第38話 夕方の今治と、街を歩く時間
今治市内に戻る頃には、
太陽が少し傾き始めていた。
「夕方の今治、ええ感じやな」
悠斗が駅前の空を見上げる。
ひよりが笑う。
「この時間、写真きれいに撮れるんよ。
商店街も港も、全部“やさしい色”になるんよ」
すずは静かに頷いた。
「……歩きたい」
加藤先生が言う。
「よし、夕食まで自由撮影にしよう。
ただし、迷子になるなよ」
「はーい!」
四人の声が揃った。
まず向かったのは、
今治駅から続く商店街だった。
アーケードの下には、
古い喫茶店、
地元の八百屋、
タオル専門店、
そして小さな文房具屋。
湊は歩きながら、
自然とスマホを構えていた。
(松山の商店街とは違う。
もっと静かで、生活の匂いがする)
ひよりが指さす。
「湊くん、あのタオル屋さん、
“今治タオルの端切れ”売っとるんよ。
安くてかわいいんよ」
悠斗が店の前で立ち止まる。
「お、これええな。
部室のカメラ拭くのにちょうどええやん」
すずは棚の端切れを手に取った。
「……やわらかい」
湊はその様子を見ながら、
店の外の夕景を撮った。
アーケードの天井に反射する夕色、
店の灯りがぽつぽつと灯り始める時間。
(旅の夕方って、なんでこんなに落ち着くんだろう)
商店街を抜けると、
港へ続く道に出た。
潮風がふわりと吹き抜け、
遠くで船のエンジン音が響く。
「夕方の港、好きなんよ」
ひよりが言う。
「分かるわ。
朝とはまた違うな」
悠斗が頷く。
すずは海を見つめていた。
「……静か」
湊は港の柵に寄りかかり、
スマホを構えた。
海面に映る夕色、
船の影、
ゆっくり揺れる波。
(今日一日、いろんな景色を見たな)
加藤先生が後ろから声をかける。
「湊、いい写真撮れたか?」
「はい。
なんか……“旅の色”が撮れた気がします」
先生は満足そうに頷いた。
「旅はな、
“目的地”より“歩いた時間”が残るんだよ」
湊はその言葉を胸に刻んだ。
港のベンチに座り、
四人はしばらく海を眺めた。
ひよりが言う。
「今日、いっぱい歩いたね」
悠斗が笑う。
「でも楽しかったわ。
島も橋も、全部すごかった」
すずは小さく呟いた。
「……また来たい」
湊は海を見つめながら思った。
(今治って、こんなにいい街なんだ)
夕暮れの風が吹き抜け、
港の灯りがひとつ、またひとつと灯っていく。
加藤先生が立ち上がる。
「そろそろ夕食に行くぞ。
今治の“海鮮”を食べに行こう」
ひよりが歓声を上げる。
「やった!
絶対おいしいやつ!」
悠斗も拳を握る。
「よっしゃ、腹減った!」
すずは静かに頷いた。
「……楽しみ」
湊は港を振り返った。
(旅の夕方って、
なんでこんなに心に残るんだろう)
五人は夕食へ向かって歩き出した。




