第36話 大三島の海と、島の鯛めし
大山祇神社を後にすると、
参道の静けさが少しずつ遠ざかり、
代わりに潮の匂いが近づいてきた。
「海、すぐそこやね」
ひよりが嬉しそうに言う。
「島の海って、なんか特別やな」
悠斗がリュックを揺らしながら歩く。
すずは足を止め、
遠くの海をじっと見つめた。
「……青が深い」
湊も同じ方向を見る。
(確かに、松山の海とは違う。
島の海は“静かに広がる”感じがする)
加藤先生が言う。
「大三島の海は“しまなみブルー”とも呼ばれている。
潮の流れが速いのに、海面は穏やかに見えるんだ」
ひよりが頷く。
「橋の上から見る海も綺麗なんよ」
海岸に出ると、
白い砂浜と、
ゆっくり寄せては返す波が迎えてくれた。
「うわぁ……きれい」
ひよりが靴を脱いで砂の上に立つ。
悠斗は波打ち際まで走っていく。
「冷たっ!
でも気持ちええ!」
すずは砂を指先でつまみ、
さらりと落とした。
「……軽い」
湊は海を撮った。
波の白、
海の青、
島の影。
(旅の写真って、こういう“何でもない瞬間”が一番残るんだな)
加藤先生が言う。
「そろそろ昼にしよう。
大三島の鯛めしを食べに行くぞ」
ひよりが目を輝かせる。
「やった!
島の鯛めし、楽しみにしとったんよ」
悠斗が拳を握る。
「絶対うまいやつや!」
すずも小さく頷いた。
「……鯛の香り、好き」
店に入ると、
木の香りがする落ち着いた空間だった。
「いらっしゃいませ。
鯛めし、五つでよろしいですか?」
加藤先生が頷く。
「お願いします」
しばらくして運ばれてきたのは、
土鍋に入った炊き込みの鯛めし。
蓋を開けると、
湯気と一緒に鯛の香りがふわりと広がった。
「……すごい」
湊が思わず声を漏らす。
ひよりが説明する。
「大三島の鯛めしは“炊き込み”なんよ。
宇和島の鯛めしとは違うんよ」
悠斗が興奮する。
「宇和島は刺身のっけるやつやろ?
こっちは炊き込みなんやな!」
すずは湯気を見つめながら言った。
「……やさしい匂い」
加藤先生が笑う。
「島の鯛は脂がのっているから、
炊き込みにすると旨味が全部染みるんだ」
湊は一口食べた。
「……うまっ」
鯛の旨味がご飯に染み込み、
噛むほどに味が広がる。
ひよりが嬉しそうに言う。
「でしょ?
島の鯛めしは“素朴なのに贅沢”なんよ」
悠斗は大盛りをかき込む。
「これ無限に食えるわ!」
すずはゆっくり味わいながら言った。
「……あったかい味」
湊は土鍋を見つめた。
(旅のご飯って、なんでこんなに心に残るんだろう)
食後、店を出ると、
海からの風が心地よく吹いていた。
加藤先生が言う。
「このあと、島の北側にある“多々羅大橋”へ行くぞ。
しまなみ海道の中でも特に美しい橋だ」
ひよりが嬉しそうに手を叩く。
「やった!
あそこ、写真めっちゃ綺麗に撮れるんよ」
悠斗が言う。
「橋の下から見るのも迫力あるで!」
すずは小さく頷いた。
「……楽しみ」
湊は海を振り返った。
(大三島の海、忘れられないな)
五人は次の目的地へ向かって歩き出した。




