第47話 大島の道と、島の静けさ
来島海峡大橋を降りると、
空気が一気に変わった。
「……なんか、音が違う」
すずが自転車を止めて呟く。
ひよりが頷く。
「分かる。
橋の上は“風の音”が強かったけど、
島に降りたら“海の音”が近いね」
悠斗は深呼吸した。
「潮の匂いが濃くなった気がするわ」
湊は周囲を見渡した。
(海が近い……
でも、街の音がほとんどしない)
大島の道は、
海沿いにゆるやかに続いていた。
車も少なく、
ただ波の音と風の音だけが響いている。
加藤先生が後ろから声をかける。
「ここからが“島の時間”だ。
焦らず、ゆっくり進め」
四人は頷き、
再びペダルを踏み出した。
海沿いの道を走ると、
右手には青い海、
左手には緑の斜面が続いていた。
ひよりが言う。
「なんか……
“海と山が近い島”って感じするね」
悠斗が笑う。
「松山の海とも違うし、
今治の海とも違うな。
島の海って感じや」
すずは静かに言った。
「……光が、海に落ちとる」
湊はその言葉に目を向けた。
(本当だ……
太陽の光が海に線みたいに落ちてる)
写真を撮りたくなる景色が、
次々に現れる。
でも湊は、
まだカメラを構えなかった。
(今は……“見る時間”だ)
少し走ると、
道の分岐に差し掛かった。
ひよりが地図を見ながら言う。
「ここから山の方に行くと……
亀老山展望台?」
悠斗が目を輝かせる。
「うわ、あそこめっちゃ景色ええとこやん!
行ってみたい!」
すずは静かに地図を見つめた。
「……でも、坂、きつい」
加藤先生が言う。
「亀老山は“しまなみ随一の絶景”だ。
ただし、坂は本気でキツい。
行くかどうかは、お前たちが決めろ」
ひよりが湊を見る。
「湊くんは……どう思う?」
湊は少し考えた。
(坂はきつい。
でも……
あの橋を上から見てみたい)
「……行きたい。
せっかく大島に来たんだし、
あの景色、見てみたい」
悠斗が拳を握る。
「よっしゃ!
決まりやな!」
すずは小さく頷いた。
「……行く」
ひよりが笑う。
「じゃあ、行こっか。
ゆっくりでいいからね」
加藤先生が言う。
「無理はするなよ。
途中で休憩しながら登れ」
四人は海沿いの道を離れ、
山へ向かう坂道へと進んでいった。
坂道は、
想像以上にきつかった。
「うわ……これ、やばい……」
悠斗が息を切らす。
「でも……
なんか、楽しいね」
ひよりが笑う。
すずは黙々とペダルを踏んでいた。
「……風、変わった」
湊は汗を拭いながら思った。
(坂はきついけど……
この“登っていく感じ”が、旅っぽい)
木々の隙間から、
時々海が見える。
そのたびに、
胸の奥が少しだけ軽くなる。
(もうすぐ……
あの景色が見えるんだ)
四人はゆっくりと、
でも確かに坂を登っていった。
大島の静けさの中、
夏の風が背中を押していた。




