第32話 タオル美術館と、糸が描く模様
今治港を後にした五人は、
バスに揺られてタオル美術館へ向かっていた。
「タオルで美術館って、どういうことなん?」
悠斗が首をかしげる。
ひよりが笑う。
「行ったら分かるよ。
“糸で描く世界”って感じなんよ」
加藤先生が補足する。
「今治タオルは世界的ブランドだからな。
品質基準が厳しくて、“5秒ルール”ってのがある」
湊が聞き返す。
「5秒ルール?」
「水に落として5秒以内に沈むタオルだけが
“今治タオル”を名乗れるんだ」
悠斗が目を丸くする。
「タオルって沈むん!?
ふわふわやのに!」
すずが静かに言った。
「……吸い込むから」
ひよりが笑う。
「すずちゃん、説明が一番分かりやすい」
バスの窓からは、
緑の丘と広い空が流れていく。
(松山とは違う景色だな)
湊はそう思いながら、
流れる風景を写真に収めた。
タオル美術館に着くと、
白い建物と広い庭園が迎えてくれた。
「うわぁ……綺麗」
ひよりが思わず声を上げる。
建物の中に入ると、
柔らかな色のタオルが壁一面に並び、
糸で作られたアート作品が展示されていた。
湊は驚いた。
「これ……全部タオルの糸で作ってるの?」
加藤先生が頷く。
「そうだ。
タオルは“布”じゃなくて“糸の芸術”なんだよ」
悠斗が巨大なタオルアートを見て叫ぶ。
「でっか!
これ何メートルあるん!?」
ひよりが説明する。
「“タオルアートの森”っていう展示なんよ。
糸を何千本も使って作っとるんよ」
すずは静かに作品を見つめていた。
「……糸が重なって、模様になる」
湊はその言葉に頷いた。
(確かに、近くで見ると一本一本が見える)
展示室の奥には、
タオルの製造工程を紹介するコーナーがあった。
織機の音、
糸巻きの回転、
染色された糸の鮮やかさ。
ひよりが言う。
「今治タオルってね、
“肌に触れた瞬間に分かる”って言われとるんよ」
悠斗がタオルを触って驚く。
「うわ、なんやこれ……
ふわふわ通り越して“空気”みたいや!」
加藤先生が笑う。
「それが今治品質だ」
湊はタオルの柔らかさを指先で確かめた。
(……気持ちいい)
すずがぽつりと言った。
「……触ると、落ち着く」
ひよりが頷く。
「分かる。
なんか“ほっとする”よね」
五人はタオルアートの前で写真を撮り合い、
旅の浮かれた空気が自然と広がっていった。
館内を一通り見終えると、
庭園に出た。
青い空、
緑の芝、
風に揺れる花。
湊は思わず深呼吸した。
(今治って……こんなに気持ちいい場所なんだ)
悠斗が言う。
「次どこ行くん?
まだ時間あるで」
加藤先生が時計を見て言った。
「ホテルにチェックインして休憩したら、
夜は“今治焼き鳥”を食べに行くぞ」
ひよりが歓声を上げる。
「やった!
今治焼き鳥、楽しみ!」
すずも小さく頷いた。
「……香ばしい匂い、好き」
湊は笑った。
(旅って、いいな)
タオル美術館を後にし、
五人は夕方の今治へ向かって歩き出した。




