第63話 向島の道と、尾道へ続く光
向島の朝の道を走り始めると、
海の匂いに、どこか街の匂いが混ざっていた。
ひよりが言う。
「なんか……
“ゴールが近い島”って感じするね」
悠斗が頷く。
「分かるわ。
島やのに、ちょっと街っぽい空気あるよな」
すずは静かに言った。
「……光、白い」
湊はその言葉に目を向けた。
(朝の光が、海にも道にもまっすぐ落ちている)
向島の海は、
因島よりもさらに静かで、
波の音がほとんど聞こえなかった。
しばらく走ると、
海沿いの道に出た。
ひよりが息を呑む。
「わ……
尾道の街、見えてきた……!」
悠斗が目を丸くする。
「ほんまや!
あれ、尾道駅の方ちゃうか?」
すずは海の向こうを見つめたまま言った。
「……街の影、揺れとる」
湊は胸の奥がじんわり熱くなる。
(ついに……
尾道が見えたんだ)
海の向こうに、
尾道の街並みが淡い影となって揺れていた。
加藤先生が言う。
「向島は“尾道を眺めながら走る島”だ。
景色を楽しみながら進め」
ひよりが笑う。
「なんか……
胸がいっぱいになるね」
悠斗が言う。
「終わるんやな、旅が。
でも、まだ走りたい気もするわ」
すずは静かに呟いた。
「……風、優しい」
湊は深く息を吸った。
(この風……
最後の島の風だ)
向島の北側へ向かう道は、
ゆるやかなカーブが続いていた。
ひよりが言う。
「この道、好きかも。
なんか“ゴールへ向かう道”って感じする」
悠斗が笑う。
「分かる。
坂もほとんどないし、走りやすいわ」
すずは静かに言った。
「……海、白い光」
湊はその言葉に頷いた。
(朝の光が海に落ちて、
白い線のように揺れている)
疲れはある。
でも、それ以上に“前へ進みたい気持ち”が強かった。
やがて、
向島の北端に近づいた。
ひよりが言う。
「この先が……
尾道へ渡る渡船だよね」
悠斗が頷く。
「せや。
しまなみ海道の最後は“船”や」
すずは静かに言った。
「……海の匂い、濃い」
湊は胸の奥が震えた。
(尾道が……
本当に近いんだ)
加藤先生が言う。
「渡船場はもうすぐだ。
そこから尾道へ渡る。
しまなみ海道の“最後の一歩”だ」
ひよりが笑う。
「なんか……
泣きそうになってきた」
悠斗が照れくさそうに言う。
「分かるわ。
終わるって思うと、胸がぎゅっとなるな」
すずは静かに呟いた。
「……でも、嬉しい」
湊は深く息を吸った。
(ここまで来たんだ……
みんなで)
四人はペダルを踏み出し、
渡船場へ向かって進んでいった。
尾道の街が、
朝の光の中で静かに輝いていた。




