第33話 今治焼き鳥の夜と、ホテルのゆるい時間
タオル美術館を出る頃には、
空が少しずつ夕方の色に変わり始めていた。
バスに揺られて今治駅前へ戻り、
五人はホテルにチェックインした。
「おお……部屋きれい!」
悠斗がベッドにダイブする。
「ちょ、壊さんといてよ!」
ひよりが慌てて止める。
すずは窓から外を眺めていた。
「……海、見える」
湊も覗き込む。
(港町の夜って、こんなに静かなんだ)
加藤先生が手を叩く。
「よし、荷物置いたら行くぞ。
今治の夜といえば“焼き鳥”だ」
悠斗が跳ね起きた。
「来たーーー!!
今治焼き鳥!!」
ひよりが笑う。
「湊くん、初めてやろ?
今治の焼き鳥は“焼いてない”んよ」
湊が驚く。
「焼いてない……?」
すずが静かに言う。
「……鉄板で押し焼く」
「押し焼く!?」
湊は思わず声を上げた。
加藤先生が笑う。
「まぁ、行けば分かる」
店に入ると、
鉄板の香ばしい匂いが店いっぱいに広がっていた。
「いらっしゃい!」
威勢のいい声が飛ぶ。
メニューには
“皮”“せんざんき”“砂ずり”“親鳥”
といった文字が並んでいる。
ひよりが説明する。
「今治焼き鳥はね、
鉄板に鶏肉を押しつけて焼くんよ。
だから皮がパリパリなんよ」
悠斗が目を輝かせる。
「皮!皮いこ!絶対うまいやつ!」
すずは静かに頷いた。
「……香りがいい」
湊はワクワクしながら待った。
鉄板の上で鶏皮がじゅうっと音を立て、
油が跳ねる。
店員さんが皿を置いた。
「はい、皮ね〜。熱いけん気をつけて」
湊は一口。
「……うまっ!」
パリッとした食感、
噛むほどに広がる旨味、
香ばしい香り。
ひよりが笑う。
「でしょ?
今治の焼き鳥は“皮”が主役なんよ」
悠斗はせんざんきを頬張る。
「うわ、これ唐揚げやん!
外カリッ、中ジューシー!」
加藤先生がビールを飲みながら言う。
「今治の焼き鳥は“鉄板文化”なんだよ。
焼くんじゃなくて“押しつける”」
すずは親鳥をゆっくり噛みしめていた。
「……歯ごたえ、好き」
湊は笑った。
(旅の夜って、なんでこんなに楽しいんだろう)
食事を終えてホテルに戻ると、
五人はロビー横のラウンジに集まった。
「今日、めっちゃ歩いたな」
悠斗がソファに沈む。
「でも楽しかったね」
ひよりが笑う。
すずはタオル美術館で買った小さなタオルを
そっと袋から出した。
「……かわいい」
加藤先生が言う。
「明日は朝から港に行くぞ。
朝の今治は気持ちいいからな」
湊は窓の外を見た。
港の灯りがゆらゆらと揺れ、
夜の海が静かに広がっている。
(明日も楽しみだ)
ひよりが伸びをする。
「そろそろ寝よっか。
明日もいっぱい歩くし」
悠斗が立ち上がる。
「おう!
明日は“朝の今治”撮るで!」
すずも小さく頷いた。
「……早起き、がんばる」
加藤先生が笑う。
「じゃあ、解散。
おやすみ」
五人はそれぞれの部屋へ向かった。
旅の夜は静かに更けていき、
明日の今治がそっと待っていた。




