第35話 大三島の森と、大山祇神社の静けさ
サンライズ糸山を出た五人は、
バスに揺られて大三島へ向かった。
窓の外には、
島と島をつなぐ橋、
青い海、
小さな漁港が次々と流れていく。
「島って、なんか落ち着くね」
ひよりが言う。
「分かるわ。
海に囲まれとるからかな」
悠斗が頷く。
すずは静かに窓の外を見つめていた。
「……島の道、好き」
加藤先生が補足する。
「大三島は“神の島”とも呼ばれている。
大山祇神社は、全国の山の神社の総本社だ」
湊は驚いた。
「そんなに大きな神社なんだ」
「歴史は古いぞ。
平安時代の武将たちも、
ここで戦勝祈願をしたと言われている」
バスが島の中心部に入ると、
空気が少しひんやりと変わった。
(松山とも今治とも違う。
“森の匂い”がする)
大山祇神社の鳥居に着くと、
五人は自然と足を止めた。
「……すごい」
ひよりが小さく呟く。
鳥居の向こうには、
まっすぐ伸びる参道と、
両脇にそびえる巨大な楠。
悠斗が見上げる。
「でっか……!
これ何百年あるんや?」
加藤先生が答える。
「樹齢2600年と言われている“乎知命御手植の楠”だ。
日本でも屈指の古木だぞ」
湊は思わず息を呑んだ。
(2600年……
そんな時間をここで過ごしてきたのか)
すずは木の幹にそっと手を当てた。
「……あったかい」
ひよりも触れてみる。
「ほんとだ……生きとるって感じがするね」
参道を歩くと、
砂利の音が静かに響いた。
風が木々を揺らし、
葉のざわめきが頭上を通り抜ける。
(ここだけ時間がゆっくり流れてるみたいだ)
拝殿に着くと、
五人は並んで手を合わせた。
湊は目を閉じた。
(旅が無事に続きますように)
ひよりは静かに祈り、
悠斗は「部活が強くなりますように」と心の中で呟き、
すずは短く息を吸って手を合わせた。
加藤先生は、
少し離れた場所で深く頭を下げていた。
拝殿の横には、
宝物館があった。
「ここ、すごいんよ」
ひよりが言う。
「“国宝の武具”が日本一多いんよ。
源義経とか、弁慶のものもあるんよ」
悠斗が驚く。
「マジで!?
そんな歴史の宝庫なん!?」
加藤先生が頷く。
「大山祇神社は“武士の聖地”とも呼ばれている。
戦国武将たちが奉納した鎧や刀が残っているんだ」
湊は展示室に入ると、
思わず息を呑んだ。
古い鎧、
重厚な刀、
色褪せた布。
(何百年も前の人たちが、
これを身につけて戦ったんだ)
すずが静かに言った。
「……重いけど、きれい」
ひよりが頷く。
「昔の人って、すごいよね」
悠斗は鎧の前で腕を組む。
「これ着て走るん、めっちゃ大変やろな……」
加藤先生が笑う。
「だからこそ“祈り”が必要だったんだよ」
湊は展示を見ながら思った。
(今治の旅って、
ただ楽しいだけじゃないんだ)
宝物館を出ると、
境内の空気がまた心地よく感じられた。
ひよりが言う。
「このあと、
大三島の海も見に行こ?」
悠斗が拳を握る。
「行く行く!
島の海、絶対きれいや!」
すずも小さく頷いた。
「……潮の匂い、好き」
加藤先生が言う。
「よし、海岸へ向かうぞ。
大三島の海は“しまなみの中でも特別”だ」
湊は歩き出しながら思った。
(旅の2日目、まだまだ続く)
森の匂いを背に、
五人は海へ向かった。




