第44話 出発の朝と、しまなみの入口へ
七月の朝。
松山の空は早くも夏の色をしていた。
湊は自転車を押しながら学校の正門へ向かった。
空気は少し湿っているけれど、
どこか軽くて、旅の匂いがした。
「おはよー!」
ひよりが手を振る。
「おはよう。早いね」
湊が笑う。
「だって今日からしまなみやけんね」
ひよりは胸の前で手をぎゅっと握った。
悠斗が自転車を転がしながらやってくる。
「おはよ!
眠いけどテンションはMAXや!」
すずは静かに自転車を押しながら近づいた。
「……朝の空、きれい」
四人が揃ったところで、
校門の前に白いトラックが止まった。
荷台には固定具がしっかり取り付けられている。
運転席から降りてきたのは加藤先生だった。
「おはよう。
いい朝だな。旅日和だ」
悠斗が目を輝かせる。
「先生、これが例のトラックですか!」
「そうだ。
自転車四台、しっかり積めるようにしてきた」
ひよりが荷台を覗き込む。
「すごい……
なんか“遠征”って感じするね」
すずは静かに言った。
「……本格的」
湊は胸が高鳴った。
(いよいよ……始まるんだ)
四人は自転車を順番に積み込み、
固定具でしっかりと縛っていく。
「湊、そっち持って」
「うん、いける」
「悠斗くん、そっち締めて!」
「任せろ!」
「……ここ、もう少し締める」
「ありがとう、すず」
作業をしているだけなのに、
胸の奥がずっとワクワクしていた。
加藤先生が確認する。
「よし、これで大丈夫だ。
私はこのまま今治へ向かう。
サンライズ糸山で合流だ」
ひよりが言う。
「私たちは……?」
先生が指さした先に、
一台のワゴン車がゆっくりと校門に入ってきた。
運転席から降りてきたのは、
優しそうな笑顔の女性だった。
「みんな、おはよう。
今日はよろしくね」
先生の奥さんだった。
悠斗が驚く。
「先生の奥さんが運転してくれるんですか!」
「そうだ。
往路だけ手伝ってもらう。
帰りは別の交通手段で帰るからな」
ひよりが笑う。
「なんか……すごい“遠征感”あるね」
すずは小さく頷いた。
「……安心」
湊は胸が熱くなる。
(先生の家族まで協力してくれるなんて……
なんか、すごくありがたい)
ワゴン車に乗り込むと、
松山の街がゆっくりと後ろへ流れていった。
先生の奥さんが言う。
「しまなみ海道、楽しみね。
みんな、気をつけてね」
ひよりが嬉しそうに答える。
「はい!
めっちゃ楽しみです!」
悠斗は後部座席で地図を広げていた。
「今治着いたら、まずサンライズ糸山やろ?
そこから橋が見えるんやんな!」
すずは窓の外を見つめたまま言った。
「……海、近づいてきた」
湊も感じた。
風の匂いが少しずつ変わっていく。
(潮の匂い……
しまなみの風だ)
やがて、
巨大な白いアーチが遠くに見えてきた。
「見えた!
来島海峡大橋や!」
悠斗が叫ぶ。
ひよりが息を呑む。
「うわ……
写真で見るより大きい……!」
すずは静かに言った。
「……海の上に、道がある」
湊は息を呑んだ。
(これが……
しまなみ海道の入口)
ワゴン車はサンライズ糸山の駐車場へと入っていった。
すでに先生のトラックが停まっている。
加藤先生が手を振る。
「よし、ここからが本番だ。
四人の旅が始まるぞ」
夏のしまなみ海道が、
いよいよ目の前に広がっていた。




