第49話 大島南岸の道と、伯方島へ続く海
亀老山を下り始めると、
風の温度が少しずつ変わっていった。
「うわっ、下りめっちゃ気持ちいい!」
悠斗が声を上げる。
「登りの苦しさが嘘みたいだね」
ひよりが笑う。
すずは静かに風を受けながら言った。
「……海の匂い、戻ってきた」
湊はブレーキを軽く握りながら、
木々の隙間から見える海を眺めた。
(登りはきつかったけど……
下りは“ご褒美”みたいだ)
坂を下り切ると、
大島の南側に広がる海沿いの道に出た。
ひよりが息を呑む。
「わ……
海が近い……!」
悠斗が驚く。
「道のすぐ横、海やん!
こんなん初めて見るわ!」
すずは海を見つめたまま呟いた。
「……光が、跳ねとる」
湊も思わず自転車を止めた。
(海が……
さっきより明るい)
午前中の深い青とは違い、
午後の光を受けた海は
銀色に近い青で輝いていた。
波が小さく寄せては返し、
そのたびに光が散る。
加藤先生が言う。
「大島の南側は“光の道”だ。
午後の海は特にきれいだぞ」
ひよりが笑う。
「ほんとだ……
なんか、海がキラキラしとる」
悠斗が言う。
「写真撮りたいけど……
走りながら見るのもええな」
すずは静かに言った。
「……風、優しい」
湊は胸の奥がじんわり温かくなる。
(しまなみの海って……
こんなに表情があるんだ)
しばらく走ると、
海沿いの小さな休憩所に着いた。
ベンチに座ると、
潮風が心地よく肌を撫でた。
ひよりが地図を広げる。
「この先が……伯方島に渡る“大島大橋”だね」
悠斗が言う。
「次の島か!
なんか、島から島へ渡るってワクワクするな」
すずは海を見ながら言った。
「……島の形、変わる」
湊はその言葉に頷いた。
(確かに……
大島は“山の島”って感じだけど、
伯方島はもっと“海の島”っぽい)
加藤先生が言う。
「伯方島は“塩の島”だ。
海の匂いが少し濃くなるぞ」
ひよりが目を輝かせる。
「塩の島……なんか可愛い」
悠斗が笑う。
「伯方の塩のCM思い出すわ」
すずは静かに言った。
「……海の味、するかな」
湊は海風を吸い込んだ。
(確かに……
少しだけ、塩の匂いが強くなった気がする)
休憩を終えると、
四人は再び自転車にまたがった。
ひよりが言う。
「じゃあ……伯方島へ行こっか」
悠斗が元気よく返す。
「よっしゃ、次の島や!」
すずは静かにペダルを踏み出した。
「……風、変わるかな」
湊は海を見ながら思った。
(島が変わると、
風も、海も、光も変わる)
大島大橋が見えてきた。
白いアーチが海の上に伸び、
その先に伯方島の緑が広がっている。
加藤先生が言う。
「さぁ、次の島へ渡るぞ。
しまなみ海道は“島をつなぐ旅”だ」
四人は橋へ向かって進んでいった。
夏の光の中、
伯方島への道が静かに続いていた。




