第62話 因島大橋と、ゴールの気配
因島の朝の道を走り続けると、
海の向こうに白い橋が見えてきた。
ひよりが目を細める。
「……あれ、因島大橋だよね」
悠斗が頷く。
「せやな。
あれ渡ったら向島や。
いよいよラストの島やで」
すずは静かに言った。
「……光、強くなってきた」
湊はその言葉に目を向けた。
(朝の光が……
海に白く反射している)
因島の海は、
朝になると淡い青から白に近い色へ変わる。
その光が橋の下で揺れていた。
因島大橋の入口に着くと、
潮風が少し強く吹いた。
ひよりが髪を押さえる。
「わ……風、冷たい」
悠斗が笑う。
「朝の橋って感じやな。
でも気持ちええわ」
すずは海を見下ろしながら言った。
「……波、細かい」
湊は耳を澄ませた。
(昨日の夕方とは違う……
朝の海は、音が軽い)
加藤先生が言う。
「因島大橋は“しまなみ最後の大きな橋”だ。
ここを渡れば、もうゴールは近い」
ひよりが小さく息を呑む。
「……なんか、実感湧いてきた」
悠斗が言う。
「終わるんやな、旅が」
すずは静かに呟いた。
「……ちょっと寂しい」
湊は胸の奥がじんわり熱くなる。
(でも……
まだ終わってほしくない気持ちもある)
四人はペダルを踏み出した。
橋の上は、
朝の光がまっすぐ差し込んでいた。
ひよりが言う。
「海が……白い光で揺れてる」
悠斗が頷く。
「昨日の夕方とは全然違うな。
朝の海って、こんなに明るいんや」
すずは静かに言った。
「……風、優しい」
湊はその言葉に目を向けた。
(確かに……
風が背中を押してくれるみたいだ)
橋の上を走る音だけが響き、
四人の影が長く伸びていく。
疲れはまだない。
ただ、静かな高揚感だけがあった。
橋の中央に差し掛かると、
向島の緑が近づいてきた。
ひよりが言う。
「向島……
なんか“街に近い島”って感じするね」
悠斗が頷く。
「尾道が近いからな。
島の雰囲気もちょっと違うわ」
すずは静かに言った。
「……光、低い」
湊はその言葉に胸が震えた。
(朝の光が、島の影を柔らかくしている)
加藤先生が言う。
「向島は“尾道の手前の島”だ。
ここを越えれば、もうゴールはすぐそこだ」
ひよりが笑う。
「なんか……
胸がドキドキしてきた」
悠斗が言う。
「最後の島、楽しんでいこや」
すずは静かに頷いた。
「……うん」
湊は深く息を吸った。
(向島……
ここが最後の島なんだ)
橋を降りると、
向島の町並みが広がっていた。
ひよりが言う。
「因島とも、生口島とも違うね。
なんか“生活の島”って感じ」
悠斗が笑う。
「尾道が近いからやろな。
街の匂いがするわ」
すずは静かに言った。
「……風、あったかい」
湊はその言葉に頷いた。
(確かに……
海の匂いに、街の匂いが混ざっている)
加藤先生が言う。
「このまま北へ向かうぞ。
向島を抜ければ、いよいよ尾道だ」
ひよりが目を輝かせる。
「ついに……ゴールだね」
悠斗が拳を握る。
「よっしゃ、最後まで走り切るで!」
すずは静かにペダルを踏み出した。
「……光、前から来る」
湊は自転車にまたがり、
向島の道を見つめた。
(尾道……
もうすぐだ)
四人は向島の朝の道を走り出した。
ゴールへ続く光が、
静かに前方を照らしていた。




