第56話 瀬戸田の午後と、疲れを分け合う時間
耕三寺の前を通り過ぎると、
鮮やかな朱色の建物が午後の光に照らされていた。
ひよりが息を弾ませる。
「耕三寺って……
写真で見るよりずっと派手なんだね」
悠斗が笑う。
「なんかテーマパークみたいやな。
でも、めっちゃ映えるわ」
すずは静かに言った。
「……光、反射しとる」
湊はその色彩に圧倒されながらも、
ふと脚の重さに気づいた。
(あ……
だいぶ疲れてきたかも)
耕三寺を過ぎて少し走ると、
海沿いの小さな休憩所が見えてきた。
加藤先生が言う。
「ここで一度休憩しよう。
午後は疲れが出やすい」
四人は自転車を止め、
ベンチに座り込んだ。
ひよりが肩を回す。
「はぁ……
なんか、肩がガチガチになってきた」
悠斗が背中を伸ばす。
「分かる。
坂と橋でだいぶ来とるわ……」
すずは静かに言った。
「……手、しびれてきた」
湊もハンドルを握っていた手を見つめた。
(確かに……
ずっと握ってるから、手が固まってる)
加藤先生が笑う。
「しまなみ海道は“腕も疲れる”んだ。
ハンドルを握り続けるからな」
ひよりが言う。
「ちょっと……マッサージしよっか」
悠斗が驚く。
「え、マッサージできるん?」
「肩ならできるよ。
部活の時、みんなでやってたし」
すずが静かに手を挙げた。
「……してほしい」
ひよりが笑う。
「じゃあ、すずちゃんからね」
すずは背中を向け、
ひよりがそっと肩に手を置く。
「……あ、固い。
すずちゃん、力入れすぎなんよ」
「……分からんかった」
湊はその様子を見ながら、
胸の奥が少し温かくなった。
(こういう時間……
旅っぽいな)
悠斗が湊の方を見る。
「湊、お前も肩やばいやろ。
ほら、貸してみ」
「え、いいよ……」
「遠慮すんなって。
俺、こう見えて上手いんやぞ」
湊は苦笑しながら背中を向けた。
悠斗が肩を押す。
「……お前も固いな。
真面目に漕ぎすぎや」
「そうかな……」
「そうや。
もっと力抜いてええんやぞ」
湊は少しだけ肩の力が抜けた。
(悠斗……
こういう時、頼りになるな)
ひよりが言う。
「よし、次は湊くんが悠斗くんの番ね」
「え、俺も!?」
悠斗が笑う。
「当たり前やん。
お互い様よ」
すずが静かに頷く。
「……順番」
湊は苦笑しながら悠斗の肩を押した。
「うわっ、痛っ……!
お前、意外と力あるな!」
「ごめん……」
「いや、気持ちええわ。
サンキューな」
ひよりが笑う。
「こういうの、なんかいいね。
“旅の仲間”って感じする」
すずは海を見ながら言った。
「……風、優しい」
湊は深く息を吸った。
(疲れてるけど……
この時間、好きだ)
加藤先生が言う。
「よし、そろそろ行くぞ。
この先は海沿いの道だ。
光がきれいな時間帯だぞ」
ひよりが立ち上がる。
「よし、がんばろ!」
悠斗が拳を握る。
「あとちょっとや!
生口橋まで行くで!」
すずは静かにペダルを踏み出した。
「……風、冷たくなってきた」
湊は自転車にまたがり、
海を見つめた。
(疲れてても……
まだ走れる)
四人は再び走り出した。
夏の午後の光が、
海沿いの道を照らしていた。




