包み込んでいた。




