第58話 夕暮れの生口橋と、因島へ続く影
生口橋の入口に立つと、
夕方の光が橋の白いアーチを淡く照らしていた。
ひよりが息を呑む。
「……きれい。
昼の橋と全然違うね」
悠斗が頷く。
「なんか“静かな光”って感じやな。
夕方の橋って、こんな雰囲気なんや」
すずは海を見下ろしながら言った。
「……海の色、薄い青」
湊はその言葉に目を向けた。
(本当だ……
昼の濃い青じゃなくて、
夕方の光を吸い込んだ“淡い青”)
波はゆっくりと揺れ、
風は昼よりも柔らかかった。
加藤先生が言う。
「夕方の生口橋は“静けさの橋”だ。
風も落ち着くし、景色も柔らかい」
ひよりが笑う。
「じゃあ……ゆっくり渡ろっか」
四人はペダルを踏み出した。
橋の上は、
まるで時間がゆっくり流れているようだった。
悠斗が言う。
「なんか……
今日一日が頭の中でぐるぐるしとるわ」
ひよりが笑う。
「分かる。
朝の松山が、すごく遠く感じるよね」
すずは静かに呟いた。
「……海の音、遠い」
湊は耳を澄ませた。
(確かに……
波の音がほとんど聞こえない)
風の音も弱く、
ただ自転車のタイヤが回る音だけが響いていた。
疲れは確かにある。
でも、それ以上に“静かな満足感”があった。
(今日……
本当にいろんな景色を見たな)
橋の中央付近に差し掛かると、
夕日が海に長い影を落としていた。
ひよりが言う。
「夕日が……海に道を作ってるみたい」
悠斗が目を細める。
「ほんまや……
なんか“帰り道”みたいやな」
すずは静かに言った。
「……光、揺れとる」
湊は胸の奥がじんわり温かくなる。
(しまなみの夕方……
こんなに静かなんだ)
加藤先生が言う。
「夕暮れの橋は“旅の一区切り”だ。
今日の終わりが近いという合図でもある」
ひよりが小さく頷く。
「なんか……
ちょっと寂しいね」
悠斗が笑う。
「でも、まだ因島があるで。
今日のラストスパートや!」
すずは静かにペダルを踏み出した。
「……風、冷たくなってきた」
湊は深く息を吸った。
(あと少し……
今日のゴールまで)
橋を降りると、
因島の影がゆっくりと近づいてきた。
ひよりが言う。
「因島……
なんか“夕方の島”って感じするね」
悠斗が頷く。
「大三島とも生口島とも違うな。
ちょっと渋い雰囲気あるわ」
すずは静かに言った。
「……光、低い」
湊はその言葉に目を向けた。
(夕日が島の影を長くしている)
加藤先生が言う。
「因島は“しまなみの中継点”だ。
今日の宿もこの島にある」
ひよりが笑う。
「やっと……今日のゴールが見えてきたね」
悠斗が拳を握る。
「よっしゃ、最後まで走り切るで!」
すずは静かに頷いた。
「……あと少し」
湊は自転車にまたがり、
夕暮れの因島の道を見つめた。
(今日の旅……
もうすぐ終わる)
四人は再びペダルを踏み出した。
夕日の影が、
長く長く道に伸びていた。




